AIの技術規制を巡って世界的な議論が展開される中、イノベーションと安全性のどちらを重視すべきか意見が分かれている。相反する2つを両立するのは簡単ではないが、企業幹部はどう考えているのか。
NTTデータによると、企業のAI導入が進む中で、経営幹部はイノベーションと責任のどちらを優先すべきか、もしくはそれらをバランス良く取り入れるのかで意見が分かれている(注1)。
同社は世界の経営幹部および意思決定者2300人を対象に調査を実施し、2025年2月12日(現地時間、以下同)にその結果を報告書として発表した。
今、相反する2つを両立させるのが難しい中で、企業が重視するものとは。
同調査によると、調査対象となった回答者の約3分の1が「責任よりもイノベーションを優先する」と回答し、ほぼ同じ割合の回答者が「安全を優先すべき」と答えた。残りの回答者は「責任とイノベーションの両方を同等に重視する」と回答した。
アプローチの違いはあるものの、5人中3人のリーダーがAI導入の中でイノベーションと責任(安全性や持続可能性、倫理、包括性のモデルを含む)の間に大きな隔たりがあることを認識している。
企業を前進させるためにAIをどのように活用するかについて経営幹部の意見が分かれる中、世界各国の政府でも同様の溝が生まれつつある。
ジェームズ・デイヴィッド・ヴァンス米国副大統領は2025年2月11日、パリで開催されたリーダーや各種団体の会合である「Artificial Intelligence Action Summit」に先立ち、AIの規制緩和を一層推進するよう呼びかけた(注2)。
ヴァンス氏は同イベントの基調講演で「米国は各国とパートナーシップを築きたい」と語った。
「そのような信頼関係を築くためには、AI技術の発展を阻害するのではなく、むしろ促進するような国際的な規制の枠組みが必要だ。特に欧州各国にはこの新しい分野を楽観的に捉えてほしい」(ヴァンス氏)
トランプ政権は2025年1月に制定された2つの大統領令を通じて、バイデン前政権時代のAI監視に関する取り組みの一部を撤回した(注3)。
しかし、欧州はAI規制に対する厳格なアプローチを緩めない。2024年に施行されたEU AI法は、企業のAIの活用方法やモデル開発者の運用基準を規定している(注4)。
NTTデータの調査によると、多くの回答者が「不明確な政府の規制によって企業のイノベーション能力が阻害されている」と回答したという。特に生成AIに関する政府の規制については回答者の5人中4人以上が不明確だと感じており、それが技術投資を妨げていると答えている。
トランプ政権が技術監視の方針の調整を続ける中、科学技術分野における計測や標準の研究を行う米国国立標準技術研究所(NIST)が打ち出した自主的な生成AIガイドラインの今後については不透明な状況が続いている(注5)。
2024年、NISTは情報の信頼性やセキュリティ、データの偏りに基づいた偏見の助長、環境への影響など生成AIに伴う一般的なリスクに対処する約200のリスク低減策を企業向けに発表した。
(注1)The AI responsibility gap:Why leadership is the missing link(PDF)
(注2)Vance promotes AI deregulation strategy overseas(CIO Dive)
(注3)Trump sets stage for AI oversight shift with executive order(CIO Dive)
(注4)The EU AI Act is here: What can CIOs expect?(CIO Dive)
(注5)CIOs turn to NIST to tackle generative AI’s many risks(CIO Dive)
(初出)C-suite at odds over responsibility, innovation as AI tools mature
© Industry Dive. All rights reserved.