ジョージ・メイソン大学の研究チームが災害時対応を学ぶためのAI搭載ゲームを開発した。同プロジェクトからはAI活用を成功させる基本的な考え方が学べる。
この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。
災害時の緊急対応管理は極めて重大な分野だ。一つ一つの判断が生死を分けることもあり、こうした状況に備えたトレーニングや準備が不可欠である。
ジョージ・メイソン大学(George Mason University)の3人組のチームは、バージニア州アーリントンの公衆安全通信・緊急管理局(Department of Public Safety Communications and Emergency Management)で、AIを活用したゲームによる準備態勢の強化に1年間取り組んだ。
同チームはアーリントンの関係者からのフィードバックを踏まえた反復的なプロセスを通じて「Go-Repair」と「Go-Rescue」と呼ばれる2つのインタラクティブなゲームを開発した。これらのゲームではインフラのメンテナンスやリソースの割り当て、避難シミュレーションを体験できる。この動的な学習環境によって、公共施設の管理者やボランティアスタッフが従来のトレーニング方法よりも広い視野と柔軟性を持てるようになった。
ジョージ・メイソン大学でこのプロジェクトのリーダーを務めるシマ・モヘビ氏(システム工学・オペレーションズリサーチ学科助教授)は、「AIの最適化と強化学習モデルが最適な決定を計算することで、プレイヤーは自身の決定の良しあしを振り返れる」と語った。
AIをトレーニングに取り入れることで、意思決定における改善点を特定し、現実世界に影響を及ぼすことなく失敗から学ぶためのツールを提供できる。また、大規模言語モデル(LLM)によく見られる主観性を避けるため、研究者らは数学的基盤を持つモデルを開発し、強化学習を使用した。
適応型学習プラットフォームからAIによるスキル評価に至るまで、AIをトレーニングや人材開発に取り入れることは企業にとっても価値をもたらす。経営コンサルティング会社OC&C Strategy Consultantsの調査によると、人事担当者の5人中3人以上がAIによって現在のトレーニングの実施方法が全面的に変わることを期待している(注1)。さらに、ほとんどの回答者はAIの導入を人材管理にも拡大することを検討していると答えたという。
AIをトレーニングに取り入れる際、ビジネスリーダーは既製のソリューションを選択できる。Coursera、Skillsoft、LinkedInなどほとんどの企業向けトレーニングプロバイダーは、AI技術をある程度自社の技術スタックに組み込んでいる。
モヘビ氏によると、Go-RepairやGo-Rescueと同様のソリューションの開発に興味を持つリーダーは、解決したい問題を明確に理解することから始めるべきだという。モヘビ氏のチームはそのために関係者との連携を重視した。
現在、生成AIに対する関心が急上昇しているが、モヘビ氏のチームはAIの特定の分野を追求することはしなかった。
「われわれが使用しているAIモデルは数学的な基盤に基づいており、過去の経験を基に生成されたものではない。LLMにありがちな主観性を避けるためには、強力な数学的基盤が必要だ」(モヘビ氏)
話題性だけではAI導入の正当性を担保するには十分ではない。
CIO(最高情報責任者)は生成AIのユースケースを精査し、最も可能性のあるものを優先する必要がある。このコストのかかる技術はあらゆる状況において最善というわけではなく、信頼できるツールだとも限らない(注2)。
消費財メーカーChurch & Dwightのスラビ・ポクリヤル氏(最高デジタル成長責任者)は、2025年1月第5週のアナリスト向け説明会で「われわれはAIをやみくもに使用するのではなく、解決すべきビジネス課題や背景を明確にし、AIがそれをどのように支援できるのかを考える視点を持つ必要がある」と語った(注3)。
生成AIの弱点を見つけ出し、その強みを生かしてユースケースの優先順位を決められるテックリーダーは成功を収めやすい。その結果、導入事例の数は少なくなることが多い。Boston Consulting Groupによると、先進的な企業はそうでない企業と比べて生成AIの導入機会が平均で半分程度だという(注4)。
ジョージ・メイソン大学のプロジェクトが進む中で、関係者はトレーニングゲームに使用されるAIモデルの信頼性を疑問視することもあった。
「われわれはこれらの基盤となるアルゴリズムについてより多くの情報を追加した。その結果、関係者は安心感が高まり、ゲームの導入に前向きになった」(ポクリヤル氏)
Go-RepairとGo-Rescueの機能は当初とは大きく異なっている。モヘビ氏のチームは現在の機能と性能にたどり着くまでに複数のバージョンを作成したという。
「われわれはミーティングを開いてまず一つのバージョンを提供し、それをテストしてもらった後でフィードバックを受けた。そしてそのフィードバックを反映した更新版を提供するといった形で、非常に反復的なプロセスを繰り返した」(モヘビ氏)
最初の変更は、最大の変更でもあった。このゲームは当初、オフラインでプレイできるように設計されていたが、局内のセキュリティ規則によりダウンロードが許可されなかった。そこでモヘビ氏のチームはWebベースの開発にシフトした。
また、同チームはビジュアル要素の追加やユーザー体験の向上、ローカライズされたシナリオの強化を行い、プロセス全体を通してユーザーの意思決定とその影響についての洞察を深める工夫を施した。
このプロジェクトの成功には、技術者とエンドユーザーの協力関係が不可欠だった。
「アーリントンとのフィードバックのやりとりがなければ、必要とされる具体的な仕様や機能について知ることすらできなかっただろう」(モヘビ氏)
(注1)The Skills Gap, AI, and the New Corporate Classroom(OC&C Strategy Consultants)
(注2)When is generative AI the wrong tool?(CIO Dive)
(注3)Church & Dwight Co., Inc. (CHD) 2025 Analyst Day and Q4 2024 Earnings Call (Transcript)(Seeking Alpha)
(注4)2 years after ChatGPT’s release, CIOs are more skeptical of generative AI(CIO Dive)
© Industry Dive. All rights reserved.