レッドハットが先週、Red Hat Enterprise Linuxの基幹システム向けサポート強化を発表した会見で、メガバンクのCIOが基幹OSとしてのLinuxについて語った。
レッドハットが4月11日、Red Hat Enterprise Linux(RHEL)5および6のサポート期間を、これまでの7年から10年に延長すると発表した。
また、ミッションクリティカル分野向けの追加サポートである「Red Hat Advanced Mission-Critical Program」(AMC)をRHEL 6にも適用することと、AMCでのRHEL 5のサポート期間を13年(2020年まで)に延長することも発表した。
AMCについては、ミッションクリティカル分野で実績を持つパートナーである富士通、日立製作所、NECとの協業によって提供される。
これにより、ミッションクリティカルなシステムに対して安心、安定したプラットフォームが提供され、ユーザー企業は自社のスケジュールに沿ったアプリケーションソフトの導入や更新を行うことができるようになるとしている。
同日行われた会見には、富士通、日立、NECの幹部も登壇。各社とも異口同音に「今回の発表は、情報システムを長期にわたり安定稼働させるニーズにまさに応えたもの」と歓迎の意を示した。
今回発表されたサポート強化の詳しい内容は関連記事等を参照いただくとして、ここではユーザー企業の代表として会見に同席した三菱東京UFJ銀行の村林聡常務執行役員の話が興味深かったのでクローズアップしてみたい。
特定のITベンダーの事業に関する会見に、メガバンクのCIOが登壇するのは珍しい。その意味でも注目される中、村林氏は「金融機関のシステム担当者が会見で話をするのは、あまり良い出来事でない時が多いかもしれないが、今日は良い出来事なので嬉しく思ってこの場に立っている」と前置きしながら、今回のレッドハットの発表内容や基幹OSとしてのLinuxについて次のように語った。
まず、今回の発表内容については、「私どもでは10年ほど前からLinuxを基幹システムに適用するというチャレンジに取り組み、仲間作りをしながら事例や改善点などの情報共有に努め、コミュニティーやレッドハットをはじめとした関連ベンダーにさまざまなリクエストを行ってきた。今回の発表は、そうした私たちユーザーの声を真摯に受け止めていただいた結果だと考えている」と評価。そのうえで「これによって、Linuxを基幹システムに適用することが、チャレンジではなく当たり前のことになる」との見解を示した。
また、今後の展開についても「私どもでは今、新たなITの利用環境としてプライベートクラウドの構築を進めている。RHELはその中核を担うOSとして活用領域をさらに広げていく計画だ。今後もレッドハットおよびパートナー各社と強力なリレーションシップを継続し、ユーザーサイドからRHELの一層の進展に寄与していきたい」と力強いメッセージを送った。
村林氏のRHEL、つまりはLinuxへの力の入れようは相当なものだ。なぜ、Linuxに注力するのか。会見ではそこまで言及しなかったが、レッドハットの広報紙(「OPEN EYE 2010年夏号)で同氏がその点について語っているので抜粋して紹介しておこう。
まず、三菱東京UFJ銀行がオープンソース(OSS)に取り組み始めたのは2003年からとのこと。同年秋のLinuxオープンワールドの基調講演で、これからは積極的にOSSを活用していくと宣言したという。
その理由について村林氏は、「当時、日本でOSSを活用しているところは少なく、UNIXやWindowsが主流だった。そうした中でOSSやLinux活用のメリットとして説いたのは、例えばパワーのあるIAサーバをユーザーが自由に使えること。また、OSSは世界中の人々がソースを見ていて共同でコミュニティーを運営しているので、開発に携わる人も多くなっていき、品質も向上し続ける。さらに、保守的なイメージが強い金融機関が積極的に活用すると宣言すれば、より多くの企業が利用するようになると考えた」と語っている。
こんなコメントもある。「銀行のサービスはITがますます重要な役割を担っている。となると、システムのコストパフォーマンスや変化に対応するスピードが優れていないと、競合他社に対して強みを発揮することはできない。例えば、急いで修正しなければいけない部分があったと仮定して、プロダクトだと修正に時間がかかるものでも、OSSやLinuxだと自分たちで素早く修正できる場合もある。OSSには共通基盤としてのメリットを享受しながら、独自の競争力を生み出す自由を与えてくれるという良さがある」
そして最後にこう語っている。「日本企業のIT部門においては、欧米のアプリケーションをそのまま活用する傾向が未だに強く残っている。しかし、OSSを活用すれば日本企業の業務に役立つ日本発のシステムを構築することが可能になる。OSSを活用することで、同じくOSSを活用する他の企業が培った技術を享受することができ、また自社で開発した技術をより多くのユーザーのために活用してもらうことができる。それが業務や経営に役立つ日本発のITの確立につながっていくのではないか」
LinuxをはじめとしたOSSを企業競争力、さらには日本発のITの源泉に、というのが村林氏の強い思いのようだ。ITの利用環境が大きく変わろうとする今、あらためて「オープンとはどういうことか」をよく考えてみる必要があると感じた。
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