水田の再生に「人と地球にやさしいICT」を目指す姿を見た――NEC岩波取締役 執行役員常務に聞く日本のCGO(1/2 ページ)

企業の環境対策には、具体的な行動と結果が伴わなければ意味がない――NECの岩波取締役は指摘する。2010年に向けて掲げたCO2削減目標を達成しつつある同社の、環境対策のビジョンと施策を聞く。

» 2010年01月08日 08時00分 公開
[石森将文,ITmedia]

 2009年の後半は、鳩山首相が地球温暖化対策として提言した「1990年比25%」というCO2の削減目標(いわゆる鳩山イニシアチブ)や、COP15(第15回気候変動枠組条約締約国会議)で28カ国の合意に至る紆余曲折といった報道に関連し、地球環境問題が評されることが多かった。各国、各企業ともその必要性は認識しつつも、利害の対立などから、なかなか具体的な施策に移れない――それが現在の環境対策を取り巻く状況といえるのではないか。

 だが今年2010年度を目標とし、2003年に策定したアグレッシブな環境経営目標を「既に、その達成が見えている」と振り返る企業がある。NECだ。

 掛け声を、具体的な施策に落とし込み、達成するのは難しい。「目標をクリアするだけでなく、よりストレッチさせる見込み」(NEC)という成功の背景となる、要因は何か。NEC取締役 執行役員常務の岩波利光氏に聞いた。

環境への取り組みは1970年代にさかのぼる

「地に足を着けた取り組みが必要」と話す岩波氏。当然家庭でも、率先してゴミの分別などを行うという。同氏のお孫さんは、将来“エコ・エクセレンス層”に成長することだろう――

 NECの環境経営ビジョン2010について紹介しよう。これは「NECが直接・間接に排出するCO2相当量を製品の省エネ化、ITソリューションによる削減効果によって2010年度には相殺」すると2003年に掲げた長期ビジョンだ。

 同社の測定によると、例えば2007年度の「NEC製品ユーザーとNEC自身のCO2排出量の合算」が約280万トンで、「NECが提供したITソリューションでユーザー、社会が削減したCO2の量」が約105万トン。つまり、差し引き175万トンのCO2の“赤字”を計上していたという

 だが仮想化、シンクライアント、クラウド、そして業務プロセス改善によるペーパーレス化といった、CO2削減につながるITソリューションの市場投入が本格化した2008年度には、排出量が約232トン、削減量にいたっては前年の倍近い189万トンを記録した(CO2の“赤字幅”は半減以下の約43万トン)。期中のため2009年度の実績値は測定中だが、2008年度実績から改善を見ることは間違いなく、「2010年度中の目標達成は視野に入った」(岩波氏)と評価する。

 同時に岩波氏は、「そもそも、現在もたらされた成果は、一朝一夕のものではない」と指摘する。直接の原点は1970年代以前までさかのぼるという。

 当時NECの社長を務めていた小林宏治氏(松下幸之助氏がコンピュータ事業からの撤退を決めた際、小林氏は「今でこそソロバンが合わないが、コンピュータ事業は将来必ず、家庭電器の分野にも不可欠なものになる」と論じたエピソードがある。また、現在にいたるまでNECの企業スローガンである「C&C:Computer & Communication」を提唱した)が米国を訪れた際見たものは、公害問題に激しく揺れる米国産業界の姿であった。

 「これは必ず、太平洋を渡り、日本でも起こる問題だ」――そう認識した小林氏は、帰国してすぐ環境対策を主管とする「公害防止環境管理部」を設置。それが、1970年のことである。

 だが当時は、ISO14000シリーズのような環境マネジメントシステムは整備されていない。そこで公害防止環境管理部では「環境対策を評価する枠組みと、教育システムについて、手探りしながら策定を進めたのが活動の端緒」(岩波氏)だという。

NECによる排出量の算定方法について

事業活動によるCO2排出量については、使用した電気、ガス、重油などの料金をもとに、各部署が随時システムに実績を入力し、自動集計される。また製品使用による排出については、NEC製品はすべて、開発段階で定格電力と年間の(見込み)消費電力量が登録されており、それをもとに“出荷した製品がどれだけCO2を排出しているか”を算定している。

 NECが提供するITソリューションにより、市場で削減されたCO2については、(ITソリューション、といっても多種にわたるため)各領域の代表的ソリューションを評価し、出荷ベースで割り戻してCO2削減効果を算出する手法をとるという。例示すると、“A領域の代表ソリューションの売上が1億円でCO2削減量が100トン。A領域ソリューションの全売上高が100億円なら、1万トンのCO2削減効果と見込み、同様にB領域、C領域、と足し合わせ、全CO2削減量を算定する”という具合だ。

 なお上でいう“各領域の代表的ソリューション”のCO2削減効果は、以下の7つの視点から評価するという。

1 機器使用の消費電力の増減(サーバ集約=CO2削減、手作業のIT化=CO2増加)

2 紙使用の削減:紙1枚当たりのCO2排出量×削減枚数

3 人移動の削減:鉄道、飛行機、自動車等の距離当たりのCO2排出量×削減距離

4 物移動の削減:モノの移動の際のCO2排出×削減距離

5 物使用の削減:CD媒体等の製造の際のCO2排出×削減量

6 物保管の削減:保管場所の光熱費(CO2換算)×削減量

7 ネットワーク利用による増加:IP網利用の際のCO2排出増加量


エコ・エクセレンス層が、ほぼ倍増

 公害防止環境管理部の設置から生まれた活動は数多いが、NECグループの従業員にお馴染みとなっているものは、毎年11月に実施される「環境意識調査」である。実施8回目を迎えた2009年も、約7万6000人を対象に実施されたこの調査は、大きく「環境に対する知識」と「環境に良い行動」の2つの軸で環境意識を測るものだ。

 知識もあり、それに順じた行動を取っていると評価された従業員は、エコ・エクセレンス層と認定される。実施初回に認定されたのは20%台という数字にとどまったが、2009年度には50%強まで向上。ほぼ倍増である。「回を重ねるごとに参加者の数も増大している。毎年実施する環境教育や事業における環境競争力の強化・推進を通じて従業員の意識は着実に高まっている。2010年に100%を目指して取り組んできたことが、この結果につながったのだろう」と岩波氏は話す。

 同社では、例えば営業マンがユーザーへ提案を行う際に、「そのシステムを導入することで環境負荷がどれだけ減らせるか」を示すエコ・アピールを行うことも目標に掲げて実践している。「製品の設計者はもちろん、全ての業務プロセスに関わる社員が環境を意識する仕組みが浸透している」(岩波氏)という。

 全従業員をエコ・エクセレンス層にする一方で、環境経営を高めるための監査体制も強化している。「グループ全体で環境監査を行う体制は、CEARの主任審査員などの有資格者が常に130人程擁している。これは他社に抜きん出た数字」(岩波氏)だという。

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