「情報弱者」をどう救う? どう評価する?萩原栄幸が斬る! IT時事刻々(1/2 ページ)

ネットが苦手な人を「情報弱者」と呼ぶ人がいるが、実はネットばかりではない――。デビットカードにまつわる筆者の経験から、「情報弱者」の問題を解決する方法をビジネスの観点で考えてみたい。

» 2011年06月18日 08時00分 公開
[萩原栄幸,ITmedia]

本コラムは、情報セキュリティの専門家・萩原栄幸氏がITとビジネスの世界で見落とされがちな、“目からウロコ”のポイントに鋭く切り込みます。


 最近、Twitterを使った割引キャンペーンをする店が増加している。時には半額、7割引や9割引もあるのだから驚く。でも、経営の側からこの効果を考えると、ふと疑問に思うことがある。ネット販売が中心ではない一般の店でのこのような活動は、「常連さん」たちをないがしろにしてしまうのではないだろうか。

 ある町のステーキ屋のTwitterでのツイート に、「本日限定! 先着20人に限り、半額」というものがあった。その日は賑わったそうである。しかし、常連さんからの苦情が多数寄せられていたらしい。「騒がしくてまともに食事ができない」「静かな雰囲気が好きだったのに、(一見客の騒ぎで)行く気がしなくなった」「Twitterというのを利用した人だけが安いとはいかがなものか」といった声である。

 筆者は仕事柄、企業セミナーに参加する機会が多い。来場者を見ていると、Twitterを使いこなしているのは30代までの若者の一部で、60代以降はほとんどその意味も知らない。50代でも理解しているのは半数程度だろうか。使ったことのある人は一部だ。

 このような状況の中で、町のステーキ屋――客単価はチェーン店よりも相当に高い――の商圏は、近傍の住民でほとんど占められていると考えられる。常連の人は、貯蓄にも余裕がある40代以降の中高年層が中心ではなかろうか。その店の店主は30代の二代目であると聞き、とても残念に感じたのである。もしTwitterでの割引キャンペーンを継続されたのであれば、50代の筆者が常連客なら、もう行かないだろう。「一見客」で賑やかな若者たちが連日のように常連客と同じメニューを“半額”で食べ、スマートフォンや携帯電話を操作しながら食べ散らかすに違いないと思われる。これならファミレスの方がいい。

 常連客はこの店の雰囲気を好み、そこで感じることができる、“リッチな”気分と味にお金を出すのである。若い経営者は、「時代の先端を行く」という自己満足に近い感覚で集客を思いついたのだろう。だが、常連客の多くが年配者であることを考えていない戦略では、極めて残念な結果しか生まないのではないか。この世代には「PCをあまり使ったことがない」という人が多く、携帯電話はもとより、スマートフォンも使いこなしているという人を筆者はほとんど知らない。このような人は「情報弱者」と呼ばれる。しかし、実は一番“懐が潤っている”層なのである。店主の売上強化策には、もっと工夫の余地があったのではないだろうか……。

デビットカードでも生まれた「情報弱者」

 筆者は現職の前まで銀行員であった。その仕事の中で「情報弱者」を強く意識する出来事があった。それは「デビットカード」である。そもそも読者はデビットカードをご存知だろうか。

 デビットとはクレジットの反対語で「即時決済」という意味である。銀行のキャッシュカードがクレジットカードと同じように使えるものだ。店舗で入力する「パスワード」と同じ機能を「暗証番号」が持つ。この番号はキャッシュカードと同じ4けたの数字である。ただし、身近な日本での仕組みは諸外国で流通している「デビットカード」とは異なる固有のものであるため、「Jデビットカード」という表記で区別できるようにした。これが一般に使われるようになったのは1999年で、本格的には2000年以降であった。

 ただし、これにはさまざまな疑問があった。主要行(当時の都銀)の中で唯一「Jデビットカード」の協議会に加入せず、デビットカードとしてキャッシュカードが使えなかったのが筆者の出身行である「三菱」だった。この導入の可否について、筆者は当時の情報担当役員(CIO)に「本当に“右にならえ”で協議会に加盟しますか? 私は絶対に反対です」と伝えたところ、「心配する必要はない。恐らく“そうなる”から」と言われ、安心したことがあった。なぜなら、Jデビットカードの導入は準備期間があまりにも短く、ほとんど告知されていなかったのである。せいぜい、店頭での広報やWebサイト、マスコミのニュースによる発表だけであった。

 Jデビットカードは、その性質から個人に情報を周知させるだけでなく、その実施の合意(コンセンサス)が確立されている必要があると、筆者は考えていた。ところが、銀行側からある日一方的に、「今持っているキャッシュカードが本屋やレストランでクレジットカードのように使える」となったのである。これは金融機関の傲慢(ごうまん)さに他ならないと、筆者は強く感じた。ここで「情報弱者」という言葉が出た。情報弱者――ほとんどは年配者だと思われる――と言われる人の多くが、Jデビットカード自体のことを知らないままに制度が始まった。

 このデビットで使われた金額はクレジットとは違い、利用者に全ての責任がある。クレジットには、盗難や紛失によって不正使用が行われても本来の利用者を保護する仕組みがあるが、デビットの場合は何の保証もない。つまり、全てが“盗られ損”となってしまう問題を秘めており、金融機関は利用者の利便性向上とアピールしたが、情報弱者にとってはリスクが大きくなるだけだった。これが、筆者が問題としていた理由である。

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