「AIがOracleを再発見した」 日本オラクル、26年度事業戦略説明会で“再成長”宣言

日本オラクルは2026年度の事業戦略説明会を開催し、好調な業績を振り返った。今後の成長の鍵を握る重点施策は「日本のためのクラウド」「お客様のためのAI」だという。

» 2025年07月15日 08時00分 公開
[村田知己ITmedia]

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 日本オラクルは2025年7月8日、事業戦略説明会を開催した。同社の2024年度の売上高成長率は7.8%に達し、最高益を更新した。米オラクルコーポレーションのRPO(残存履行義務:契約済みの将来の売上)も20兆円に達し、その8割をクラウド関連が占める。三澤氏は同社が「再成長を始めた」と述べ、今後の更なる成長の鍵を握る重点施策を語った。

冒頭、創業40周年、上場25周年の節目を報告する三澤氏(出典:筆者撮影)

「日本のためのクラウド」を強調

 今後の重点施策として三澤氏が筆頭に挙げたのが、「基幹システムのモダナイゼーション」だ。同氏は、多くの日本企業が抱えるこの難題に対して「オンプレミスからオンプレミスへの移行は、かなりの確率でスケジュール遅延やコストオーバーランを起こす」と指摘。現実的な解として、まず既存システムを「Oracle Cloud Infrastructure」(OCI)へクラウドリフトし、その後段階的にモダナイゼーションを進めるパターンを提案する。

 その成功事例として紹介されたのがKDDIと三井住友フィナンシャルグループだ。

 KDDIは通信や金融、エネルギーなど多角的な事業展開を支えるため、2024年度末までに9つの基幹システムをOCIへ移行。当初計画を上回るペースで進捗(しんちょく)しており、クラウドリフトの対象は60システムに拡大する見込みだという。

 三井住友フィナンシャルグループは「Oracle Fusion Cloud ERP」を中核に、属人化していた業務の標準化・自動化を断行。同社の経理業務部 部付部長の山本 慶氏はプロジェクトの成功要因を「業務を標準に合わせる“Fit to Standard”を、妥協ではなく戦略と位置付けたこと」だと分析する。現場の納得感を重視しながら改革を進めた結果、従業員のモチベーション向上にもつながったという。

 NRIや富士通、NTTデータといった国内大手パートナーと連携し、日本のソブリンクラウド要件を満たすサービスの展開も本格化させる。

 国内10リージョンでOCIを展開し、24時間365日対応のジャパンオペレーションセンター(JOC)も開設するなど、国内でのサポート体制も強化している。

AIの好物は「コンテキスト付きデータ」

 説明会では同社のAI戦略についても触れられた。三澤氏は「AIの好物はデータだけではない。コンテキストが重要だ」と語る。

 多くのERP製品が既存システムにAI機能を後付けする「ボルトオン型」であるのに対し、Oracle Fusion Cloud ERPはSaaSとAIを統合した「ビルトイン型」アーキテクチャを提案する。単一のデータモデルで全てのデータとコンテキストを一元管理し、AIに学習させることで、精度の高いAIエージェントを実現する。

 このアーキテクチャにより、AI機能の迅速な実装も可能になる。2025年現在、Oracle Fusion Cloud ERPでは既に152の生成AI機能を利用できるが、三澤氏によれば今後1〜2年でさらに多くのAI機能が実装される見込みだという。

「AIがOracleを再発見」とはどういうことか

 データ分析や機械学習(ML)の分野においては、「Snowflake」や「Google BigQuery」「Databricks」などのクラウドデータウェアハウス(DWH)が存在感を示してきた。ただ、AIアプリケーションやAIエージェントは大量のトランザクションを生むことから、OLTP(オンライントランザクション処理)データベースの重要性も高まっている。

 実際、Databricksは2025年5月、サーバレスの「PostgreSQL」データベースを開発するNeonの買収を発表し、Snowflakeも2025年6月、PostgreSQLデータベースベンダーのCrunchy Dataの買収を発表した。

 「クラウド専業のDWHメーカーが急にPostgreSQLデータベースベンダーの買収を始めている。AI時代(のデータ基盤)は、トランザクション処理を確実に、スケーラブルに行えるかが重要になる」

 三澤氏はAI向けデータ基盤市場についてこう分析し、「さまざまなワークロードをスケーラブルに、レスポンスよく実行できるデータベースはOracleしかない」と自信をにじませる。

 Oracleは各種データソースを基に自然言語で受け答えするAIエージェントや、自然言語でアプリケーションを開発できる環境を「Oracle Autonomous Data Platform」として提供。既にさまざまな企業の生成AI活用をサポートしているという。

 サイバーエージェントはAI推論基盤としてOCIを採用し、構造化データの一元管理やマルチモーダル生成AIの活用により、高精度なAIエージェントを短期間で開発できたという。

 Oracle Databaseが得意とするトランザクション処理技術がAI時代に再度注目されている様を「AI自身がオラクルを再発見し、再発明してくれる」と三澤氏は表現した。多くの企業で稼働しているOracle DatabaseをAIエージェントの基盤として利用するケースが増えれば、日本のAI活用に大きなインパクトをもたらしそうだ。

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