成長の鍵を握る富士通のマーケティング部門(最終回)田中克己の「ニッポンのIT企業」(1/2 ページ)

マーケティング部門を強化する富士通は、今年4月に製品別組織、業種別組織などに配置するマーケティング担当者を集約し、1000人を超える大所帯に再編した。

» 2012年11月15日 14時30分 公開
[田中克己(IT産業ウオッチャー),ITmedia]

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 富士通がマーケティング部門を強化、拡充し始めている。2012年4月に製品別組織、業種別組織などに配置するマーケティング担当者を集約し、1000人を超える大所帯に再編した。そのマーケティング部門を統括する佐相秀幸代表取締役副社長の優先事項の一つは、IT産業の構造変革に対応し、富士通を再び成長路線に乗せることだろう。世界に通用する商品、サービスを一日も早く世に送り出すことでもある。(第1回:サービス事業に活路を求める富士通、第2回:プロダクト事業の行く末、第3回:グローバルで勝つための道

新サービスモデルの構築

 富士通の山本正已社長は1年ほど前、「目指すのはクラウドの垂直統合だ。テクノロジーをベースにしたサービスモデルを作り上げる」と決意を語っていた。パソコンやスマート端末から、サーバ、ミドルウェア、ネットワーク、サービスを自社でそろえるのはそのためだという。

 こうした技術を社内に持ち続けることは、欧米ITベンダとの協業関係を築く上でも欠かせない。富士通1社で、ユーザーのすべての要求を満たすのは難しいからだ。その一環から、米Oracleや独SAPなどと協業する。米Microsoftの「Windows Azure」や米salesforce.comのCRM(顧客情報管理)といったクラウドサービスも扱う。

 半面、世界をリードする商品やサービスを開発してこなかったという見方ができる。ある富士通関係者は「スーパーコンピュータ『京』がある」と自慢するが、「そこに投資を振り向け過ぎて、他部門の予算が削られた」と指摘する富士通関係者もいる。

 山本社長は守りから攻めに転じることを強調している。確かに、有利子負債が2011年度に3811億円となり、2002年度の6分の1に削減した一方、キャッシュフローが充実してきた。新しいことに挑戦する意欲、行動力、そして考える力を持ち続けていることだろう。その力で、例えば、アプリケーション領域で革新を起こすこともできるだろう。

 富士通は数多くのアプリケーション開発に携わってきたが、それらを汎用化、パッケージ化し、ソリューション体系として整理するのには出遅れた感がある。「ユーザーに寄り添う視点が強すぎた」(佐相副社長)からだ。そこで、IT基盤「TRIOLE(トリオーレ)」を拡充し、カバーする領域を増やしていくという。「穴があれば、自社開発したり、オープンソースソフトを活用したりする。アライアンスもする」(同)。ITサービスの工業化への取り組みになる。

 ただし、佐相副社長は「選択と集中」を好まないようだ。「割り切り過ぎると、損益管理になり、赤字なら止めるとなってしまう。社内のバリューチェーンを考えると、例えばパソコンや携帯電話は必ず関係する」。顧客の求めるものは変化し、売れていた商品がニーズに合致しなくなることもある。逆に、それほど期待していなかった商品が好調な売れ行きになるということもある。度が過ぎる選択と集中は、技術者らのモチベーションを削ぐことにもなる。

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