日本オラクルが2025年2月に都内で開催した自社イベント「Oracle CloudWorld Tour Tokyo」の講演を基に、オラクルのアプリケーションを活用した導入事例を紹介する。
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日本オラクルが2025年2月に都内で開催した自社イベント「Oracle CloudWorld Tour Tokyo」では、多くの講演が実施された。その中から、オラクルのクラウドアプリケーション(Oracle Fusion Application)の機能と導入事例が披露された「アプリケーション基調講演」の内容を紹介する。
はじめに、オラクル・コーポレーション(オラクル本体)のロンディ・エン氏(アプリケーション開発担当エグゼクティブ・バイスプレジデント)が登壇し、オラクルのアプリケーション戦略を説明した。
エン氏は「オラクルは、お客さまが必要なものは全て用意している。言い換えれば、必要な技術要素とビジネスの能力をエンド・ツー・エンドで提供する」と語る。
そのためのアプリケーション群は、財務や人事、サプライチェーン、製造や顧客管理などの幅広い業務のフロントオフィスからバックオフィスまでをカバーしているという。そして、それらが「Oracle Cloud Infrastructure」(OCI)という単一のテクノロジープラットフォーム上で稼働していることがオラクルの強みだとエン氏は説明する。しかし、自社で全てを囲い込んでロックインする戦略は採用せず、他社のアプリケーションとも統合して使うことが可能だという。
「AIなど技術の進化は著しい。オラクルのアプリケーションはOCIという強力なプラットフォームで動いているため、常に最新のAIエンジン、大規模言語モデルを利用できる。お客さまは、アプリケーションに組み込まれた最新のAIがもたらす効果を享受できる」(エン氏)
また、AIの機能を実装したアプリケーションは、基本的に追加料金なしで利用できる。「オラクルのAIは、アプリケーションの機能の一つとして埋め込んでいる。そのため追加料金は発生せず、実際どうやって課金したらいいかも分からない」(エン氏)
「Oracle Fusion Application」には、全世界で約1万4000社のユーザー企業が存在し、そのうちクラウドERP製品は約1万1000社が利用しており、「Fortune 500」に属する企業の55%がユーザーだという。さまざまな業種で使われ全米では銀行の上位10社のうち6社、通信大手4社全てが利用しているとエン氏は話す。
オラクルのクラウドアプリケーションは日本でもユーザーが拡大しており、銀行や保険、製造などに導入が進んでいる。オラクルでは日本向けのアプリケーション機能強化に力を入れており、2024年12月に本社直轄の製品開発責任者として任命されたのが、日本オラクルの善浪広行氏(常務執行役員クラウド・アプリケーションズ・ディベロップメント)だ。講演では善浪氏もステージに上がり、エン氏と2人で、オラクルのクラウドアプリケーションを活用する企業と対話した。
最初に登壇した三井住友フォナンシャルグループ(SMFG)の伊藤文彦氏(取締役執行役専務 グループCFO兼グループCSO)は、グループ全体の資産、負債を管理して資本効率を高めるCFOとしての職務と、CSOとしての戦略立案を兼務している。
同社は現在、オラクルのクラウドERPである「Oracle Fusion Cloud ERP」をグループ全社で導入し、決算、経理業務の標準化、効率化を進めている。
その進捗(しんちょく)と成果について伊藤氏は、「グループ全体の会計システム共通化による効果は大きく、グループ経営の強化につながると感じている。同時に、職員の手作業が減ることで、モチベーションの向上も図れると考えている」と話す。
プロジェクトは現在も進行中だが、決算経理については申請から支払業務まで、従来の業務の75%を自動化することに成功している。「これは、まだまだいけると思っている。AIを活用して90%以上の自動化を見込んでおり、100%にできるだけ近づけるのが目標だ」と伊藤氏は話す。
同社では納税区分、法定耐用年数、勘定科目の仕分といった経理の専門知識が必要な部分もAIに集約し、人が担ってきた判断を自動化することで生産性の向上を図っている。
「さらに一歩進め、グループ各社に散在していたデータを集約して分析できるようなれば、経営管理を高度化できる。日々の資産の推移を、報告に頼らず、ダッシュボードで一元化できれば経営のスピードアップにつながる。2025年度は、統合範囲を海外にも広げ、日米の財務データ統合検証を実現したい」(伊藤氏)
システム統合、自動化に伴って内部統制の考え方も変更しなければいけないと伊藤氏は考えている。「これからは、自動化したプロセスを前提とした業務品質、リスクのコントロールをしなければいけない。事務業務から開放された職員が、トランザクションのモニタリングやデータ分析にあたることになる。またグローバルな規制に対応できるオラクルのAIエージェントも活用しながら、新たな内部統制の枠組みを構築していきたい」と伊藤氏は話す。
エン氏はオラクルクラウドのデータガバナンスについて、次のように説明する。
「AIが組み込まれたオラクルのアプリケーションは、お客さまと合意しているデータガバナンス、セキュリティ、プライバシーの全てをそのまま提供する。オラクルクラウドにあるデータを外に持ち出したり、AIモデルの訓練に使ったりすることは一切ない。自社のデータは完全に守られ、自社だけで利用できる」(エン氏)
オラクルではすでに、生成AIを組み込んだアプリケーションの活用事例を100以上開発している。
「2024年に50件のユースケースを作ると宣言したが、実際にはその2倍以上の数が作られた。今後のアップデートで、順次アプリケーションに組み込む。お客さまからそのフィードバックを受け、さらに機能を改善するサイクルを回していく」(エン氏)
例えば、海外から届いた請求書などの文書が読めなくても、スマートフォンのカメラで撮影してクラウドに送るだけで内容を翻訳し、請求書の場合は必要な経理処理に送って処理できる。 エン氏は「これら一連のタスクをAIエージェントが自動で進めることで、作業のたびにスクリーンを切り替えて実施していた人手による作業が不要になり、人間は最終的なチェックだけでよくなる」と語った。
続いて、本講演2社目の事例企業として、UCCジャパンの黒澤俊夫氏(執行役員 ICT・デジタル担当 兼 情報セキュリティ担当)が登壇し、オラクルの業務アプリケーションを活用したサプライチェーン改革について説明した。
黒澤氏は約5年半前に同社に入社し、UCCグループ全体のCIO(最高情報責任者)兼CDO(最高情報データ責任者)、CISO((最高情報セキュリティ責任者))としてデジタル変革、セキュリティ強化を主導している。2023年から、サプライチェーン効率化のために「Oracle Cloud SCM」を含むスイート製品を導入し、その効果を次のように語る。
「一番大きな効果は、サプライチェーンの見える化が大きく進んだことだ。当社グループの中でメーカー機能を担う『上島珈琲』は国内に9つの工場があり、生産管理システムは各工場に分散している。データウェアハウスにデータは集めていたものの、タイムリーにデータを見ることが難しかった。オラクルのアプリケーションを導入したことで、毎日データが更新されるようになり、これまでは現場に確認しなければ分からなかった在庫情報を、本社ですぐに確認できるようになり、意志決定が早くなった」(黒澤氏)
在庫などの数字だけでなく、生産自体のノウハウをはじめ、現場の情報は熟練した作業者に聞く必要があった。生産から出荷までの動きが可視化された新しいシステムの効果で、経営は在庫の回転率だけをKPIにすれば、生産の適正化を図れるようになったという。在庫適正化によるコスト削減は、年間数十億円規模を見込んでいる。
UCCグループでは会計領域の統合も計画している。「グループの3分の1の事業規模を占める海外のガバナンスを利かせるために、シングルインスタンスの会計システムを入れることは大事だと考えている。まずは国内のシステムを統合して、データ連携、自動化を進めたい」と黒澤氏は明かす。
AIについても検討している。既に社内の一部で導入しているが、AIを使うことが目的になってしまう懸念を持っていたという。「ユーザーはAIを意識せず、仕事が便利になったけれど、裏でAIエージェントが動いていたというほうがいい。AIをアプリケーションに組み込むオラクルの考え方はいいと思うし、今後に期待している」と黒澤氏は話す。
また黒澤氏は、日本オラクルのアプリケーションユーザー会の代表も務めている。その立場から、「オンプレミスの時代と違い、システムを動かすことが情報システム部門の役割ではなくなった。クラウド時代は、すでに動いているアプリケーションの価値をどれだけ引き出すかにかかっている。その点で、ユーザー同士の情報共有や、ベンダーへの開発提案が重要になっている」と語った。それを受けて善浪氏も、「日本のユーザーの声を開発に生かしていきたい」と話した。
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