日本オラクルは「Oracle CloudWorld Tour Tokyo」を開催し、オラクルクラウドの最新技術と、国内企業の活用事例を紹介した。本田技研工業はどのようにして間接材購買支出を削減するのだろうか。
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日本オラクルは2025年2月に都内で「Oracle CloudWorld Tour Tokyo」を開催し、オラクルクラウドの最新技術と、国内企業の活用事例を紹介した。
事例として紹介された本田技研工業は、年間7000億円に及ぶ間接材購買支出の一部削減に着手している。「Oracle Fusion」にてどのような効率化、標準化を実現するのだろうか。
事業会社のオラクルクラウドユーザーとしてオープニング基調講演に登壇した本田技研工業の大澤裕一氏(サプライチェーン購買本部 本部付 サプライチェーン改革 LCA/RC調達領域責任者)は、業務アプリケーションの活用で間接材購買のコストダウンを実現した事例を紹介した。
大澤氏は、自動車などの製造に関わる直接材の購買だけでなく、間接材(オフィス部材、消耗品やサービスなど)についても非常に大規模な取引が行われている、と同社の取引状況をと説明した。
本田技研工業の間接材購買による支出は年間7000億円に及ぶ。その注文書は年間約100万件発行され、100人体制で処理している。これは単純計算でバイヤー1人1日50件、1時間に5件以上処理しなければ間に合わない状況だった。
「間接材の購買については、当社グループの国内4社のシステム、業務ともにバラバラだった。ここを効率化、標準化することで調達コストを全体で2〜3%削減できれば、それだけで100億円を超えるインパクトがある。経営への貢献度は非常に大きいため、改革に着手した」(大澤氏)
間接材購買効率化のプロジェクトは2020年からはじまった。オラクルクラウドERPの調達管理システム「Oracle Fusion Cloud Procurement」を導入し、4社11拠点の間接材購買システムを1つに統合した。オンプレミスのシステムからクラウドへ、フィットトゥスタンダードでの導入で苦労もあったが、効果も大きかったと、大澤氏は話す。
まず、100万件の購買の実態を見える化することに成功。誰が何を買っているか、すぐに分かるようになったので、コストダウンのための意志決定と働きかけを、すぐにできるようになった。
また効率化については、Oracle Fusion Cloud Procurementの機能によって、注文書とECサイトとの自動連携を実現。それだけでバイヤーの負担を約20%削減した。
「購買部門はコストセンターだったが、これを戦略的に収益に貢献するプロフィットセンターに変えていきたい。また、膨大なデータの揺らぎをAIで分析し、さらに効率化、標準化を進めたい」(大澤氏)
大澤氏はOracle Fusion Cloud Procurementの国内ユーザー会幹事も務めており、調達業務の効率化を進める他社のユーザーとの情報共有にも力を入れている。大澤氏は「データを匿名化して、Oracle Fusion Cloud Procurementユーザー企業全体の調達情報を共有できれば、共同購買によるコストダウンなど、企業の競争力をさらに高めることにつながる」と、今後の期待を語った。
本イベントのオープニング基調講演では最初に、Oracleのジェイ・エバンス氏(グローバル最高情報責任者兼エグゼクティブ・バイスプレジデント)が登壇し、オラクルのAIの取り組みと自社製品への展開について説明した。
エバンス氏は、「AIの進化は著しく、経済的なインパクトもすでに表れている。私たちはその期待値と現実が一致する変曲点に立っている。そして、オラクルのクラウドはAIで企業の成長を支援するために絶好のポジションにいる」と語る。
欧州の大手銀行BNPパリバは、オラクルのデータ管理機能を活用し、顧客満足度スコアの向上、運用業務の効率化とセキュリティ向上を実現している。またVodafone(英国の多国籍携帯電話事業会社)も「Oracle Cloud Infrastructure」(OCI)と、その上で動くAI機能を用いて、業務の簡素化とIoTビジネスの強化を図っている。
OCIのAI機能について、エバンス氏はこう語る。「オラクルのクラウドは、カスタムアプリケーションを作るためのコードが統合されたデータ基盤と、AIのための最新GPUとCPUが使えるインフラだ。お客さまのミッションクリティカルなデータを扱えるソリューションを提供できる」
オラクルは、クラウドインフラだけでなく、OCIを基盤とした自社製のビジネスアプリケーションを展開している。医薬や人事、サプライチェーン、顧客管理など業界のニーズに応えるスイートを提供し、それらのアプリケーションの中にAIを実装することで、機能を強化している。「堅牢なインフラとデータモデルを用いたAIエージェントで、複雑なタスクもこなせる点が、オラクルの差別化ポイントになっている」(エバンス氏)
続いては、日本オラクルの三澤智光氏(取締役 執行役社長)がホストを務める形で、オラクルクラウドを利用する国内企業が、自社の取り組みを紹介した。
最初に、NRIの大元成和氏(常務執行役員 IT基盤サービス担当 マルチクラウドインテグレーション事業本部長)が登壇し、オラクルがクラウドパートナー向けに提供する専用クラウドインフラの「Oracle Alloy」を導入した経緯などを説明した。
NRIは、2020年から自社のデータセンターにオラクルの「OCI Dedicated Region」を導入して、同社が提供する金融サービスの法的な要件を満たすための「ソブリンクラウド」を構築。金融機関の証券・投資信託業務サービス「T-STAR」などの自社クラウドによる提供を進めてきた。
その後、2024年からOracle Alloyによる専用クラウド基盤を導入し、自社の顧客に対してカスタマイズした金融サービスを開発し、そのままOCIで提供している。加えて、東京と大阪の2拠点でOracle Alloyを導入し、ディザスタリカバリー運用も開始した。
大元氏はオラクルクラウドの利点について、「ガバナンスやセキュリティが重視される金融業界のお客さまに対して、専用クラウドはさまざまな金融業のビジネス基盤として有効な選択肢になっている。NRI自身も、2025年度下期以降、金融機関を支援するセキュリティサービスをOCIの基盤上で提供開始する予定だ」と話す。
AIサービスにも力を入れる。「2024年12月にOCI上にGPUを導入して、AIの実行環境を整備できた。2025年度の上期から、金融機関の業務支援に特化した生成AIプラットフォームを提供開始する」(大元氏)。AIプラットフォームの構築においては、カナダのCohereと協業し、生成AIモデルとNRIの金融ノウハウの統合を進めているという。
NRIに続くOracle Alloyの国内ユーザーが、富士通だ。2025年4月から、同社は、ソブリン要件を求める顧客向けに、Oracle Alloyによるクラウドサービスを提供開始する。富士通の古賀一司氏(執行役員SEVP システムプラットフォームビジネスグループ長)が、サービス開始直前の状況を説明した。
古賀氏は富士通のソブリンクラウドについて、サービス開始前にもかかわらず、すでに約150社からの引き合いを受けていること、国のインフラを支える特定社会基盤事業者からの受注があったことを明かした。「Oracle Alloyの堅牢さに加えて、富士通からのサポートが受けられるサービスであることを高く評価いただいた」(古賀氏)
Oracle Alloyの富士通によるサポートは、3つの点で顧客から支持されているという。1つ目がデータの秘匿性を求める場合、2つ目がミッションクリティカルな業務のクラウド移行、そして3つ目が、従来のパブリッククラウドでトラブルを起こした顧客からの期待だという。
「あるお客さまは、事前に通知されていないクラウドインフラのバージョンアップによって、データ連携業務が停止し、甚大な影響が出た。その原因が分からず、エンドユーザーに何も伝えられない経験をしたことから、現在富士通のソブリンクラウドを検討いただいている」(古賀氏)
富士通は、Oracle Alloyをソブリンクラウド基盤としてだけでなく、ミッションクリティカルなシステムの安全な移行先として推しており、専用の支援サービスを、2025年3月から提供する。
「ミッションクリティカルなシステムは、従来のパブリッククラウドの責任分解モデルではうまくいかないと考えている。業務とアプリケーションを理解した上でインフラ設計をする必要がある。新しい支援サービスでは、お客さまの既存業務を熟知したSEと、クラウドのエンジニアの連携によるサポートを提供する」(古賀氏)
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