多くの企業でクラウドの運用工数が高まっている。複数クラウドを利用するケースも増え、学習負荷も増大した。そこで、キンドリルとAWSは関係を強化して企業のシステム基盤のモダン化を支援するソリューション「Kyndryl Developer Services」を開始した。クラウド運用はどう変わるのだろうか。
企業のシステム基盤の構築、運用を得意とするKyndryl(キンドリル)は、クラウド領域のさまざまなパートナーとアライアンスを結んで守備範囲を拡大している。Amazon Web Services(AWS)との関係強化も大きな話題になった。生成AI導入支援に関するSCA(Strategic Collaboration Agreement:戦略的協業契約)を締結した他、2社の知見を体系化した「Mainframe Modernization for Customers with AWS」の共同開発などを進めている。
金融や製造、流通、公共分野などさまざまな業界の企業を旧IBM時代から数十年にわたって支援してきたキンドリルと、クラウド市場をリードしてモダンなITサービスを提供してきたAWSの知見を結集し、モダンなシステム基盤の提供に取り組んでいる。2024年10月に提供を開始したのが、業種に特化したモダンなシステム基盤をコンテナベースでクイックに実現するフレームワーク「Kyndryl Developer Services」だ。その全体像を明らかにする。
Kyndryl Developer Servicesの開発に携わっているキンドリルジャパンの山本直哉氏(クラウドテクノロジーサービス事業部)は以下のように話す。
「Kyndryl Developer Servicesは、AWSとキンドリルが日本限定で提供しているソリューションです。キンドリルが特定の地域に限定したソリューションを提供するという珍しいケースです。開発の狙いは、キンドリルが国内のお客さまにサービスを提供しているという実績とAWSのクラウド技術を組み合わせることでお客さまの課題を解決することです」
日本企業はどのような課題を抱えているのか。山本氏と共にKyndryl Developer Servicesの開発に携わっているキンドリルジャパンの金盛翔平氏(クラウドテクノロジーサービス事業部 クラウドサービス推進 第一部)はこう話す。
「クラウドの設計、構築の業務に大きな工数がかかるようになり、複数のクラウドを利用するケースも増えています。クラウドごとの知るべき情報が非常に多く、しかも年々増加しています。今後も設計、構築にかかる時間の増加が予想されるでしょう。そうした課題を解決するために、AWSを利用してセキュア、スピーディーにクラウドを構築できる環境を用意しました」
クラウドは、サーバなどのリソースの調達に時間がかからず迅速に環境を構築できる。しかし、IT部門がガバナンスを利かせてリソースを用意すると、事前の構成検証や設定、そのチェックなどに工数が必要になり、クラウドとはいえ導入に時間がかかってしまう。
「多くのお客さまの共通の悩みは『どの要件にどのサービスを使うべきかを評価するのが困難』ということです。AWSのサービスは250を超え、データベースだけでも多くの選択肢が存在し、それぞれの技術特性を理解して評価するのは困難です。業務プロセスが複雑だったり属人化したりすると、要件を整理することさえ難しくなります」(山本氏)
Kyndryl Developer Servicesの開発がスタートした2023年4月以前も、キンドリルはリファレンスアーキテクチャをベースに独自検証した構成を用意し、顧客がすぐにクラウドを利用し始められるサービスを提供していた。
「当時の標準構成で必要な業務をカバーできるお客さまもいましたが、業種固有の要件がある場合は独自の設計が必要になり、工数がかかりました。そこでクラウドの設計、構築の約7割を共通化するためにKyndryl Developer Servicesをスタートしたのです」(山本氏)
ここでカギになったのがAWSとのパートナーシップだ。キンドリルもAWSの認定エキスパートやスペシャリストを多数抱えている。そうした人材の知見やノウハウを持ち寄ることで、AWSの技術をベースに業種ごとの標準サービスを提供するための共通プラットフォームを構想した。
「Kyndryl Developer Servicesで最初に取り組んだのは金融業向けの標準サービスです。金融業界のシステムはセキュリティ要件やコンプライアンス要件が非常に厳しく設定されています。IT投資への意欲が高く、クラウド活用にもいち早く取り組んできた企業も多く存在します。金融業界のシビアな要件に対応した仕組みを整備することで、製造や流通といった業界にも対応しやすくなると考えました」(金盛氏)
金融業界は古くから業務システムを活用してきたため、企業固有の慣習やルールがシステムと結び付いて残っている。金盛氏は「日本企業が抱えがちな課題に対応する上でも学びがあった」と語る。
Kyndryl Developer ServicesはAWSの標準サービスで構成され、必要な機能やサービスをユーザーが必要なタイミングで選択するセルフサービス型プラットフォームだ。ただ、リファレンスアーキテクチャが用意されているとはいえ機能やサービスを要件に合わせて組み換えるのは骨が折れる。そこでKyndryl Developer Servicesは、各業界の業務プロセスに基づいた状態で提供される。
「ITリソースの払い出しや管理をKyndryl Developer Servicesベースにすることで、決まった手順やルールに基づいて設計、構築作業を進められます。設計時の属人的な作業も排除できるため、システム運用ノウハウの共有や人材教育の面でも利点が大きいでしょう。一連の流れを自動化することで、設計の不備や設定ミスによる情報漏えいのリスクも下げられます」(金盛氏)
Kyndryl Developer Servicesは「DevOpsポータル」と「開発テンプレート」が中核となる。DevOpsポータルはシステム構築を担う部門や開発者、インフラ設計担当者、運用オペレーター向けのサービスだ。開発テンプレートは、設計、構築担当者が業務要件ごとに必要なリソースを検証済みカタログから払い出す仕組みだ。
「DevOpsポータルから開発テンプレートを選択して環境を自動で構築できます。IaC(Infrastructure as Code)を管理することで、インフラ操作の自動化も可能です。開発者向けにはアプリケーションの事前定義済みパイプラインを含むCI/CD環境の構築、インフラ担当者向けにはベストプラクティスに基づくマルチアカウント統制環境の提供などができます。各種テンプレートはAWSのアップデートに追従するため、最新機能を利用可能です」(山本氏)
こうした共通プラットフォームの構築は、プラットフォームエンジニアリングの取り組みに近い。Kyndryl Developer Servicesは、AWSとキンドリルが協力して顧客企業のプラットフォームエンジニアリングの推進を支援するソリューションだと言える。
AWSの「金融リファレンスアーキテクチャ」は、金融業界で求められるセキュリティと可用性に関するベストプラクティスを提供するフレームワークとして2022年10月に正式版が発表された。日本語版も提供され、「勘定系」「顧客チャネル」「OpenAPI」「マーケットデータ」などのワークロードに対するベストプラクティスが示されている。
このリファレンスアーキテクチャをベースに、キンドリルがアカウント管理やログの集約、監査証跡、組織の統制などの機能を提供する。Kyndryl Developer ServicesのDevOpsポータルと開発テンプレートを利用することで、IaCによる環境構築の自動化やアプリケーション開発におけるDevOpsの推進などをスピーディーに実施できる。
「Kyndryl Developer Servicesは全てAWSに構築され、AWSのアップデートはキンドリルが対応します。ポータル環境の導入や初期セットアップ、CI/CD環境の初期セットアップ、DevOpsポータルのカスタマイズ、問い合わせ窓口なども当社が担います。要望があれば、当社の既存メニューの他、監視運用やセキュリティ運用のメニューを提供可能です」(金盛氏)
Kyndryl Developer Servicesは、共通プラットフォームによるメリットに加えてクラウドによるメリットも得られる。導入スピードの高速化やタイムリーなシステム更新、メンテナンス業務の削減、スケーラビリティの確保などだ。
「Kyndryl Developer Servicesの最も大きな効果は、お客さまがイノベーションのための開発に集中できることです。キンドリルとAWSはパートナーシップの下、金融業を皮切りにさまざまな業種向けソリューションを拡充します」(山本氏)
両社は、AWSの金融リファレンスアーキテクチャに準拠したコンテナ環境やAPI管理環境といったインフラ構築のためのテンプレートを提供する。その次に、製造業や流通小売業向けのラインアップを拡充する。
AWSはさまざまな業種向けのリファレンスアーキテクチャを提供している。キンドリルも多くの業種の企業を支援してきた実績がある。日本独自のソリューションとして展開される「モダンな運用」に注目だ。
なぜキンドリルはエンタープライズITの変革に強いのか 独自の立ち位置の強みとは
キンドリルとAWSのリレーションシップの拡大はメインフレーム問題にどう切り込む
エンタープライズ品質のAIをクイックに実装、安定的な運用を維持するには
安定稼働とデータ活用を見据えたSAPモダナイズはどうあるべきかCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
提供:キンドリルジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2024年12月23日