DX人材育成のNGパターンと回避策、研修設計で役立つChatGPT活用のヒントデジタル変革成功のメソッド どこから挑む? どこから変える? (2/2 ページ)

» 2023年10月19日 08時00分 公開
[豆蔵]
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DX人材育成プログラムの設計例

 変化の激しいDXの領域は、幅広く新しい技術やツールが次々とリリースされる。DXに取り組む意義の変化も激しい。そのため、目標に対して習得する知識を柔軟に変更できるゴール逆算型で研修を設計することが適している。また、明確な学習の目的や成果があることで、受講者は研修内容が自分の業務やキャリアにどのように役立つかを理解しやすく、受講のモチベーションアップにもつながる。

 さらに個人が習得したスキルは、DXプロジェクトでアウトプットすることで初めて役立つといえる。

 ゴール逆算型で研修プログラムを設計する際は、研修を通じて得た知識をどのようにビジネスに適用するのかを明確にすることが最も重要だ。

 そのためには、研修の修了後に学習者が果たす役割や、彼らがビジネスの場で何を成し遂げるのかを具体的に示す必要がある。

 この観点から、習得した知識をチームの中で実際に活用し、成果としてアウトプットする能力を高めた姿を人材モデルとして設定する。そして、このモデルの行動を学習評価指標として定める。その際に、「知識」「認知」「経験」「技能」のそれぞれで行動目標を整理する。この段階のプログラム設計により学習のゴールと目標が定まり、方向性が決まる。プロジェクトの成果やビジネス価値を明確に言語化し他者に伝える能力も、学習目標として非常に重要だ。このことを踏まえて具体的な教材を検討する。また、教材や教授手法、企業の人材育成計画、学習者のリソースなども考慮する。

 データ活用人材の育成を考えてみよう。データサイエンスプロジェクトへの参加を前提とする社会人のリスキリングでは、目標を達成するために必要な知識を習得するとともに、実践力を高めるための演習や体験が求められることが多い。

 ゴール逆算型でプログラムを設計する場合は、全ての知識の網羅よりも、学習者の既存のスキルを考慮し、最も必要なスキルに焦点を絞った教育が効果的だ。実業務や実践学習での試行錯誤を通じて、必要に応じてスキルを自律的に学ぶのが、社会人の学びの特性として望ましいと考える

 当社では学習者ごとの習得済スキルを把握するために、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公開するITSS+(プラス)データサイエンス領域のスキルチェックリストを参考にして作成したデータ分析プロジェクトとスキルのマッピングを含むDXスキルの可視化ツールを用いて学習評価をしている。

図2 データ活用人材(リスキリング)の学習目標と分類(出典:豆蔵の提供資料)

 実際にデータ分析研修プログラムを設計する具体例を紹介する。

研修プログラムの修了後の目標

 製造業の生産管理の最適化を課題として取り組みたい企業が、DX人材育成の研修プログラムを設計する。学習者のゴールは、社内外のビッグデータを基に統計やAIなどのデジタル技術を用いたデータ活用を行うプロジェクトの企画立案と推進ができることと設定する。

目標の明確化

 社内外のビッグデータを基に統計やAIなどのデジタル技術を用いてビジネス課題解決を実現できるデータ活用プロジェクトの企画立案と推進ができること。なお、知識や技能だけでなくビジネスの理解が含まれていることに留意する。

  • ビッグデータの基本的な理解とその製造業での役割
  • 統計技法とAIの基本的な概念
  • 生産管理の現状分析とデータ活用による改善案の作成方法

評価方法の設計

  • データ活用による解決策を提案するプロジェクト企画書が提出できる
  • プロジェクトテーマに対して、AIや統計ツールを用いたデータ分析の実習結果
  • プロジェクトの進行やディスカッションでの行動

学習内容の計画

  • ビッグデータ、統計技法、AIの基礎知識の講義
  • 製造業における具体的な生産管理のケーススタディー
  • ツールやソフトウェアの実習(例:「Python」「R」「Tableau」など)
  • 実際のデータを用いたグループワークやディスカッション
  • データ分析用のツールやソフトウェアの操作習得
  • 産業界の専門家やデータ科学者によるゲスト講演
  • 事例や文献の提供

 それぞれの項目の明確化が研修成果につながることは想像が付きやすいが、いざ研修を設計しようとすると難しく感じられるかもしれない。そこで、筆者は生成AIのサービスである「ChatGPT」の活用をお勧めする。ChatGPTは、ゴール逆算型設計のベースである逆向き設計の理論を学習している。

 まずは研修を企画することになった背景や前提条件、ゴールなどの情報を整理してプロンプトに入力し、続けて「達成目標、評価方法、学習計画を逆向き設計のアプローチで提案してほしい」と入力をするとそれらしく整理した設計書が出力される。

 さらに続けて出力された評価項目に対する評価の基準となる段階提案をリクエストすることも可能だ。これらの出力をたたき台として、違和感がある箇所や具体性に乏しい箇所を文末のチェックリストを用いて適宜修正することでゴール逆算型を意識した研修の設計を進めることができる。

おわりに

 DXを実現させるには、デジタル技術やデータを使ってビジネスの価値を生み出すという視点が重要だ。真の競争力は、ビジネスの目的を達成する上でデジタル技術とデータの要素を適切に活用し、変化に柔軟に対応する人材によって具現化される。人材育成自体がDX課題解決であるといえる。成功した研修は、単なる知識蓄積以上に、具体的な場面で知識を活用する「実践力」を身に付けた人材を形成するものであるべきだ。

 私たちは、この視点を基にゴール逆算型の研修設計アプローチを提案する。文末に既存の研修プログラムの目的の明確さを確認するためのチェックリストを付属した。私たちの提案する手法を通じ、次世代のビジネスリーダーがDXの真の意味での人材として育つ手引きとして当連載が役立てば、私たちとしても最大の喜びである。

DX人材育成プログラム有効性チェックリスト

研修目的の明確性

  • 受講者がデジタルツールや技術に関して具体的に何を学ぶかが明確に示されていますか?

DXの背景と目的

  • それぞれの技術やツールの背後にあるDXの目的や理由が明確に説明されていますか?
  • なぜその技術やツールを学ぶ必要があるのか、背景やビジネス上の意義が示されていますか?

デジタル技術の応用と関連性

  • 各技術やツールが、ビジネスや業務にどのように役立つのか、具体的な事例やケーススタディーを交えて提供されていますか?
  • 受講者の既存の知識や技能と新たに学ぶデジタル技術との関連性や連携点が明示されていますか?

デジタルスキルの評価とフィードバック

  • DXの要点や技術を適切に習得しているかどうかを確認するための評価基準や方法が設定されていますか?
  • 受講者がどのようにしてデジタルスキルの習得を示すか(例:プロジェクト、プレゼンテーション、ケーススタディーの解説など)が明確に指示されていますか?

DX研修の統合と一貫性

  • 上記の全ての要素が研修全体で一貫して整合的に組み込まれていますか?

企業紹介:豆蔵

情報化業務の最適化とソフトウェア開発スタイルの革新を推進するコンサルティングファーム。デジタルトランスフォーメーション関連ソリューションでは、ビジネスのデジタル化による事業の効率化、競合優位への判断、新製品や新サービスの創出に求められる高度なデータ解析、AI/機械学習に関するコンサルティングや人材育成を提供する。

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