在宅勤務が着実な広がりを見せている。政府の新IT戦略でも女性の就業率アップなどを目指して本腰を入れる構えだ。この機に在宅勤務の推進に向けた勘所を考えてみたい。
調査会社のIDC Japanが9月3日、在宅勤務などを実現するテレワークに関連した国内市場の分析結果を発表した。それによると、2012年のテレワーク関連ICT市場の規模は、前年比10.4%増の7961億9200万円と推定。2012年から2017年にかけての年間平均成長率は6.6%で、2017年には1兆962億5000万円になると予測している。
IDCでは、通常の執務場所以外の場所でICTを利用して業務を遂行する「モバイルワーカー」の中から、収入を伴う仕事をしており、仕事をするオフィスを持ち、かつ外出先や自宅などオフィス外で就業時間の20%以上の業務を行う人を「テレワーカー」と分類。その人口は2012年末に1390万人となり、労働力人口の21.2%に達したという。
2013年以降のテレワーク関連ICT市場の動きとしては、リプレイス需要および新規需要との高まると予測。特にモバイルデバイスと関連するネットワークサービスおよびソフトウェアの成長が市場を牽引するとしている。
また、従業員10人以上の国内ユーザー企業796社を対象に行った調査では、2011年と比較し、外勤者向けテレワークを実施している企業が30.8ポイント、在宅勤務では20.4ポイント、それぞれ増加したという。
この点についてIDCでは、競争力強化のための従業員の業務効率向上や労働力確保、事業継続などの対策に向けたテレワークの活用が、2011年から2012年にかけて急速に進んだ結果だとしている。
在宅勤務の推進については、政府の新IT戦略でも女性の就業率アップなどを目指して本腰を入れる構えだ。行政サイドの見解として、これまで企業全体の1割程度にとどまっていたテレワークの導入企業数を、2020年までに3倍以上に増やす計画。子育て中の女性などが柔軟に働ける環境を官民が連携して整えていく方針だ。
IDCによると、2011年から2012年にかけて急速に進んだというテレワークの活用だが、これは実際のところ2011年3月に起きた東日本大震災の影響が大きいとみられる。つまりは、事業継続におけるリスクマネジメントである。ただ、テレワークのメリットはそれ以前から叫ばれていたが、日本ではなかなか普及が進まなかった。
なぜか。それは、テレワークの本質が「働き方の変革」であるだけに、行政、企業、個人(社員)のすべてに関するさまざまな課題をクリアする必要があったからだ。さらに、情報セキュリティ面での懸念が普及の足かせになってきた側面もある。
では今後、在宅勤務をはじめとしたテレワークを推進していく上で、何が勘所となるのか。先ほどテレワークの本質は「働き方の変革」にあると述べたが、最大の勘所はそれに向けた意識改革にあるのではなかろうか。それは企業も個人(社員)も然りだ。
在宅勤務制度をいち早く導入してテレワークを活用している企業の経営トップに、そうした意識改革を踏まえて在宅勤務をうまく実施するポイントを聞いてみたところ、こんな答えが返ってきた。
「まず重要なのは、社員に目的意識を明確に持たせること。在宅勤務で仕事をここまで進めるという目標を持たせ、その成果が周りにも見えるようにする仕組みづくりが必要だ。そうすれば、周りへの波及効果にもなる」
さらにその経営トップは、組織の観点からこうも指摘した。
「組織の中で普段から信頼関係を築いておくことも非常に大事。もし信頼関係が築けていないチームで在宅勤務を適用すると、不信感が高まるばかりになりかねない」
こうなると、まさしくマネジメントの視点が不可欠となる。キーワードは「目的意識」と「信頼関係」だ。また、在宅勤務の実態に詳しい経営コンサルタントが、こんな話をしてくれた。
「企業の多くはこれまで、在宅勤務について育児や介護を担う社員に対する福利厚生の施策という意識が強かった。しかし、これからは社員個々に最高のパフォーマンスを発揮してもらうための働き方の選択肢を提供するのだという認識が必要だ。一方、社員もそれに応える責任があることを肝に銘じるべきだろう」
まさに働き方の変革に向けた意識改革が、企業にも個人(社員)にも問われるわけだ。加えていえば、社員としての責任を全うするためには、意識においてもスキルにおいても、それぞれの仕事のプロであることが求められる。
在宅勤務をはじめとしたテレワークが今後、日本の社会に定着していくためには、行政や企業による制度・仕組み作りはもちろん、職場における理解やプロの仕事人育成が欠かせない。折しも大震災をきっかけに、テレワークは幅広いメリットの一端が見直され、少しずつ根付きつつある。この機会にテレワークの本質をしっかりととらえて、幅広いメリットを大きく引き出していきたいものだ。
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