IBMのマネージドインフラストラクチャサービス部門が独立して設立されたKyndryl。ベンダーやSIerの「コト売り化」が進み競合ひしめく中、キンドリルジャパンは何を狙い、どのようなスタンスで顧客に臨むのか。
2021年9月1日付でIBMから独立し、インフラストラクチャサービスを提供する企業としてスタートを切ったKyndryl。エンジニアを中心に全世界で9万人規模の従業員を抱える同社は、日本ではキンドリルジャパン(キンドリル)としてサービスを展開する。
多くの企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む中、ベンダーやSIerにも従来の在り方の見直しが迫られている。「製品販売」「人材派遣」だけでなく、技術以外の課題解決を含めて「顧客に寄り添う」ことをうたう競合がひしめく中、キンドリルはどのようなスタンスで市場に乗り出すのか。キンドリル 執行役員 最高技術責任者(CTO)の澤橋松王氏に詳細を聞いた。
──DX推進に多くの企業が取り組む中、「コト売り化」や「サービス化」が求められて「寄り添う」ことを訴求するベンダーやSIerが増えています。なぜこのタイミングで独立したのでしょうか。
澤橋松王氏(以下、澤橋氏): 背景には長い歴史があります。IBMで「サービス化」という概念ができたのは30年以上前です。当時は「メインフレームをはじめとしたIBM製品を購入した顧客に無料でSEを付ける」ことが「サービス」でした。1990年代に入るとSEを単独のビジネスとして提供するようになりましたが、IBMの中のサービス部門ですから自社製品の構築や運用が基本です。IBM一強ならそれでもいいのですが、メインフレームから分散システム、クラウドへとアーキテクチャが変遷するにつれて競合ベンダーが増え、今では多様な製品やサービスを組み合わせてソリューションを提供する必要があります。そうなると、IBMの1サービス部門としては限界や弊害が生まれます。
例えば、インフラ運用でIBMのサービスを利用する際、クラウドは別のプロバイダーを使いたくても「『IBM Cloud』を使ってほしい」と言われる。サービスを選ぶと製品まで決まってしまうのは本当の意味での顧客目線と異なることもあります。真に顧客と向き合うならIBM製品は選択肢の一つにすぎないはずです。であれば独立して最適な技術を使い、顧客の要望にフォーカスすべきだ――そうした考えからスピンオフとしてキンドリルは始まりました。
──自社製品を推奨する動きはあったのでしょうか。
澤橋氏: スピンオフを発表したのは1年前ですが、すぐに他メーカーの担当者に「実はIBMとは競合でもあるため協業意識が持ちづらかったです」と告白されました。IBMが競合製品を持っているので、パートナーシップを結んでいても「どこかで競合と見てしまう」と距離を置かれていました。今は真の意味でのパートナーシップがどんどん生まれてきています。
──サービサーとしてマルチベンダーのエコシステムを目指すわけですね。ただし、オープンを志向するベンダーは少なくありません。差別化ポイントは何だとお考えですか。
澤橋氏: 当社の強みの一つはIBM時代からの顧客の存在です。特に金融や運輸、通信、公共など、社会基盤を支えるシステムの設計や構築、運用を支援してきた実績は非常に大きく、この経験とスキルを生かしたサービス展開がアドバンテージだと考えています。
――近年は「ニーズに応えるスピード」を重視するあまり、システム品質に起因する問題も目立ちます。高度な品質を確保できるサービスを多様な規模や業種に展開できるのは確かに強みですが、潤沢な人的リソースが必要です。ビジネスをスケールさせる上では限界もあるかと思うのですが。
澤橋氏: そこが従来の「人月モデル」とは異なる点です。当社は新たなビジネスモデルとして「ファクトリー・モデル――サービスの工業化」を提唱しています。「人を派遣する」のではなく、キンドリルのセンター(拠点)でサービスを作り、付加価値を顧客に提供する仕組みです。
メインフレームや大型汎用(はんよう)機のバージョンアップサービスを例に挙げると、従来は、企業アカウントごとにプロジェクトチームを作り、現場のエンジニアが顧客サイトでアプリケーションの互換性を検証していました。人を派遣するのでリソースは限られますし、顧客ごとに人やノウハウを最適化するためビジネスとしてもスケールしません。
これに対してファクトリー・モデルは、日本に複数あるキンドリルのセンターでサービスを「プロダクト」として作ります。「各プロジェクトのノウハウ」をアセットとしてセンターに集約し、バージョンアップサービスをセンターからリモートで実施し、細かな部分のみ現地で対応します。これによって生産性を高めるとともに、より安価なサービス提供が可能になります。
──ノウハウをパッケージ化してサービス化することで、人月モデルから脱却したのですね。
澤橋氏: 少子高齢化でユーザー企業やベンダーでは人材確保が困難になっています。成長のためには限られた人材の能力を生かし、収益を最大化する仕組みが必要不可欠です。
──ただしDXは技術だけで実践できません。ファクトリー・モデルを適用できるほど目的、課題が明確ではないケースや「多忙で新しいことに着手できない」という声もよく聞きます。
澤橋氏: そうですね。「現行業務に追われていて新しいことができない」という相談は多く寄せられます。ですから、まずはIT部門のデジタル化(業務効率化)に目を向けてほしいと思います。当社はオートメーションツールを含めたパッケージ製品を提供しています。例えば構成管理ツール「Ansible」でサーバ構築を自動化して各種定型作業を迅速化すれば、新たなことに取り組む余裕が生まれます。
──とはいえそれだけでは効率化の域を出ず、変革には至りませんよね。局所的な自動化の集積になりがちです。
澤橋氏: おっしゃる通り、大切なのは運用プロセス全体の見直しと自動化の適用です。サーバ構築作業はプロセス全体のうち10%にも満たないといわれています。残りの90%は申請や承認などの調整プロセスですから、ここにメスを入れなければエンド・ツー・エンドの自動化は実現できません。クラウドサービスでも同様に、必要なときに利用できるとはいえ「承認や決済に時間がかかりメリットを生かせない」というケースをよく聞きます。
つまり変革には、既存のビジネスプロセス自体の見直しという根深い問題を解くことが求められます。これは組織や文化に関わる問題のため数年単位の取り組みが必要です。そこでキンドリルはプロセス全体の変革に向けたコンサルティングサービスも提供しています。
──運用プロセスの変革が求められる中で、IT部門と運用の在り方はどのように変わるとお考えでしょうか。
澤橋氏: ITインフラはInfrastructure as Codeツールの導入によって、ソフトウェアのように管理して多くの業務を自動化できるようになりました。これに併せて運用エンジニアも従来のシステムアドミニストレーター/オペレーター業務だけではなく、SRE(Site Reliability Engineering)の役割が求められつつあります。これには各システムの構成要素を個別に監視するのではなく、インフラ全体のデータやログを収集して一元的に観測するオブザーバビリティーの仕組みを構築することが必要不可欠でしょう。そのためには運用プロセスや運用系システムの再設計、スキルセットの変革が必要です。
──しかし人のマインドを変えるのは容易ではありません。
澤橋氏: そこは乗り越えなければならない壁だと認識しています。既存のやり方で安定しているのに新しい仕組みにする必要を感じないという方も多いかもしれません。しかし今後システムは一層複雑になりますし、運用を高度化しなければ立ち行かなくなるでしょう。人を張り付けないと運用できない体制から脱却することが重要です。
──キンドリルはどのようなサービスを提供するのでしょうか。
澤橋氏: 具体的には「クラウド」「メインフレーム」「デジタル・ワークスペース」「アプリケーション&データAI」「セキュリティー&レジリエンシー」「ネットワーク&エッジ」の6つの技術領域でファクトリー・モデルによる多様な「サービス」を用意しています。
顧客の状況や目的、要望に応じて最適なサービスを選び、横断的に組み合わせて提供することで、インフラ全体のモダナイゼーションを促進させてビジネス成長を支援するのが狙いです。
──ブランドアイデアとして「社会成長の生命線」を掲げていますね。
澤橋氏: 「社会成長に向けて既存の在り方を変えていく、キンドリルはその旗振り役になる」という意気込みを込めたものです。当社の顧客は社会基盤を支える企業が中心です。そうした企業が存在しなければ世の中は成り立ちません。ただ、今のままでいいというわけではありません。
そのためにIT部門のデジタル化をゴールに設定し、業務の自動化を進め、運用担当者のマインドや役割、ひいては運用基盤そのものを変革していきます。場合によっては、顧客に対して強い姿勢で臨むシーンも出てくるでしょう。嫌われることもあるはずです。しかし今、日本のIT部門を変えないと世界で戦えなくなる――そうした覚悟が必要ですし、顧客にも覚悟がいることを認識してもらわなければなりません。当社はそうした使命感を持って顧客と共に変革を進めていきたいと考えています。
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提供:キンドリルジャパン合同会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2021年12月28日