ハイブリッドクラウドに注力するヴイエムウェアの勝算Weekly Memo

ヴイエムウェアがパブリッククラウド事業に乗り出した。オンプレミス環境との連携によってハイブリッドクラウド化を促進するのが狙いのようだ。その勝算やいかに――。

» 2014年07月22日 08時00分 公開
[松岡功ITmedia]

ソフトバンクグループと合弁で新サービスを展開

 ヴイエムウェアが7月15日、米VMwareが昨年秋に北米で提供を開始したIaaS型のパブリッククラウド向けソリューション「VMware vCloud Hybrid Service」を日本でも提供すると発表した。ソフトバンクテレコムおよびソフトバンクコマース&サービスと合弁会社を設立し、同ソリューションによるパブリッククラウドサービスを展開する。同日よりベータプログラムの提供を開始し、10〜12月に一般提供する予定だ。

 ヴイエムウェアは同ソリューションによるパブリッククラウドサービスを、これまで米国5カ所と英国2カ所のデータセンターを通じて提供しており、今回の日本での提供が世界で3カ国目、アジア地域では初めてとなる。

左から、VMware CEOのパット・ゲルシンガー氏、ソフトバンクテレコム副社長兼COOおよびソフトバンクコマース&サービス会長を務める宮内謙氏、ヴイエムウェア社長の三木泰雄氏 左から、VMware CEOのパット・ゲルシンガー氏、ソフトバンクテレコム副社長兼COOおよびソフトバンクコマース&サービス会長を務める宮内謙氏、ヴイエムウェア社長の三木泰雄氏

 vCloud Hybrid Serviceは、プライベートクラウドを含めたオンプレミス環境のITインフラをパブリッククラウド環境に拡張できるソリューション。言い換えると、ハイブリッドクラウド環境を実現するためのパブリッククラウド向けソリューションである。

 なぜハイブリッドクラウド環境を実現できるのかというと、vCloud Hybrid Serviceがオンプレミス環境で実績のある仮想化ソフトウェア「VMware vSphere」を基盤としているからだ。このため、すでにオンプレミス環境でvSphereを利用している企業は、これまでと同じ管理手段でクラウド環境を可視化、運用し、オンプレミスとオフプレミスの両環境に対応したクラウドの使い方ができるというわけだ。

 ソフトバンクグループ2社との合弁については、ヴイエムウェアがvCloud Hybrid Serviceの管理、運用、サポート、パートナーエコシステムを担当。ソフトバンクテレコムおよびソフトバンクコマース&サービスはデータセンター施設や物理ネットワークを提供し、専任の営業チームを発足させる。合弁会社の代表はヴイエムウェア社長の三木泰雄氏が務めるという。

 発表会見に臨んだVMware CEOのパット・ゲルシンガー氏は日本での新サービス展開について、「日本企業におけるクラウドへの優先度は世界の他の地域の企業より高い。したがって、新サービスをアジアの他国に先駆けて日本で展開することにした」と説明した。また、ソフトバンクテレコム副社長兼COO(最高執行責任者)およびソフトバンクコマース&サービス会長を務める宮内謙氏は、「新サービスはAmazon Web Services(AWS)にも匹敵するような価格帯で挑んでいきたい」と意気込みを語った。

新たなクラウドプラットフォームの実現へ

 今回のヴイエムウェアのクラウド事業戦略を聞いて、筆者は前回の本コラム「IIJとマイクロソフトの協業が映し出すクラウドの主戦場」(7月14日掲載)で記したマイクロソフトのクラウド事業戦略が頭に思い浮かんだ。

 共通するのは、インターネットイニシアティブ(IIJ)と提携したマイクロソフト、そしてソフトバンクグループと合弁を組んだヴイエムウェアとも、ハイブリッドクラウドの促進が最大の狙いであることだ。

 ただ、この2つの提携内容で大きく異なるのは、マイクロソフトはIIJとの提携でパブリッククラウドサービス「Microsoft Azure」をプライベートクラウドとしても利用できるようにしたのに対し、ヴイエムウェアはソフトバンクグループとの提携でプライベートクラウドを含めたオンプレミスのITインフラをパブリッククラウドにも展開できるようにしたことだ。これだけを見れば、正反対の動きである。

 もっとも、マイクロソフトは以前からオンプレミス、プライベートクラウド、パブリッククラウドに対して一貫したプラットフォームを提供する「クラウドOS」戦略を展開しており、IIJとの提携によるAzureのプライベートクラウド利用は、ハイブリッドクラウドの利便性をさらに高める取り組みといえる。

 そう考えると、ヴイエムウェアはオンプレミス向けのvSphereに加え、プライベートクラウド向けソリューション「vCloud Datacenter Service」でも確固たる実績を上げており、今回日本でも提供が始まった vCloud Hybrid Serviceによるパブリッククラウドサービスが広がれば、マイクロソフトが掲げるクラウドOSに匹敵するクラウドプラットフォームが整うことになる。

 宮内氏が対抗意識を表したように、IaaS型のパブリッククラウドサービス市場の現状においては、マイクロソフトにとってもヴイエムウェアにとってもAWSが追撃の的となる。が、同市場で有力プレーヤーとして戦いながら、オンプレミスでのソフトウェア基盤の実績に裏打ちされた形でハイブリッドクラウド環境を提供できるのは、今のところマイクロソフトとヴイエムウェアだけだ。

 今回のヴイエムウェアの会見では、同社のソリューションを利用する顧客数が世界中で50万社を超え、フォーチュン100社の導入率100%、国内サーバ仮想化市場シェア84%、国内プライベートクラウド市場シェア93%といった推計数値も紹介された。この実績ベースこそがヴイエムウェアの最大のアドバンテージである。

 しかもヴイエムウェアには、たとえ体力勝負になっても、親会社に米EMCがついている。さしずめ、新たに展開し始めたパブリッククラウドサービスがどこまで広がるかが、同社のクラウド事業における勝算のバロメーターになりそうだ。

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