DNP3万人超の従業員にどう安全にクラウドを使わせるか たった4人のCCoEチームの作戦(3/3 ページ)

» 2022年09月14日 08時00分 公開
[宮田健ITmedia]
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全員でセキュリティを守るためにもCCoEチームは奔走

 これをさらに円滑にするには、共通サービスやクラウドセキュリティを多くの人に理解してもらう必要がある。そのためにCCoEは「教育」にも携わる。

 大日本印刷のCCoEは、エンジニアだけでなく非エンジニアにも向け、オリジナルの研修を提供する。ガイドライン、共通サービスを従業員全体が十分理解できるよう、サービス開発部門だけでなく、企画部門のメンバーにもセキュリティを知ってもらうように展開する。

 各種クラウドサービスも専門的な研修を提供するが、なぜそれを内製するのだろうか。和田氏は実際の経験として「外部の研修を受けると『あれもできます。これもできます、簡単にできます』と自信が付くが、実際に実務で使おうとするとつまずいてしまうことも多い。そのタイミングでCCoEが支援に入るとなると、実質的に2回の研修を行うことになる。研修と実務には大きなギャップがあるため、無駄を排除するためにわれわれが作っている」と述べる。

 研修プログラムの中では自社のガイドラインや共通サービスのメリットを啓発していく。CCoEはこれに加え、共通サービスを含むクラウドサービスを、実際に手を動かして自由に使えるサンドボックス環境も用意し、学びの場として活用しているという。

図7 CCoEが研修を担当することで、大日本印刷の共通サービスを前提とした教育が可能に
図8 フィードバックを受けて共通サービス/ガイドラインをアップデートできることにも注目したい

開発、そして継続的な改善活動

 これらの活動は、全てクラウドを利用する事業部門が“自走できるように”するためだ。CCoEは技術をトランスファーしながら、ガイドラインや共通サービスを検証する役割を担う。

 大日本印刷のサービスやガイドライン、共通サービスは一度作れば終わりというわけではない。さらに改善し、よりセキュアにしていくために毎週「アーキテクチャ検討分科会」を開催し続けている。ドキュメントを最新化し、最新サービスを検証する場が作られており、これがCCoE活動の柱となっている。

 ここには「なぜ大日本印刷がクラウドを使い続けるのか」という問いへの答えも含まれている。「われわれは『DX for CX』を掲げている。クラウドは次から次へと新しいサービスが出てくる。魅力的なサービスがあればいち早く顧客に届けたい。それを妨げるものがあってはならない」と和田氏は述べる。組織が継続的に開発できるよう、CCoEは現場に伴走する。

 「CCoEは利用者に寄り添い、ともに成長していく」(和田氏)

 このような仕組みをもってしても出てくる可能性がゼロではない“野良クラウド”について、野田氏はどう考えているだろうか。

 「“野良”という表現はやや高飛車に感じられるのでわれわれは“別流派のクラウド”と呼んでいるが」と前置きしつつも“別流派のクラウド”の存在を把握することが重要という点は和田氏も認識に相違はない。

 「別流派クラウドは、CCoEが提供するものよりももっと魅力的なものを持っているかもしれない。だから、別流派をどう仲間にしていくかが重要な視点になる。声を聞き、どうしたら要望を実現できるかを考える。排除するのではなく、理由を聞き、標準へ巻き込む」(和田氏)

図9 “別流派のクラウド”をも巻き込むことが重要

 とはいえ、CCoEは「門番でもある」と和田氏は述べる。

 「別流派クラウドは利便性を追求しがちだが、守るべきものは守らねばならない。バランスを保ちつつ求められる機能を実現することがCCoEに求められる視点だ。高い利便性には、高度なセキュリティが必要だ。それは決して、ガチガチの不便なものではないはずだ」(和田氏)

CCoEは徹底的にコミュニティだ

 従来型の考えであれば、CCoEのような組織はピラミッドの頂点に立ち、ルールを徹底させるような存在だったかもしれない。このような組織形態は単純だが、トップにいるメンバーの能力がボトルネックになり、組織の限界となる。

 「大日本印刷のCCoEはあくまでコミュニケーションハブだ。現場の知識もある利用部門がまわりにつながり、どんどん輪が大きくなっていく。コミュニティの大きさが、組織の、大日本印刷の可能性になる」(和田氏)

図10 コミュニティの輪の大きさが組織の可能性を形作る
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