大塚商会が進めるサポート業務改革の極意松岡功のThink Management

大塚商会が決算会見で、技術サポートにおける業務改革の取り組みについて初めて公表した。同社の好調な業績を支えるマネジメント施策の1つだが、果たしてその極意とは——。

» 2013年02月07日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

3年連続増収増益の“強さの秘密”

 「これまで9年がかりで取り組んできた技術サポートにおける業務改革の成果が明確に表れるようになってきたので、その内容を公表したい」

 大塚商会の大塚裕司社長が2月1日、同社が開いた2012年12月期決算会見の中でこう切り出した。同社の好調な業績を支えるマネジメント施策として、これまで営業面での業務改革の取り組みについては公表してきたが、技術サポート面について言及したのは今回が初めて。同社の“強さの秘密”がさらに明らかになった格好だ。

 会見に臨む大塚商会の大塚裕司社長 会見に臨む大塚商会の大塚裕司社長

 核心の話の前に、まずは同社の2012年12月期の決算内容について紹介しておくと、連結ベースで、売上高は前期比7.9%増の5157億7100万円、営業利益は同22.3%増の282億5100万円、経常利益は同24.7%増の290億7900万円、当期純利益は同27.7%増の162億7700万円。3年連続の増収増益で、売上高は過去最高となり、初の5000億円超えを達成した。

 マネジメント面から特に注目すべきは、社員1人当たりの売上高と営業利益の推移だ。1998年に比べて2012年は、売上高で51.7%増、営業利益で11.9倍を記録したという。こちらはいずれも単体ベースだが、これまで十数年をかけていかに企業として体質強化を図ってきたかが端的にうかがえる数字である。

 大塚氏は業績が好調に推移した要因として、オールフロント体制や全員参加型の活動、ストックビジネスの強化などの取り組みが奏効したと語った。ちなみに、オールフロント体制とは営業マン一人一人が全製品を対象に複合提案することで、全員参加型の活動とは社員全員で営業に取り組むことをいう。全員参加型の活動については、2012年8月16日掲載の本コラム『大塚商会社長が語る全員参加型マネジメントの真意』で解説しているので参照いただきたい。

 そして、先ほど述べた営業面での業務改革の取り組みを支えているのが、「SPR(Sales Process Re-engineering)」と呼ぶCRMとSFAの機能を併せ持った同社独自のシステムである。これによって、データに基づく科学的なアプローチによる顧客満足と効率的営業を同時に実現しているわけだ。

築き上げた“4次方程式”を解く仕組み

 前振りが長くなったが、ここから核心の話に入る。同社が今回公表した技術サポートにおける業務改革の取り組みにも、サポートエンジニアを対象としたSPRと同様の仕組みを構築・運用していることを明らかにしたのだ。

 同社内ではその仕組みを「S-SPR」と呼ぶ。正確にはSupport Process Re-engineering、すなわちSPRだが、従来の営業向けのSPRと混同するので、あえてこう名付けたという。

 では、S-SPRとはどのような取り組みなのか。大塚氏は次の3点を挙げた。

 まず1つ目は、エンジニアのマルチスキル化およびセンター化の推進だ。具体的には、全く異なるスキルを持つ複写機担当とコンピュータ担当のそれぞれのエンジニアが、複写機担当はコンピュータも、コンピュータ担当は複写機も扱えるようにし、顧客から見て1人のエンジニアが両方ともサポート対応を行う形だ。さらに現場での即座の対応が難しい案件については、バックヤード組織のセンターにフィードバックして対応する体制を整えた。

 2つ目は、サポート業務プロセスの改革だ。例えばアサインの自動化により、案件の内容に応じて過不足のない人員とスキルを提供できるようにした。そして3つ目には、エンジニアの行動管理などを挙げた。これらによって、人員を増やさずにサポートビジネスの拡大と手厚いサポートを提供できる体制づくりを進めているという。

 大塚氏はこうした取り組みによって、S-SPRが目指すものとして、「ワンストップサポート」「顧客満足の向上」「生産性向上」「技術力向上」といった4つのポイントを挙げた。いわばこの“4次方程式”を解く仕組みとして、同社が9年の歳月をかけて築き上げたのがS-SPRである。

 大塚氏によると、その構想づくりは2003年11月からスタートし、およそ3年間の議論を経てシステム開発に着手。2007年にまずエンジニアのスキル管理を行うスキルアセスメントシステムを構築し、2009年から自動アサインシステムなども含めて運用を始めたという。

 その成果として、大塚氏は複写機のサポートにおいて、「2009年から2012年の間に、サポート対象となる複写機が1万1805台増えた。これに対して本来ならばエンジニアを315人増員する必要があるが、マルチスキル化を図ったことでその増員分を吸収したうえ、130人分を減らして効果的に再配置することができた。すなわち合計445人分の削減効果があったといえる。しかも複写機担当のエンジニアはコンピュータのサポートも行うので、生産性としてその分が上乗せとなる」との一例を紹介した。

 ちなみに、同社の社員数は2012年末時点で8103人。そのうちS-SPRの対象となる技術職は3418人で、従来のSPRの対象となる営業職2641人を上回る。同社にとって技術職が担うサポートビジネスは収益の大きな柱となっており、SPRで売り上げを伸ばし、S-SPRで収益をしっかりと確保するという構図が浮かび上がる。

 大塚氏はS-SPRの説明の最後に、「業務改革については、長期レンジで取り組んでいくことが大事だ。それが経営者の使命だと考えている。S-SPRに続く新たな施策にも取り組んでいるので、期待していただきたい」と語った。「長期レンジの取り組みはオーナー企業だからできること」との見方もあろうが、オーナー企業がどこもそうした取り組みによって業績好調なわけではない。同社のSPRおよびS-SPRの着想や取り組みには、マネジメントのヒントになる点がいくつもありそうだ。

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