クラウド型への移行を模索し続けるERP市場において、SaaSやAIなどが新たな流れを生み出している。2025年以降の上位9つのトレンドを紹介する。
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現代のERPはもはや会計や調達のようなバックオフィス機能のみを有するものではない。ERPは、プロセスの自動化や顧客体験、電子商取引をはじめとする戦略的な取り組みを推進する役割を果たし、DXに不可欠な存在となっている。
技術データを提供するHG Insightsの調査は、世界のERP市場は2022年以降8%成長しており、2025年には企業がERPに1477億ドルを支出すると予想している。このような成長を支えるトレンドとして、ERPは生成AIをはじめとする新しい技術から強い影響を受けており、持続可能性への取り組みや、より厳格に求められるようになった政府への報告、急速に変化するビジネス要件に対応している。
コンサルティング企業であるWest MonroeにおいてM&AプラクティスのERPリードを務めるクリス・ペリー氏は「ERPの市場は絶好調だ」と述べた。同氏は、AIやインダストリー4.0、SaaS、業界特有のERPなどの補完技術を持つ企業を大手ERPベンダーが次々と買収している現状を指摘した。
本記事ではERP市場の最前線として、2025年以降の上位9つのトレンドを紹介する。
ペリー氏によると、過去数年間でベンダーはクリーンコアの考えを導入し、そのために必要なアーティファクトやアクセラレータを開発している。クリーンコア戦略とは、ERPのビジネスプロセスとデータを標準化し、クラウド基準に沿った拡張機能や統合機能を実装し、マルチテナント型のSaaSをはじめとするクラウドで効率的に運用できるようにするものだ。
またペリー氏は、「ベンダーは新しく開発した機能をユーザーに迅速に提供したいと考えるため、SaaS型ERPの成長は続くだろう」としている。従来のオンプレミス型ERPの場合、ユーザーはシステムをアップグレードするために2年間待たなければならないことがあった。しかしSaaS型の場合、ユーザーはベンダーが開発した新しい機能をすぐに使用できる。
「私たちは、組織がSaaS型モデルに移行するために実施する継続的な投資を目の当たりにしている。移行の理由の一部は、SaaS型モデル固有の価値によるものであり、別の一部はソフトウェアベンダーが特定のモデルのみを提供していることによるものである」(ペリー氏)
ペリー氏は「トレンドの一環として、サードパーティーベンダーは、SaaS型への移行に備えて、オンプレミス型ERPのコードを修正し、場合によっては完全に再設計するためのツールを引き続き開発していく」と予測した。
AIの普及が進むにつれ、企業が購入を検討しているERP製品にAI機能が搭載されるようになるだろう。ペリー氏の例によると、SAPは200以上のビジネスプロセスを扱うAIアプリをリリースし、それをERPに直接組み込んでいる。
ペリー氏は「SAPは、ERPの一部に本気でAIを組み込もうとしている」と述べ、SAPが自社のソフトウェアを「Microsoft Copilot」と統合し、2025年末までにソフトウェアの70%をカバーするAI Copilot型のUIを作成していると指摘した。
ERP市場における別の主要なトレンドはAIを活用したコード開発だ。ペリー氏は「私たちは、AIを活用したコード開発の初期段階にある」と述べ、それにもかかわらずAIが開発プロセスの一部を強化するのに役立っていると付け加えた。
ペリー氏は、SAPがソフトウェア開発のためのAIを自社のコンサルタントに展開した結果、生産性が20%向上したと指摘している。
ペリー氏によると、ERPベンダーには技術面とビジネス面のギャップを埋めるツールを提供することが期待されている。例として、ビジネスプロセスと企業アーキテクチャを統合させるために役立つベンダーをSAPが購入したことが挙げられる。その結果、実装が容易になった。
「SAPは、ビジネスディスカッションを容易にし、それをソフトウェアおよびトレーニング、テストに反映させられる」(ペリー氏)
ペリー氏によると、迅速なコード開発のための選択肢としてAIを活用するようになるため、2025年は特定のビジネスニーズに対応するために企業がカスタムコード開発に注力する年になる可能性があるという。同氏は「自社のERPを1からコーディングすることはなくなる。企業はAPIを通じてAIを実装したERPに接続し、ERPプラットフォームから情報を抽出して供給不足時のサプライチェーンを最適化するといったタスクを実行するようになるだろう」と述べた。
ペリー氏によると、AIを効率的に活用してピンポイントで効果を発揮するソリューションを容易に開発したり、最新のERPには豊富なAPIが用意されていたりすることが、このトレンドを促進させているという。
業界の専門家によると、RPAや類似ツールを使用した自動化は特定の製品やERPプロジェクトにおいてすでに達成されているという。現在、企業がERPの導入やアップグレードに関連してベンダーに提出する提案依頼書(RFP)には、企業業績の管理および分析、自動化の組み込みなどに関する要望が記載されている。以前は、ERPの中核となる財務機能や人的資源管理(HCM)に限られていたものが、自動化を含む他のアプリケーションにも拡大している。
同様に専門家は、ERPにおいて分析機能が別の必須要素となっていることを指摘している。企業がシステムの近代化を検討している場合、RFPの多くに分析機能に関する要望が含まれるようになった。
専門家によると、業界に特化したクラウド製品に対する需要は高まり続けているが、それにはトレードオフが伴う。業界特化型のERPは、カスタマイズ可能な汎用ERP製品よりも高価になりやすい。また、この方法を採用する場合、購入者は業界に特化したスキルセットの不足にも注意しなければならない。
それでも、今後数年間で組織は業界固有のクラウドオファリングを急速に導入すると予想される。ITサービス企業は需要を満たすためにアクセラレータを提供し、ERPベンダーは特定の業界に合わせた製品を継続的に導入している。
業界の専門家によると、主権規制が厳格化しているため、特にEUで複数の国に展開する組織は、自社のデータに誰がアクセスし、どのようにホストされているかを把握する必要があるという。新しい規制を常に把握し、ITアーキテクチャの初期の設計および計画段階でそれらを考慮する必要がある。
現在、EUのデータ主権規制では、一部の例外を除き、欧州のデータはEU内にあるサーバに保存することが義務付けられている。データ法は、データガバナンス法やGDPRとともに、プライバシー管理を強化し、製造業や産業用アプリケーションで普及が進むIoTデバイスへの保護を拡張した。その多くはERPと統合されている。
SAP、Oracle、その他の大手ERPベンダーは優れた製品を提供しているが、全ての企業に適しているわけではない。専門家によると、2025年には中規模市場以下の購入者が、代替のクラウドファーストまたはオープンソースERP製品を検討するようになるという。中小企業には通常、ERPの実装に18〜24カ月を費やす時間とリソースがない。中小企業は、大手ERPベンダーの最も人気のある製品よりも複雑ではなく、事前構成されたテンプレートが付属する傾向があるクラウドファーストERPに、迅速な成果を求めている。
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