ERP導入という「お作法」の変化を経て、企業はこの15年間にさまざまな経験を積んできた。今後、企業はITをどのような考え方で活用していくのか。戦略コンサルティングファーム独ローランド・ベルガーに寄稿してもらう。
所有から利用への流れが現実味を帯びるなど、企業が活用するITの在り方が変化しつつある。今後、企業は情報システムをどのような考え方で運営していくべきか。戦略コンサルティングファーム独ローランド・ベルガーに連載してもらう。1回目は、東京オフィスの大野隆司パートナーにパラダイムの転換をテーマに話してもらった。
モノの「見方や考え方」を規定するパラダイムというものがあり、企業の情報システムの世界にもパラダイムはあります。
企業の情報システムは、この15年間で大きく変化しました。これからの数年間、わたしたちは新たなパラダイムへの変化の中を過ごすことになります。企業の情報システム関係者や、そこでビジネスをするさまざまなベンダーには、新たなパラダイムを踏まえた立ち居振る舞いが強く求められます。
大企業の情報システムは1980年代以前から進められてきました。かつての国鉄の構築した「マルス」(旅客販売総合システム)のような世界的にみてもすごいシステムが1960年代に既に稼働していました。ただし、ITが経営課題として真剣に意識されてきたのは1990年代半ば以降からです。設備投資に占める情報化投資の比率は1995年に15%を初めて超え、その後20%くらいの規模のものとして定着してきました。
ITがビジネスを実行していく上で不可欠な要素になってきたことが背景として挙げられます。不可欠であることを、もうちょっと正確に言えば「業務にITが密接に組み込まれてきた」ということです。四半期決算の実施も、グローバルでの在庫管理も、受注処理も発注処理も、ITなくしては話になりません。多くの経営者は、2000年問題のときに体感したといえるでしょう。
この15年でのITの製品・サービスも多種多様なものが登場してきました。というと一般には「インターネット」「Windows 95」という話になります。確かに、1990年代初頭でも、すべての従業員にPCがいきわたり、抵抗なくキーボードを使いこなすような状況は想像しにくいものでした。しかし、「企業の」情報システムという視点に立つと、ERPの登場が最もインパクトの大きい出来事だったといえます。
1990年代にERPベンダーが日本に入ってきたことで、企業の情報システムを大きく変えました。といっても「情報をリアルタイムで経営に生かしうんぬん」という話ではありません。変えたのはシステム構築における「お作法」です。
「独自のシステムをゼロから設計・開発(カスタム構築などという)」という今までのお作法を「最もフィットしそうなパッケージ製品を市場から調達し、足りない、変えたい部分を独自に開発してくっつける」に変えたわけです。
1990年代後半の新規システム構築や置き換えのプロジェクトでは、A社制ERP、B社制ERP、そしてカスタム構築の比較、という光景はまだよく見られ、企業も「出来合いの」システムにアレルギーや不信感を持っているのが一般的でした。しかし、現在ではよほど特殊なシステムでない限りは、カスタム構築という選択肢にはなかなかお目にかかりません。
企業側も、ずいぶんと「さばけてきたんだな」と改めて思います。昨今「クラウドコンピューティング」という言葉が流行しています。日本経済新聞の記事数でみると2008年にはゼロだったものが、2009年には140件という急増ぶりです。クラウドでは「(システムの)所有から利用へ」を訴求しており、「出来合い」へのアレルギー払拭のための総仕上げともいえるかもしれません。
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