製造業がデータとAIの力を最大限に活用し、競争力を高めていく方法(後編)データを原動力としたAI活用の可能性と課題(3)

データ&AIの時代のデータプラットフォームに求められる要件とは何でしょうか。製造業におけるデータ&AIの活用例から「成功パターン」を見ていきます。

» 2024年10月09日 08時00分 公開
[大澤毅Cloudera株式会社]

この連載について

データを正しく収集、管理、分析することで、企業は業務効率化やDX(デジタルトランスフォーメーション)、競争力強化につなげられきます。最近はML(機械学習)や生成AI、LLM(大規模言語モデル)の活用によって成果を上げている企業が増えている。本連載は、データ利活用によって生まれるビジネスの機会や、それを実現するための課題や要点を、具体的な事例を交えて業界別に紹介します。

 前回に続き、本校は製造業におけるAI活用について見ていきます。

 製造業がIoTやAIによって成果を得るためには「必要なデータがどのようなものか」「新技術導入の際にどのような障壁があるか」を検討しなければなりません。

 例えば、生産現場でこれまで以上に多くのIoTデバイスが使用されるようになれば、データパイプラインの数は増えますし、詳細データを得ようと思えばそれぞれのデータ量も増えていきます。この多様かつ膨大なデータに対処しなければなりません。

 しかし、そのデータは多くの場合、適切に構造化されていません。加えてほとんどの企業がエンドツーエンドのデジタル化を成しとげていないため、不完全ないし低品質なデータの問題がつきまといます。

オンプレミス/クラウド間でデータの「分断」が起こっている製造業が7割

 ここで産業用タービンの状態計測に使われるデータを例に考えてみましょう。

 1台の産業用タービンの計測では、条件によっては毎日数TBにものぼる膨大なデータが生成されます。製造プロセス全体で同様のデータが生まれるわけですから、PB(ペタバイト)級のデータが次々に生み出されていくことになります。

 多くの組織が、このような膨大かつ構造化されていないデータを整理して、適切に組み合わせして管理し、そこから洞察を引き出すことの難しさに直面しています。

バラバラのシステム、バラバラのプラットフォームが分断を悪化させている

 製造ライン全体のプロトコルやソフトウェアコンポーネント、製品、システム間の相互運用性の欠如が、データのサイロ化を引き起こす要因となっているのです。データがサイロ化している場合、LLM(大規模言語モデル)のようなAIアプリケーションやリアルタイムのデータ利用をしようと思っても満足のいく結果を得られないでしょう。さらに、業界標準や持続可能性に関するレポート、データセキュリティ要件など、増え続ける規制の順守にも影響を及ぼします。

 オンプレミス環境だけでなく、複数のクラウド環境を利用することも、データのサイロ化や品質の低下の要因になっています。

 Clouderaの調査(※1)によると、欧州や中東、アフリカの地域における製造業の74%がクラウドとオンプレミスの両方にデータを保存しており、そのうち81%が少なくとも2社のハイパースケーラーと連携しています。そして、これらの製造業におけるデータ責任者の77%が、「これらの環境がデータから価値を見出す活動を複雑にしている」と考えています。

 多くの製造業者は、データの形式や場所を問わず、データから価値を引き出せる単一のプラットフォームでデータを統一する必要があると考えているのです。

 そこで検討すべきなのが、最新のデータアーキテクチャや、オンプレミス/クラウドを問わずに導入できるハイブリッドかつ総合的なデータプラットフォームの導入です。

 データを共通のデータレイクに集中させることで、データのサイロ化を解消し、AIが活躍するために必要な「単一の真実のソース」を提供できるようになります。データが社外に流出するリスクを低減しながら、自社のデータでAIを学習、強化できるようになるのです。

「信頼できるデータ」のデータ戦略

 ハイブリッドな環境に対応したデータプラットフォームには、(1)データの取り込みから、(2)整理、(3)保存、(4)共有の他、(5)データライフサイクル全体にわたる共通のセキュリティおよびガバナンス機能など、製造における「信頼できるデータ」のデータ戦略を構築するために必要な構成要素が含まれているものがあります。

 製造業におけるハイブリッド環境対応のデータプラットフォームの活用事例を幾つか紹介しましょう。

計測データをソリューションとして活用するA社

 世界的な自動車部品サプライヤーであるA社では、顧客が扱うタイヤの状態を継続的に監視するサービスを提供するために、サービス提供プラットフォームをオンプレミスからパブリッククラウドに移行しました。

 タイヤ内に設けたセンサーが空気圧や温度、走行距離、ミゾの深さを測定し、それらのデータをハイブリッド環境に対応したデータプラットフォームで管理分析することで、柔軟かつ迅速に顧客に情報を提供できるようになったのです。この結果、プロアクティブな(予防保全的な)メンテナンス支援のサービスを実現しました。

 結果として、A社の顧客は故障を83%削減し、月平均1646ポンドの燃料の節約を達成し、営業時間外の呼び出しを95%削減しました。これをきっかけにA社は、部品サプライヤーからソリューションプロバイダーに変貌したのです。

データの拡大にともなくコスト増を避けて新サービスを開発したB社

 自動車製造などを手掛けるB社は、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)などの新エネルギー車の急速な成長と国家の規制に伴い、車両モニタリング情報の量と複雑性が指数関数的に増加したため、データ処理における計算能力やストレージ、伝送などに課題を抱えていました。

 そのため、2017年からビッグデータ技術に基づく車両データ監視の新しいプラットフォームの構築を開始し、2022年にはハイブリッド環境に対応したビッグデータ基盤を採用しました。その結果、クラウドリソースを柔軟に活用することで車両データの保存と計算能力を大幅に改善しています。

 データ保存スペースは67%削減、ビッグデータ基盤のクラスタ全体のファイル数も75%最適化されました。また、バッチジョブの性能が平均2.5倍、最大6.6倍向上しました。さらに、リモートで車両状態を確認するとともに、インテリジェントなナビゲーションなどを提供する自動車向けの新サービスも展開し、多くの利用者を獲得しています。

 これらの事例のように、データの適切な収集や管理、分析により、製造業は予知保全、品質向上、需要予測など、さまざまな領域でAIやIoTを活用し、大きなメリットを得られます。しかし、前述したようにデータ量の増大やサイロ化、品質の問題など、課題も多く存在します。これらの課題を解決し、AIの真の価値を引き出すには、最新のデータアーキテクチャと総合的なデータプラットフォームの導入が不可欠です。製造業がデータとAIの力を最大限に活用し、競争力を高めていくためには、信頼できるデータ基盤の構築と、それを活用する組織文化の醸成が重要となるでしょう。

著者紹介

大澤 毅(おおさわ たけし) 《Cloudera株式会社 社長執行役員》

IT業界を中心に大手独立系メーカー、大手SIer、外資系 IT企業のマネジメントや数々の新規事業の立ち上げに携わり、20年以上の豊富な経験と実績を持つ。Cloudera入社以前は、SAPジャパン株式会社 SAP Fieldglass事業本部長として、製品のローカル化、事業開発、マーケティング、営業、パートナー戦略、コンサルティング、サポートなど数多くのマネジメントを担当。2020年10月にCloudera株式会社の社長執行役員に就任。

Cloudera:https://jp.cloudera.com/


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