オラクルが語る「カスタマーエクスペリエンス」Weekly Memo

「experience(エクスペリエンス)」という言葉が最近、IT業界で盛んに使われるようになってきた。直訳すれば「経験、体験」だが、使い方には注意も必要なようだ。

» 2012年08月06日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

「Oracle Customer Experience」が登場

 「カスタマーエクスペリエンスは、オラクルがこれから最も注力していく事業領域の1つだ」

 日本オラクルの遠藤隆雄社長は、同社が7月26日に開いた新ソリューションの発表会見でこう強調した。発表された新ソリューションは、企業のカスタマーエクスペリエンスの向上を支援するオラクルの製品群「Oracle Customer Experience(以下、Oracle CX)」である。

会見に臨む日本オラクルの遠藤隆雄社長 会見に臨む日本オラクルの遠藤隆雄社長

 同社によると、カスタマーエクスペリエンスとは「製品・サービスを購買、利用する際の一連のプロセスにおける顧客の経験価値」のことだという。例えば、製品やサービスを選択する際の情報収集、Webサイトや店舗での購買、保守サービスの利用や問い合わせなどが、カスタマーエクスペリエンスを向上させる機会になるとしている。

 遠藤氏はカスタマーエクスペリエンスの重要性について、「製品やサービスを他人に薦める一番の理由として『素晴らしい対応を受けたとき」が55%でトップとなり、『商品の良さ』や『価格の安さ』を上回った。一方で、ひどいカスタマーエクスペリエンスを感じた場合、89%が競合他社から購入すると答え、それに対する苦情をオンライン上でシェアするという人も78%を占めた」という顧客調査のデータを披露した。

 そして、「お客様が製品やサービスに感動するのは、期待値を超えるものの提供を受けたとき。それによって、提供した側はビジネス拡大につながり、他社との差別化も図れる。その意味では、カスタマーエクスペリエンスは重要な経営戦略だ」と強調した。

 ではOracle CXはどういったものか。その製品群は、利便性の高い検索の仕組みに「Oracle Endeca」、ユーザーの嗜好に合ったWebサイト構築の仕組みに「Oracle WebCenter Sites」、ECサイトにおける電子決済の仕組みに「Oracle ATG Web Commerce」、カスタマーサービスの仕組みに「Oracle RightNow CX Cloud Service」と「Oracle Knowledge Management」、マーケティングキャンペーンの実施や顧客情報の統合に「Oracle CRM」といった具合だ。

 加えて、ソーシャルネットワーク上の情報や製品の販売実績などを収集して分析するための仕組みとして、非構造化データと構造化データの収集と分析を行う「Oracle Endeca Information Discovery」とデータベースマシン「Oracle Exadata Database Machine」を活用する。

商売っ気が透けて見えると逆効果にも

 さらに、これらの製品を組み合わせることで、次の3つの統合されたソリューションを展開していくという。

 まず1つ目は、クロスチャネル型EC・セールス&マーケティングソリューション。Webサイト、店舗や電話など顧客との接点となるさまざまなチャネルを横断し、製品やサービスの販売やマーケティング活動を支援するものだ。Oracle CXのリコメンド機能により、購買者に最も関連性の高い製品やサービスを複数のチャネルを通じて提案する。また、個々の顧客の特性を把握したマーケティング活動もを実行可能。これにより、Webサイトへの継続的な訪問を促し、製品やサービスの購買と利用に結びつける一連のプロセスにおけるカスタマーエクスペリエンスを向上することができるとしている。

 2つ目は、クロスチャネル型カスタマーサービスソリューション。Webサイト、コンタクトセンター、ソーシャルネットワークを通じたカスタマーサービス機能を提供するOracle CXにより、あらゆるチャネルで消費者をはじめとする企業の顧客の要望を捕捉、追跡し、適切に対応することができる。また、過去の問い合わせ履歴をもとにナレッジを蓄積・管理する機能とWebによるセルフサービス機能を組み合わせることで、企業の顧客自身が迅速かつ容易に疑問を解決することを可能にするとしている。

 そして3つ目は、顧客動向分析&最適化ソリューション。消費者をはじめとする企業の顧客のニーズに迅速に対応するためには、その顧客の動向を迅速に把握して適時適切に対応する必要がある。このソリューションでは、ソーシャルネットワークにおける話題、販売や問い合わせ実績をもとに顧客動向に関する合理的な情報をリアルタイムかつ統合的に可視化し、分析できる仕組みを提供するとしている。

 こうしたソリューション展開は、さまざまな製品・サービスを持つオラクルならではのマーケティング戦略である。中でもキーワードとなる「エクスペリエンス」は、筆者の記憶ではマイクロソフトがWindows XPの名称の由来として使い始め、その後、同社が「ユーザーエクスペリエンス」という言葉を頻繁に使うようになり、これが業界全体に広がっていったという印象がある。オラクルはこの「ユーザー」を「カスタマー」に置き換えて、企業向けのソリューションに仕立てた格好だ。

 ただ、カスタマーエクスペリエンスもユーザーエクスペリエンスも、「顧客(ユーザー)が得る感動体験」とするならば、それをベンダー自らが声高に言うのはいかがなものか、感動体験なるものの押し付けではないか、との見方があるのも事実だ。確かに、エクスペリエンスは感性に訴える言葉だけに、商売っ気が透けて見えると逆効果になりかねない。

 そんな感覚も踏まえたうえで、日本オラクル製品事業統括アプリケーション事業統括本部CRM/HCM事業本部長の道下和良氏が会見で語ったコメントを最後に紹介しておきたい。

 「カスタマーエクスペリエンスは、取り組みようによって企業にポジティブにも働くしネガティブにも働く。したがって、企業としてこれをどうデザインしていくか、真剣に考えなくてはいけない時代が来ているのではないか」

 全く同感だ。せっかく広く認知され始めたエクスペリエンスという言葉とその感触、上手に活用したいものである。

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