変化の激しいDXの領域は、幅広く新しい技術やツールが次々とリリースされる。DXに取り組む意義の変化も激しい。そのため、目標に対して習得する知識を柔軟に変更できるゴール逆算型で研修を設計することが適している。また、明確な学習の目的や成果があることで、受講者は研修内容が自分の業務やキャリアにどのように役立つかを理解しやすく、受講のモチベーションアップにもつながる。
さらに個人が習得したスキルは、DXプロジェクトでアウトプットすることで初めて役立つといえる。
ゴール逆算型で研修プログラムを設計する際は、研修を通じて得た知識をどのようにビジネスに適用するのかを明確にすることが最も重要だ。
そのためには、研修の修了後に学習者が果たす役割や、彼らがビジネスの場で何を成し遂げるのかを具体的に示す必要がある。
この観点から、習得した知識をチームの中で実際に活用し、成果としてアウトプットする能力を高めた姿を人材モデルとして設定する。そして、このモデルの行動を学習評価指標として定める。その際に、「知識」「認知」「経験」「技能」のそれぞれで行動目標を整理する。この段階のプログラム設計により学習のゴールと目標が定まり、方向性が決まる。プロジェクトの成果やビジネス価値を明確に言語化し他者に伝える能力も、学習目標として非常に重要だ。このことを踏まえて具体的な教材を検討する。また、教材や教授手法、企業の人材育成計画、学習者のリソースなども考慮する。
データ活用人材の育成を考えてみよう。データサイエンスプロジェクトへの参加を前提とする社会人のリスキリングでは、目標を達成するために必要な知識を習得するとともに、実践力を高めるための演習や体験が求められることが多い。
ゴール逆算型でプログラムを設計する場合は、全ての知識の網羅よりも、学習者の既存のスキルを考慮し、最も必要なスキルに焦点を絞った教育が効果的だ。実業務や実践学習での試行錯誤を通じて、必要に応じてスキルを自律的に学ぶのが、社会人の学びの特性として望ましいと考える
当社では学習者ごとの習得済スキルを把握するために、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公開するITSS+(プラス)データサイエンス領域のスキルチェックリストを参考にして作成したデータ分析プロジェクトとスキルのマッピングを含むDXスキルの可視化ツールを用いて学習評価をしている。
実際にデータ分析研修プログラムを設計する具体例を紹介する。
製造業の生産管理の最適化を課題として取り組みたい企業が、DX人材育成の研修プログラムを設計する。学習者のゴールは、社内外のビッグデータを基に統計やAIなどのデジタル技術を用いたデータ活用を行うプロジェクトの企画立案と推進ができることと設定する。
社内外のビッグデータを基に統計やAIなどのデジタル技術を用いてビジネス課題解決を実現できるデータ活用プロジェクトの企画立案と推進ができること。なお、知識や技能だけでなくビジネスの理解が含まれていることに留意する。
それぞれの項目の明確化が研修成果につながることは想像が付きやすいが、いざ研修を設計しようとすると難しく感じられるかもしれない。そこで、筆者は生成AIのサービスである「ChatGPT」の活用をお勧めする。ChatGPTは、ゴール逆算型設計のベースである逆向き設計の理論を学習している。
まずは研修を企画することになった背景や前提条件、ゴールなどの情報を整理してプロンプトに入力し、続けて「達成目標、評価方法、学習計画を逆向き設計のアプローチで提案してほしい」と入力をするとそれらしく整理した設計書が出力される。
さらに続けて出力された評価項目に対する評価の基準となる段階提案をリクエストすることも可能だ。これらの出力をたたき台として、違和感がある箇所や具体性に乏しい箇所を文末のチェックリストを用いて適宜修正することでゴール逆算型を意識した研修の設計を進めることができる。
DXを実現させるには、デジタル技術やデータを使ってビジネスの価値を生み出すという視点が重要だ。真の競争力は、ビジネスの目的を達成する上でデジタル技術とデータの要素を適切に活用し、変化に柔軟に対応する人材によって具現化される。人材育成自体がDX課題解決であるといえる。成功した研修は、単なる知識蓄積以上に、具体的な場面で知識を活用する「実践力」を身に付けた人材を形成するものであるべきだ。
私たちは、この視点を基にゴール逆算型の研修設計アプローチを提案する。文末に既存の研修プログラムの目的の明確さを確認するためのチェックリストを付属した。私たちの提案する手法を通じ、次世代のビジネスリーダーがDXの真の意味での人材として育つ手引きとして当連載が役立てば、私たちとしても最大の喜びである。
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