大学発「ミライのケータイ」からITの未来が見えてくる――HPE・重松隆之さん

企業でサラリーマンとして働きながら、大学で教授として学生に教える“別の顔”も持つ――。そんなダブルワークをこなすエバンジェリストが日本ヒューレット・パッカードにいる。学生の活動からはITの未来が見えるというが、どういうことなのだろうか?

» 2017年05月31日 10時00分 公開
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 企業で働きながら、他の組織でも活躍の場を見いだす――副業やコミュニティー活動といった“課外活動”の価値が日本でも徐々に広まりつつある。スキル向上や人脈が広げられるほか、課外活動で得た知見が、本業に好影響をもたらすといったメリットもある。

 日本ヒューレット・パッカードで通信メディアエバンジェリストとして活動する重松隆之さんも課外活動で活躍するサラリーマンの1人だ。社員として働く傍ら、公立はこだて未来大学の特任教授として、理系学生に最新のITトレンドを教えている。

 重松さんは、学生が約1年をかけてモバイルアプリケーションを企画、開発する「ミライケータイプロジェクト」に約10年間関わっており、プロジェクトを通じて、学生とともにITトレンドの変化を肌で感じているそうだ。

photo ミライケータイプロジェクトの様子

大学生が考える「ミライ」のケータイ

photo 日本ヒューレット・パッカード 通信メディアエバンジェリスト 重松隆之さん

 ミライケータイプロジェクトは、公立はこだて未来大学を中心に、複数の大学が合同で年間を通して行うゼミ形式の授業だ。世の中になかったスマートフォン向けのサービスを実装し、最終的にはビジネスモデルも含めて企業に売り込む形で発表を行う。協力企業には、日本ヒューレット・パッカードのほかにも、通信キャリアやWebサービス企業などが名を連ねる。

 プロジェクトが始まった2000年ごろは、開発環境が整っていなかったり、サーバ構築が難しかったりと技術的なカベが厚く、サービスを動かす環境を構築するだけでも膨大な時間がかかっていたが、クラウドが誰でも手軽に使えるようになった昨今は、成果物に大きな変化が出てきているという。

 「今はサーバ開発環境もクラウドサービスを使うことで、迅速に複雑なサービスを開発できるようになりました。プロトタイプを作って実機で機能を確認し、実装イメージが早い段階で明確に分かるようになったのは大きな変革です。しかし、作りやすくなったことで、今度は新規性を出すのが難しくなりました。新しいものを考えたと思っても、似たようなサービスが世の中にあふれているわけです」(重松さん)

 そのため、学生は想定ユーザーにアンケートを取ったり、現地に足を運んで調査をしたりするなど、自分たちで考えたアプリケーションに本当にニーズがあるかどうか、情報収集を行い、データを分析して判断しているという。開発でいっぱいいっぱいだったころから、差別化のための情報収集へ。「ビジネスの現場でも全く同じことが起きていると気付いた」と重松さんは話す。

photo 技術の発展に伴い、開発のハードルがさがったものの、逆に差別化が難しくなってしまった

ビジネスのスピードを変える「インテリジェントエッジ」とは?

 昨今、アプリケーションの差別化においてキーとなっているのは、スマホの使い方だという。端末が高機能化するなか、スマホを手放せない生活を送っている人は多いだろう。時間や連絡先、スケジュール、電子マネー、メールといったありとあらゆる情報が入っているためだ。いわば自分自身の情報が詰まった“分身”ともいえるだろう。

 さらにスマホには、ジャイロ、加速度、位置情報といった各種センサーも入っており、いわゆる「IoTデバイス」と捉えることもできる。この両者の情報を組み合わせたサービスが今のトレンドだという。

 しかし、このように扱う情報が増えれば増えるほど、データの転送と処理速度がネックになるのも事実だ。クラウド上にデータを送れば、どうしても処理が遅くなってしまう。端末上でなるべく情報の処理をしてしまった方が早い――IT(ビジネス)の世界も同様の流れで、末端におけるデータ処理の重要性が見直され始めている。それが「インテリジェントエッジ」という考え方だ。

 「各種センサーで集めた情報を近くで集めて素早く処理を行う。インテリジェントエッジと言うと難しく聞こえますが、生活におけるスマホのようなものだと考えると分かりやすいです。企業にとって、自分の“分身”ともいえる情報は何かを見定めると、インテリジェントエッジが自社のビジネスにどのような好影響を与えるか、イメージできるかもしれません」(重松さん)

インテリジェントエッジの課題と希望

 海外では、業務効率化や危機回避といった分野で導入されつつあるインテリジェントエッジは、日本でも徐々に導入の兆しが見えてきている。特に自動車を含む製造業からの引き合いが強いとのことで、従業員の高齢化により、いわゆる“匠(たくみ)の技”を伝承するのが難しくなってきたという背景があるためだ。

 現場で生まれたデータや知見を、現場で処理して素早く還元したいと思う業務部門とはうらはらに、IT部門の視点ではインテリジェントエッジは脅威になり得る。データを分散させることで運用管理の手間が増えるとともに、セキュリティホールも増えてしまう。これがなかなかインテリジェントエッジが普及しない一因だと重松さんは話す。

 「データセンターやクラウドであれば、事業者がデータをある程度守ってくれます。しかし、それだけでは他社と差別化ができません。スピードやコストの面で、通信しない方が有利なデータもある。そのことについては理解していただけるのですが、まだうまく使いこなせないところが不安なのだと思います」(重松さん)

photo インテリジェントエッジの世界では、モノから集められたデータが近辺にあるマシンによって処理、分析される

 一方、ベンチャー企業などではインテリジェントエッジの考え方を生かしたサービスが出てきている。PSソリューションズが提供する、農業IoTサービス「e-kakashi」などがいい例だ。田んぼや畑に設置し、温湿度、日射、土壌水分、温度などのデータをセンサーで収集する子機と、子機で集めたデータをクラウドに送信する親機で構成され、収集したデータの分析結果は、ダッシュボードサイトを通じてPCやスマホでチェックできる。

 ベテラン農家の勘や経験を数値化し、いわゆる“栽培レシピ”を作って業務を効率化するサービスだが、最初のアイデア作りには重松さんも関わっていたそうだ。遠隔からリアルタイムで田畑の状況を把握できることも、このサービスの大きな価値といえる。

 「エッジじゃないと絶対にできないことというのは、実はありません。しかし、全てのモノが高速なネットワークにつながればいいかというと、コストの問題から難しいでしょうし、分析のスピードも異なります。情報には鮮度が求められるものもあります。写真やアラートなどがいい例です。例えば、遊園地に行ったときの写真はその場で共有したいですよね。同じ時間と場所でデータを共有するのが大切なのは、ビジネスでも同じです」(重松さん)

 HPEでも、監視カメラの映像をその場で分析し、異常を検知するソリューションを提供した例があるという。認識率やリアルタイム性を高めるためには、どうしても現場、つまりはエッジの領域で判断する必要が出てくるのだそうだ。

 インテリジェントエッジの“波”は学生にまで及んでいる。アプリケーション開発を目的としていたミライケータイプロジェクトでも、デバイスを自作する学生が出てきたと重松さんは語る。センサーを搭載した時計型のデバイスを自作し、ジェスチャーと連動するサービスを提案してきたそうだ。

 「ハイタッチをしたら写真が送られるとか、名刺みたいに渡したら自分のアドレスが相手に登録されるといった操作を、スマホではなく時計型のデバイスを使って実現しようとしたわけです。クラウドだけじゃなく、デバイスも自作できる時代になったのだと思うとすごい時代になったのだなと思います。機能特化型のデバイスを作って、最後はスマホと通信して連携すればいい、という発想はとても面白いです」(重松さん)

HPEとして、個人として、日本のベンチャーを応援していきたい

photo

 デバイスも自作し、新たなサービスが次々と出てくる今、重松さんはベンチャー企業とのつながりを強めている。日本のベンチャー企業を世界に向けて宣伝したり、逆に海外のベンチャーを日本に紹介したり、ともにビジネスを展開するという形で支援を行うケースもあるという。友達の友達が面白いことをやっている――そんな形で技術の輪が広がっていくことも多いそうだ。

 こうした活動は重松さんが個人でやることも、HPEの看板を背負って出ていくこともある。HPEとして行う場合は、ソフトウェアや人などのリソースを共有し、一緒にビジネスを展開することが多い。「特に大きなビジネスになるときは、大企業がバックに付くとやりやすいはずです。そうすることでお互いの技術も伸ばせますし」と重松さん。

 大々的にベンチャー支援に注力しているイメージは薄いHPEだが、ベンチャーインキュベーションの部署があった時期もあった。今は重松さんなど数人がミートアップイベントに参加するなどの活動をしているという。かれこれ20年くらいベンチャー企業とつながりを持っていたという重松さんだが、それは新たなビジネスにつながるという確信があるためだという。

 「やっぱり新しい人たちと会うのは面白いですよね。絶対ビジネスにつながるとも思っています。私もそこそこの年になったので、次の世代のためにこの業界でできることがあるんじゃないかと思うんです」(重松さん)

 企業だけではなく、学生やベンチャーとも技術を通してつながり、本業につながる知見を得る。重松さんはある種の課外活動を通じて、インテリジェントエッジやITの可能性を日々感じているのだ。これは、自分でいろいろなモノが作れる時代ならではのコミュニケーションといえるだろう。

 「ヒューレット・パッカードだって、もとはガレージから始まったベンチャーです。そういったマインドを持った人もまだまだたくさんいますし、新しい技術を語るなら、新しい仲間も必要でしょう。ユニークな人ばかりで面白いですよ。日本人って本当に優秀なので、世界の舞台に出したいとすごく思っているんです。コミュニケーションの壁や資金の壁などがあって、簡単な話ではないですが、これからもそんな活動を続けていきたいですね」(重松さん)

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提供:日本ヒューレット・パッカード株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2017年6月30日

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