数カ月の手作業が1週間に 南海電鉄が使う、冷却いらずの「疑似量子コンピュータ」とは?

熟練者の手作業とノウハウに支えられてきた、鉄道の運用計画業務。人手不足が深刻化する中、南海電鉄は同業務にかかる時間をこれまでの数カ月から約1週間に短縮した。これを実現した、疑似量子コンピュータ技術とは。

» 2026年07月18日 08時00分 公開
[ITmedia]

この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。

 南海電気鉄道(以下、南海電鉄)と日立製作所(以下、日立)は2026年7月14日、鉄道の乗務員運用計画と車両運用計画を自動で作成し、評価するシステムの構築を始めると発表した。両社は2025年度、南海線を対象に効果検証を実施。これまで数カ月かかっていた乗務員運用計画の作成作業を約1週間に短縮できることを確認したという。今後は対象線区を南海線や空港線、高野線、泉北線に広げる。2027年度以降のダイヤ改正から業務プロセスを見直すことを前提とし、同システムの構築を進める。

 両社によると、従来の計画作成業務は経験豊富な担当者の知見に依存しており、ほとんどを手作業で実施していた。

疑似量子コンピュータを利用するメリットは?

 南海電鉄の運用計画業務に使われたのは、日立が独自に開発する疑似量子コンピュータ技術「CMOSアニーリング」だ。日立によると、疑似量子コンピュータには量子コンピュータにはないメリットがあるという。

 まず、疑似量子コンピュータとはその名の通り、従来のコンピュータで量子コンピュータを疑似的に再現する技術だ。磁性体の性質を説明するために考案されたイジングモデルを使い、組み合わせ最適化問題を解く。多くの制約条件を同時に考慮しながら、最適な組み合わせを短時間で導き出すことを得意とする。

 疑似量子コンピュータを利用するメリットとして、量子コンピュータに欠かせない冷却装置が不要で、室温で動作することが挙げられる。大規模化に対応しやすい点も特徴だ。日立は、コールセンターの勤務シフト作成など複雑な制約条件を伴う計画業務にCMOSアニーリングを適用してきた。

 今回、効果検証を実施したシステムは、日立のデータサイエンティストが鉄道業務特有の制約条件や業務プロセスを整理し、モデル化した。

 システムの柱は次の2つだ。

  1. 複数の制約条件を満たす計画の自動作成: 乗務員運用計画と車両運用計画を、日々の制約条件を踏まえて自動で作成する。ダイヤ改正のたびに集中する業務負荷抑制を図る。事故や故障で運用が乱れた際も、最終入庫(その日の最後に車両基地へ戻る運行)の情報が確定すれば翌日以降の計画を短時間で立て直せる
  2. 計画案の可視化と評価による現場支援: システムが作成した計画の評価指標を自動で計算して可視化する。乗務員運用計画では各種制約の充足状況や必要な要員数、勤務ごとの拘束時間や休憩時間を示す。車両運用計画では検査・点検を実施した車両数などを示す。計画担当者はこれらを基に複数案を比較し、最終判断を下す

 同システムはクラウド型で、稼働開始後も運用状況や業務要件の変化に応じて機能拡張や改善を進める。仮想の列車ダイヤに対して必要な乗務員数を短期間で検証できる点を生かし、南海電鉄はワンマン運転の拡大や、なにわ筋線の開業に向けた将来輸送計画の検討、災害時の対応計画(BCPダイヤ)策定にも活用する。

 日立は今後、CMOSアニーリングの性能向上に取り組み、AIを活用した社会インフラ向けソリューション群「HMAX by Hitachi」を支える技術の一つとして適用範囲を広げる方針だ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

注目のテーマ

あなたにおすすめの記事PR