IBMはなぜメインフレームを主力に据え続けるのか? CEOが熱弁CIO Dive

多くのメーカーがメインフレーム事業から撤退する中で、なぜIBMはメインフレーム事業を主力として位置付けるのか。

» 2025年06月12日 10時25分 公開
[Matt AshareCIO Dive]
CIO Dive

 2025年4月23日(現地時間、以下同)に開催された2025年の第1四半期に関する決算説明会で(注1)、IBMの幹部は「次世代メインフレーム『z17』の出荷を8週間後に控える中、収益においてソフトウェア部門が中核的な役割を果たした」と述べた。

ソフトウェア部門が売上の45%をたたき出しても、「メインフレームが主力」

 IBMの第1四半期の売上高は145億ドル、前年同期比で1%増加した。ソフトウェア部門が成長のけん引役となっており、同部門の売上高は事業全体の約45%を占めている。この割合は1年前の40%から増加している(注2)。同社のジェームズ・カバナー氏(シニアバイスプレジデント兼最高財務責任者)は「ソフトウェア分野の事業に注力したことが成長を促進している」と述べた。

 一方で、同社はメインフレームを引き続き主力製品として位置付けている。多くのメーカーがメインフレーム事業から撤退する中で、なぜ同社は新型のメインフレームを投入するのか。その理由を会長兼CEOのクリシュナ氏が語った。

 メインフレーム「z16」の販売サイクルが一段落したため、インフラストラクチャ部門の収益は6%減少したが、IBMはメインフレームという主力製品に関して依然として強気の姿勢を取る。カバナー氏は「メインフレームは当社の事業ポートフォリオ全体において不可欠な存在であり、今後も堅実かつ積極的に運営する息の長いプラットフォームだ」と述べた。

 IBMのソフトウェア分野事業の存在感が増している背景には、同社が手掛けた複数の買収がある。同社は2019年にオープンソースプラットフォームを提供するRed Hatを340億ドルで買収した。さらに過去2年間で、IT投資を可視化するサービスを提供するApptioや、セキュリティ管理ソフトを提供するHashiCorpをソフトウェア部門のポートフォリオに加えた(注3)。

世界のビジネス取引額の3分の2がメインフレームで処理されている

 しかし、メインフレームの開発ペースが落ちたわけではない。前世代の「Zシリーズ」から3年足らずで登場するz17は、AIのワークロードを念頭に設計されている(注4)。ユニットには高性能なTelum IIのプロセッサーが搭載され、カスタム設計のアクセラレーターチップであるSpyreにも対応している。

 IBMのアービンド・クリシュナ氏(会長兼CEO)は、2025年4月23日に次のように語った。

 「われわれは非公開かつ機密性の高い場で、早い段階から顧客とともにテストを実施する。メインフレームにおけるセキュリティおよびAI、処理能力の向上を示したところ、大半のクライアントが好意的な反応を示した」

 IBMの調査によると、クラウドへの大規模な移行や、メインフレームを扱うエンジニアの減少が懸念されているにもかかわらず(注5)、金額ベースで世界のビジネス取引の3分の2以上を処理し続けているという(注6)。

 「世界の主要銀行50行のうち45行、小売企業の上位10社のうち9社、世界の航空企業の上位10社のうち4社から5社が当社の顧客だ。われわれは大切な顧客を守り、メインフレームが提供する価値を丁寧に伝えていく」(カバナー氏)

 Zシリーズの登場は、ドナルド・トランプ米大統領の貿易政策が世界経済に与える影響を企業が注視し(注7)、IT予算を見直しているタイミングと重なった。2025年1〜3月にはPC出荷台数が急増したが(注8)、Gartnerのアナリストは「エンドユーザーの購買行動に同様の伸びは見られなかった」と指摘する。

 クリシュナ氏によると、IBMのコンサルティング部門は四半期における売上の約35%を占めているが、一部の顧客が裁量的なITプロジェクトの決定を遅らせたことで打撃を受けた。「コンサルティング部門は、他の事業部門よりも先に“逆風”に見舞われる傾向がある」(クリシュナ氏)

 クリシュナ氏によると、同社のインフラおよびソフトウェアのサプライチェーンは関税の影響をほとんど受けておらず、輸入品がIBM全体の支出に占める割合は5%未満だという。

 2025年4月初めにアナリストが「CIO Dive」に語ったところによると(注9)、多くの経営幹部がコストを削減するためにIT予算を精査しているが、彼らの大半はモダナイゼーションを妨げることに消極的だ。米国による関税措置が一時停止することが2025年4月9日に発表されたことにより(注10)、企業が購買戦略を再検討する90日間の猶予期間が生まれた。

 「顧客の購買行動に目立った変化は見られない。経済の不確実性が高まり、顧客が短期的に様子見する可能性はある。しかし、ハイブリッドクラウドの自動化やデータ主権、オンプレミスソリューションの価値は、こうした不安定な時期にこそ一層重要になる」(クリシュナ氏)

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