SAPは企業の支出分析に特化した「Spend Control Tower」を発表した。どのような機能を提供するのだろうか。
SAPは2023年10月、オーストリアで「SAP Spend Connect Live 2023」(以下、Spend Connect)を開催し、支出管理ソリューション「Intelligent Spend Management」に生成AI(人工知能)を追加すると発表した。同社は「SAP Ariba」「SAP Fieldglass」「SAP Concur」「SAP Business Network」にも生成AIを組み込むとしている。
SAPは生成AIの用途として「SAP Ariba Category Management」での活用を紹介し、「今後も市場を分析してカテゴリー戦略を提案し、調達担当者がカテゴリー管理を改善できるように設計された生成AI機能が搭載する」と発表している。
SAP Ariba Category Managementの生成AI機能は2023年末までに利用可能になり、2024年には他の支出管理アプリケーションにも組み込まれる予定だ。
SAPのムハマド・アラム氏(プレジデント兼最高製品責任者)は「支出管理アプリケーションに生成AI機能が搭載されれば、企業は反復作業を自動化しプロセスを効率化できる」と強調した。
「定型業務を可能な限り排除することは、生成AIを活用する最も分かりやすいユースケースの一つだと思うが、それができれば企業はより戦略的な仕事に集中できる」(アラム氏)
同氏によれば、SAP Fieldglassの生成AIを使うことでより効果的な職務説明が可能になる。また、世界規模で求人情報を出したい場合などにも、生成AIであればすぐに求人情報を作成し、翻訳できる。
アラム氏は「提案依頼にSAP Fieldglassの生成AIを使うことで、より詳細なSOW(作業範囲記述書)を作成できる」と話す。
「SOWの作成は労力を要する作業であり、詳細が十分に記述されていなければ提案の質が低下する場合がある。このような作業を自動化する」(アラム氏)
SAPはSpend Connectで、「SAP Spend Control Tower」(以下、Spend Control Tower)という新たなアプリケーションも発表した。これは、Intelligent Spend Managementや「SAP S/4HANA」などのアプリケーションの垣根を越えて、支出データの分析を提供する。
Spend Control Towerによって、出張や調達、臨時的な労働、サービスなど、給与以外の支出カテゴリーを包括的に把握できるとアラム氏は説明する。
「これらのデータは構築済みのデータモデルに統合される」(アラム氏)
Spend Control Towerには、アプリケーション別や四半期ごと、前年比、カテゴリー別、サプライヤー別、地域別など、支出データをさまざまな視点から見られるダッシュボードが備わっており、アラム氏は「ユーザーは粒度の細かいデータを得られる」と語る。
Spend Control Towerの生成AIは、支出傾向に関する新たなインサイトをもたらすだけでなく、プロセス改善やコスト削減の方法など、具体的な行動も提案できるとアラム氏は説明する。
「『Control Tower』(管制塔)としているのは、行動を提案し、適切な文脈で適切なアプリケーションに移れるようになっているからだ」(アラム氏)
Spend Control Towerは2024年2月に限定提供が始まり、第2四半期に一般提供が開始される予定だ。
エンタープライズ製品の業界分析を手掛けるDiginomicaのジョン・リード氏(共同創業者)は支出管理について、「SAPはSpend Connectでしっかりしたビジョンを示した」と評価している。
一方、リード氏は懸念材料として「生成AIの“曖昧な”価格設定」を挙げており、「もし強気の価格を提示すれば、SAPにとってはリスクになる」と指摘する。
「問題は共同イノベーションとROI(投資対効果)がほとんど実証されていない段階で、SAPがあまりに強気な価格を提示しないかだ」(リード氏)
価格設定が強気すぎると、他のAIベンダーがSAPの顧客にアプリケーションを売り込む隙を与えるというのが同氏の意見だ。
それでもリード氏は、Spend Control Towerについて「生成AIがカバーする範囲の広さと深さに感銘を受けている」としている。
「SAPの生成AIはパターンや異常の特定に秀でている。また、調達プロセスの訓練を受けていれば、人が見逃しやすい、あるいは、すぐには気付かない支出効率化の機会を特定したり、スムーズではないプロセスを迅速に改善できたりする」(リード氏)
同氏によれば、顧客が支出管理アプリケーションに生成AIを導入するかどうかは、ビジネス価値を実証し、顧客の信頼を勝ち取れるかどうかにかかっている。
「多くの顧客は、市場のリーダーが実際に生成AIを導入したという事例を見たいと考えている。SAPの一連の発表は、綿密でよく練られている印象を受けた」(リード氏)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.