DXが組織にとって重要になる中で、「なんちゃって」な推進しかできていない組織も多く存在します。Microsoftのビジネスアプリケーションが「真のDX」を実現するカギになるかもしれません。
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“DX”(デジタルトランスフォーメーション)がバズワードとして広がっていますが、筆者はいまだに「データの活用が進まない」と経営者たちから問い合わせをもらうことがあります。
経営者だけでなく、実務を担当する従業員の方から「マスターデータ管理や伝票データの登録すらまともにできていない」「社内のビジネスプロセスが未定義、システム化できていない」「顧客タッチポイントのデータが取れていない」という話をもらうこともあります。
これらを「自社業務の独自性や複雑さ」や「業績不振」「人材不足」「IT投資予算不足」のせいにして諦めることは簡単です。ただ、それでは経営者や現場管理者は仕事をしていないのと同じです。
組織はこれらをはじめとする「DXの困難」にどのように取り組むことができるのでしょうか。第1回目となる今回は、Microsoftのビジネスアプリケーションの全体像を紹介し、組織の課題解決への糸口を探します。
本連載は12回にわたって、Microsoftのビジネスアプリケーションに関する情報を発信し、製品やサービス、学習ツールだけでなく、導入ベンダーやその事例、コミュニティーの活動にも触れていきます。
約20年にわたって日本を含む31か国でMicrosoft社製ビジネスアプリケーションの導入・開発・コンサルティングに従事。2022年11月よりシンガポール企業『Technosoft (SEA) Pte. Ltd.』のCOOに着任。
Microsoft Regional Director
Microsoft MVP for Business Applications
Blog: DX 365 Life - マイクロソフトのBizAppsを活用し、企業のDX実現に向けて国内外を奔走する室長Blog
顧客ニーズや市場の変化が激しい現代において、勘や経験に頼った「データなき戦略立案や遂行」はあり得ません。この意味で、データは「会社の資産」として今まで以上に重要な意味を持ちます。他社に先駆けて「変化にどう対応するか」を打ち出すには、データを基に即座にシミュレーションすることが重要であり、そのためには「データを使いこなすための基盤」が不可欠です。
昨今、注目を集める「デジタルツイン」は、物理空間をデジタル空間に再現して検証でき、意思決定の精度とスピードの向上に貢献すると期待されます。この実現には「データの存在」と「データの活用」が必要です。ファイナンシャルデータをスピーディーにシミュレーションすることも、大切なデジタルツインと言えます。
長引くコロナ禍で、IT業界を中心に働き方は変化しました。このような状況で、IT業界の人間がテレワークができないとなると、私たちは何を売りにしているかが分かりません。一方で、製造ラインや店頭小売での働き方改革はこのような状況でも難しいのが実情です。
最近は、コロナ以前の働き方に戻る企業も増えてきました。コロナ禍で私たちは何を学び、何を得たのでしょうか? 数年後、この期間を振り返り、「コロナがあったからこそ今がある」というサクセスストーリーにならないといけないはずです。
働き方が多様化し、ペーパーレスが求められ、結果として企業におけるクラウドへの抵抗感はかなり薄れてきました。SaaS(Software as a Service)アプリケーションの利用も進んでいるようです。
最近では、SGDs(持続可能な開発目標)や非財務情報に関わるKPIが重要視され、データに基づいた経営やデータドリブンで管理できるシステム、また、これらのプロセス強化に取り組むことを企業も発信しています。一方、日本の現状は欧米の先進国と比較してもデータがサイロ化され、利活用が難しい状況です。
何が課題なのでしょうか。
筆者は前職時代に、「バラバラ殺データ事件」という表現を多用しました。これは、「個別最適なパッケージをそれぞれの業務にカスタマイズして利用を継続してきた結果」とも言えます。現在、企業でSaaSが増えてETLツールやコネクターが充実し、データ連携が以前より容易なため、CRMやERPといった企業経営に有益な仕組みがなくとも、「一時的な個別最適なシステムの仕組み」を残したまま、データ連携を優先するという、「ヤバイものに蓋をする」企業が増えています。
結果として「IT人材が不足している企業は、ますますこの事件に遭遇する可能性が増えるのではないか」という不安を覚えます。
一般的には、同一プラットフォームにデータを管理すれば、蓄積したデータを基にAI(人工知能)からの洞察を得やすく、利用するSaaSアプリケーションが増えてデータがバラバラな場合は、シングルプラットフォームで社内のITインフラを全て構築するのがベストです。一方、CRMやERPの刷新のタイミングは投資計画などの関係から、一気にというのは難しいのも事実です。
SaaSやパッケージで提供されるポイントソリューションには、各業務のベストプラクティスが持ち込まれていますが、実業務とシステム設計の間にギャップがあることもあります。追加開発でそのギャップを埋められますが、ITベンダーに依頼するとカスタマイズやそれに伴う保守コストが跳ね上がります。保守コストがかさめば、「攻めのIT投資」に予算を割きにくくなります。このリスクを回避するには、「開発の内製化」が望ましいでしょう。
中堅や大手企業向けのERPではSAPやOracle、CRMではSalesforceが知られており、それぞれの業務分野で代表的なツールを提供しています。顧客接点の情報を収益力につなげるためのデータ活用には、ERPとCRMを代表するITデータ、そしてOTレベルのデータを掛け合わせたデータ分析が有効です。それぞれの業務で代表的なツールを活用しても、開発元が異なるパッケージ同士をつなぐには一定のシステム開発が必要です。この点、データ活用では「単一の開発ベンダー」「共通のプラットフォーム」で提供されるものが望ましいと言えます。
今後、システムの連携はITデータであるERPやCRMだけでなく、OTデータも当たり前になるでしょう。データ活用の幅が広がればローコードツールも必要となり、同時に各業務領域の実務担当者のデータ活用では「Microsoft Excel」「Power Query」などのリスキリングも重要になります。
ワークフローの効率化や生産性向上を考えるならば、BIダッシュボードによるデータの可視化や、チャットツール、Web会議ツールなどの社内外とのコミュニケーションツールの活用、それらの利用データを分析することも視野に入れた環境作りも重要です。
オフィスワーカーやフィールドワーカー、外部協力者が共通で利用するコミュニケーションツールなども意思疎通の精度向上には重要です。ファーストラインワーカーの領域ではVR(仮想現実)/MR(複合現実)を使った安全対策や遠隔地サポート、技能伝承などの施策も必要です。
データの活用や業務領域を横断したデータ連携の範囲は非常に広く、IT担当者はこれらのセキュリティも確保しなくてはなりません。それぞれのつなぎこみを個別に開発していてはセキュリティリスクも増えます。
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