Gapが「物流企業」に 小売業界で顧客サービスの垂直統合が本格化Supply Chain Dive

SPA(製造小売)ビジネスの経験が厚いアパレル企業にとって、流通最適化はお手のものだ。自社物流網を持つ企業が垂直統合のメリットを最大化させつつある。自社サービスの高度化はもちろんだが、究極の配送網を商売のタネにしようという動きが米国で盛り上がりを見せている。今やアパレルメーカーのGapすら物流企業なのだ。

» 2022年09月29日 10時00分 公開
[Max GarlandSupply Chain Dive]
Supply Chain Dive

 アパレル製造小売大手のGapは自社の流通網を外部の小売業者向けに開放し、受注から決済、ピッキング、配送などの業務を一括して受け持つ「GPSプラットフォームサービス」を開始した。同社のように自社のサプライチェーンを新たな収益源として活用する企業は増えている。

 GapのWebサイトによると、GPSプラットフォームサービスは、全米の流通網を通じてオムニチャネルを実現するフルフィルメント機能を提供する(注1)。返品の受付や、その出荷ラベル発行手配、フルフィルメントセンターでの処理といった「リバースロジスティクス」(返品対応に関わる各種オペレーション)にも対応するという。ただしサービスの正式なリリース時期については公開していない。

GPSプラットフォームサービスはSPAビジネスのロジスティクス部分を丸ごと提供する(出典:GPSプラットフォームサービスのWebサイト)

顧客サービスの垂直統合を強化 自社サプライチェーンの競争力を収益源に

 確固たる流通力を持つ大企業は新たな顧客獲得の手段としてサプライチェーンビジネスに参入している。アパレル大手American Eagle Outfitter(AEO)の物流部門であるQuiet Platformsは、2022年8月初めに配送ネットワークを立ち上げた(注2)。倉庫を購入することで配送契約の受注を増やし、より多くの顧客獲得を狙う。

 Walmartはホワイトレーベルの配送サービス「GoLocal」の開始1周年を間近に控え、配送件数が100万件を突破した(注3)。青果大手のFresh Del Monteは、エンドツーエンドのサプライチェーンプロバイダーを目指し、自社の物流能力を高めている(注4)。

 AEOを買収した宅配新興企業AirTerra(注5)の創業者ジム・ケネディは、GapのGPSプラットフォームサービスの立ち上げを受けて次のようにTwitterで発信した。

 「今週、ウォルマートの収益が低下したとの発表がありました。こうした物流業界の老舗企業はこれまでコストセンターだったところをプロフィットセンターに変えていくようなイノベーションを起こす方法を模索していかなければなりません」

Gapが始めるGPSプラットフォームサービスの覚悟

 さらにGapはこれから、自社の配送網の門戸を外部企業にも開放しようとしている。Gapのサプライチェーン責任者であるケビン・クンツ氏はSNS「LinkedIn」でこの取り組みを次のように説明した。

 「GPSプラットフォームサービスを通じて、Gapの持つ高速で柔軟、かつ高度に自動化された物流とフルフィルメントのネットワークをあらゆる規模の企業が活用できるようにします」(注6)

 GPSプラットフォームサービスには、翌日および翌々日の配送、倉庫での短期保管とクロスドッキング、「Amazon」や「Shopify」などの大手ECプラットフォームと統合されたAPI付きのセルフサービスポータルが含まれている。

 Gapの流通ネットワークは北米に13の流通センターを抱え、年間10億個の商品を処理する能力を持つ。米証券取引委員会が公開する企業の年次報告書「Form 10-k」に掲載された情報によると、Gapは2022年1月29日時点で、北米で5つの配送センターを所有し、さらに3つの配送センターをリースしている(注7)。今後、テキサス州ロングビューにロボット工学と自動化を備えた配送センターを開設し、2024年度にはカナダのオンタリオ州にも新設する予定だ。

倉庫オペレーションも高度化、自動化されている(出典:GPSプラットフォームサービスのWebサイト)

 Gapのサプライチェーンへの投資は、配送センターの開設だけにとどまらない。同社CFOのカトリーナ・オコネル氏は、3月の決算説明会で、通年7億ドルの投資を計画していることを明らかにした(注8)。フルフィルメントネットワークの自動化や、より効率的なサプライチェーンの構築、技術開発に使われる見込みだ。


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