モバイルデバイスの導入、戸惑いながら準備を始める企業スマートフォン/タブレット時代の幕開け(1/2 ページ)

多くの企業がスマートフォンやタブレット端末を自社に情報システムに取り込むための準備を始めた。IT統制やセキュリティ面での取り組みが進んでいる一方で、デバイスの管理については「これから」という段階だ。

» 2012年07月09日 10時00分 公開
[ITmedia]

用途が分からなくても「まずは準備」

 MM総研の調査によれば、2012年に国内のモバイル端末出荷台数においてスマートフォンが携帯電話を超えた。「ガラケー」ともいわれる日本独自仕様の携帯電話(フィーチャーフォン)がスマートフォンに取って代わるのも時間の問題だろう。そんな本格的なスマートフォン時代への突入を控えて、企業には情報システムのスマートフォン対応という課題が突きつけられている。

 2011年秋にITmedia エンタープライズが実施したモバイル端末に関する読者調査をみると、多くの企業が「具体的な利用用途が分からない」「新たなコストがかかる」「セキュリティに不安がある」「費用対効果が不明」などの理由から、スマートフォン導入に至っていないことが分かった(グラフ1)。実際に調査対象企業の約3分の1がスマートフォンを導入しておらず、タブレット端末もほぼ同様の結果だった。

グラフ1 グラフ1:企業がスマートフォンを導入しない理由(出典:ITmedia エンタープライズ リサーチインタラクティブ)

 とはいえ、企業側がスマートフォンやタブレット端末の運用管理を全くしていないというわけではない。スマートフォンやタブレット端末を会社の標準端末として、または個別申請の上で社員に貸与する企業では、当然のことながら運用管理を実施している。運用管理施策の中で多くの企業が導入しているのは、「専用の規定やポリシーの整備」「クライアントセキュリティソフトの導入」「リモートワイプ(遠隔データ消去)機能の導入」などである。

 企業が規定やポリシーを決めずして、スマートフォンやタブレット端末を導入・運用することはまず考えられない。既に正式導入していれば、対応も完了しているだろう。クライアントセキュリティソフトについては、例えば、NTTドコモのAndroid搭載スマートフォン向けサービス「ドコモ あんしんスキャン」のように、通信事業者側が無償で提供している場合もある。同様に、遠隔操作によって盗難や紛失にあった端末のデータを消去できる「リモートワイプ機能」も、スマートフォンやタブレット端末を取り扱うほぼ全ての通信事業者がサービスなどで提供している。こうしてみると、企業にとってスマートフォンやタブレット端末の導入は、それほどハードルが高いわけではないだろう。

「MDM+運用管理ツール」という最適解

 企業の情報システム部門にとっては、スマートフォンやタブレット端末の導入において、ほかにも解決すべき課題がある。セキュリティソフトやリモートワイプなどの機能を通信事業者に頼ってしまうと、自分たちの運用管理業務がやっかいになる。また事業継続性の向上や災害対策の視点からも、特定の通信事業者に頼ってしまう状況はリスクがある。東日本大震災では地域の被災状況と通信事業者によって「つながりやすさ」に差が生じた。通信環境を確保するために複数の通信事業者と契約を結び、さらに各事業者のサービスを利用してスマートフォンやタブレット端末を管理していくとなると、情報システム部門の負担はさらに大きくなる。

 管理者の立場でスマートフォンやタブレット端末をみた場合、管理性を高めるという点において最も期待するのが、MDM(モバイルデバイス管理)製品やソリューションの導入だ。多くの企業がMDMのメリットに関心を寄せているようだ。実際に導入してはいないものの、導入を予定・検討している企業は多い。MDMを利用すれば、端末を盗まれたり、紛失してしまったりした場合でも、第三者に不正に使われないようロックを掛けたり、遠隔操作でデータを消去したりといった対策を通信事業者のサービスに依存することなく講じられる。セキュリティソフトと連携すれば、より安全だろう。

 たが、残された障壁もある。MDMを導入したとしても、基本的には“万一の事態に備える”ことに重点が置かれ、不慣れな運用を強いられる恐れがあるのだ。またMDM専用の製品やソリューションの中には、スマートフォンやタブレット端末の管理に必要な情報を活用できない場合がある。それらの情報を資産管理や更新管理に活用するには、別の運用管理ツールを用意しなければならない。

 こうした運用上の混乱を避けるには、日常的に利用している運用管理ツールにMDMの機能が用意されていると非常に心強い。日立製作所の資産・配布管理製品「JP1/IT Desktop Management(JP1/ITDM)」をはじめ、多くの運用管理ソフトウェアでスマートフォン対応やMDM製品との連携が進められている。こうした製品を利用して、PCにスマートフォンやタブレット端末を加えた一元的な資産管理を実現することが近道になるだろう。

スマートフォンのOSはAndroid? iOS?

 ITmedia エンタープライズの読者調査ではスマートフォンやタブレット端末の導入で選定対象とするOSについても質問している。興味深い結果が出ており、スマートフォンとタブレットの双方で「Android」と「iOS」を挙げた企業が非常に多いのだ(グラフ2)。

グラフ2 グラフ2:今後スマートフォンを導入する場合、選定対象とするOS(出典:ITmedia エンタープライズ リサーチインタラクティブ)

 AndroidやiOSはコンシューマー向け製品では主流だ。世界的に数多くのビジネスユーザーを獲得しているBlackBerryは、日本市場ではそれほど多いという状況になく、MicrosoftのWindows Phoneも調査時点ではまだ苦戦を強いられていた。

 だが企業の管理者としてモバイルデバイスのOSをみた場合、コンシューマー市場の動きだけで、AndroidかiOSかを選択することにはならないだろう。国内外の端末メーカーがこぞって採用するAndroidは、オープンソースのLinuxがベースとなっているだけにカスタマイズの自由度が高く、同じAndroidながらメーカーによって機能面などの差が大きい。同じメーカーでも機種によってバージョンが異なる場合もあり、管理者にとってAndroidはやっかいなOSとなっている。

 さらに、やっかいなのがアプリケーションの提供環境である。開発元のGoogleが運営する「Google Play Store」に加え、通信事業者や端末メーカーといったサードパーティが独自に運営するアプリケーションマーケットが存在する。一部のマーケットでは公開されるアプリケーションの事前審査が適切に行われていない。そのためにマルウェアをはじめとする悪質なアプリケーションがマーケットから配布されてしまう。Androidはモバイル向けOSの中で最も脅威にさらされる危険が高いのだ。バージョンの相違は端末管理やセキュリティ対策など管理者の業務の負担を増大させる。そうならないためにも、MDMのようなソリューションが必要になってくるわけだ。

 iOSはAndroidの真逆である。Apple特有とも言えるが、同社は端末やOSの技術や仕様を広く公開することはないので、iOSも実にプロプライエタリな環境となっている。企業が社内限定のアプリケーションを配布する場合でも、App Storeを経由させるか、iOSデベロッパエンタープライズプログラムなど有償の開発者向けプログラムに参加しなければならない。iOS製品は使い勝手の良さ、洗練されたデザインがユーザーから支持されてはいるものの、企業の大規模導入に対応した管理性などは十分ではない。

 管理面で考えると、企業にとって最も扱いやすいのモバイルデバイスはWindows Phoneの前身であるWindows Mobile、あるいはWindows 7を搭載するタブレット端末かもしれない。Windows Mobileは、AndroidやiOSほどには一般に広がらなかったが、PC向けWindows並みの端末管理性が特徴だった。Windowsに慣れ親しんだ企業の管理者にとってはなじみやすいものだったのだ。Windows Mobileの後継となるWindows Phoneは、従来のとは一線を画す新しいユーザーインタフェース「Metro」を採用し、アプリケーションもマーケット経由で配布するなど、AndroidやiOSと似たような方式を採用している。このため、管理者視点では扱いにくくなってしまった。

 Microsoft製品を数多く利用する環境であれば、統合的な管理性を確保できる利点があるものの、Windows Phoneに対応していないMDMの製品もあるので、現状では「様子見」せざるを得ない。企業であっても現時点ではAndroidとiOSが現実的な選択肢となる。MDM側の対応も進んでいるので、スマートフォンやタブレット端末の導入ではMDMの活用を念頭に置くべきだろう。


 「社長がスマートフォンを買ったみたいですよ」……トップダウンでのモバイル導入に迫られた企業の情報システム部ではどう対処していったのか、ある企業でのシーンを次に紹介してみたい。

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