AXAなど保険5社がAI導入で高い評価 “筋の良い”AI投資の極意CIO Dive

Evidentによると、テクノロジーの拡張に向けてツールや人材に多額の投資を行っている保険業界において、AXAなど5社がその動向を示すベンチマークとなる存在だという。

» 2025年08月08日 08時00分 公開
[Matt AshareCIO Dive]

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CIO Dive

 保険企業は、生成AIの導入について大手銀行の動きを手本としている。より広範囲でビジネスに変革を起こすために、優秀な人材の確保や育成、研究開発、関連技術への投資を進め、実証実験の段階を超えようとしている。

AI導入において保険業界を代表する5社

 企業や組織のパフォーマンスを評価、分析するサービスを提供するEvidentが実施した調査によると、テクノロジーの拡張を巡る競争の中で、既に他社と一線を画する成果を上げる企業が現れている。

 Evidentは金融業界におけるAI導入の状況を2023年から追跡しており、今回初めて発表された保険業界向けのAI関連指標は(注1)、北米および欧州における大手損害保険企業および生命保険企業30社を分析対象とするものだ。2025年6月18日(現地時間、以下同)に発表されたレポートによると(注2)、AXAおよびAllianz、USAA、Intact Financial、Manulifeの5社が業界のリーダーとされ、AI人材の採用や育成、研究活動、実用事例の公開、責任あるAIへの取り組みといった76の指標に基づいて高い評価を受けた。

 Evidentは、リスクを回避する傾向がある保険業界において、生成AIの導入が進み始めている初期の兆候を確認した。これは同社がこれまで金融サービス業界で記録してきた動きと類似している。

 Evidentの共同CEOであるアレクサンドラ・ムサヴィザデ氏は『CIO Dive』に対して次のように語った。

 「保険企業には、現在行っているほぼ全ての業務を高速で自動化できるチャンスがある。これは銀行に当てはまらない特徴だ。保険業界は銀行業界よりも変革の余地が大きいのかもしれない」

 デジタルトランスフォーメーション(DX)への道のりを築く要素は、ITインフラおよび人材、リーダーシップへの継続的な投資だ。新興テクノロジーが実際のビジネスで価値を生む実用的な形に成熟するまでには時間がかかる。生成AIは、他の技術とは異なる一連の課題をもたらすだろう(注3)。企業は生成AIの導入に当たり、精度の問題やデータプライバシーへの懸念、適用をめぐる明確かつ一貫した規制の枠組みが存在しないという課題に直面している(注4)(注5)(注6)。

 OpenAIが2023年11月に「ChatGPT」を公開するよりも前から(注7)、ManulifeはAIの試験的な導入のためのプレイブックを作成していた。Evidentが2025年6月24日に開催したラウンドテーブルのイベントで(注8)、Manulifeのジョディ・ウォリス氏(グローバル最高AI責任者)は「当社は2016年に高度分析チームを立ち上げ、AIの活用可能性を検証する取り組みを開始していた」と述べた。

 「初期の段階で私たちが行ったことの多くは、より賢いリード獲得や、意味のある分野での価格設定の最適化に関する内容だった。保険金が小さい契約に対する引受業務の自動化について、非常に初歩的な取り組みも行った」(ウォリス氏)

 予測AIに関する概念実証(PoC)が広がる中で、Manulifeは導入の第2フェーズへと進み、基盤となるデータプラットフォームやインフラへの投資を始めた。しかし同社は当初、生成AIに対して慎重な姿勢を取っていた。

 「第3フェーズが始まったのは2023年であり、私たちはそれほど素早く動けたわけではなかった。ChatGPTは2022年に登場したが、私たちが戦略をまとめて生成AIに取り組み始めたのは2023年の第1四半期だった」(ウォリス氏)

 ウォリス氏によると、Manulifeの生成AIに関する戦略は、過去数年にわたって機械学習(ML)で歩んできた道筋を踏襲する形で進められたという。

 「まずはPoCから始めた。つまり、生成AIは実際に役立つ技術だと人々に納得してもらうところからだ。ビジネス部門に基本的なツールを使ってもらい、この技術が何なのかを理解してもらった。その上で、生成AIをスケールさせるための戦略的な取り組みへと移行していったのだ」

 Manulifeは独自開発の生成AIアシスタント「ChatMFC」を2024年に導入した(注9)。2024年3月の時点で、グローバルな拠点で働く同社の従業員の75%がこのツールを積極的に活用するようになったという(注10)。

 2025年6月30日に発表されたEvidentの調査結果に関するリリースの中で(注11)、ウォリス氏は「私たちは世界中の業務の中核に、現実的かつ責任ある形でAIを導入し、顧客や従業員が実感できるような成果を創出している」と述べた。

“安全第一”のAI導入

 保険企業が生成AIなどの技術を導入する際に直面する大きな課題の一つは、コンプライアンスへの適合だ。特に生命保険業界では法的にも倫理的にも高い基準が求められる。保険代理人や引受担当者は、厳しく管理された医療記録などの個人情報を日常的に取り扱っているためだ。

 ラウンドテーブルの中でウォリス氏は「生命保険は契約期間が長く、請求頻度が低いビジネスであり、非常にパーソナルなものだ。私たちが行う多くの業務において、利用可能なデータには厳しい制限が課されている」と述べた。

 Evidentの調査によると、損害保険業界は生命保険業界に比べて規制上の負担が少ないため、生成AIの導入が迅速に進んでいるという。保険業界におけるAI関連指標で上位にランクインした4社であるAXAおよびAllianz、USAA、Intact Financialは、主に損害保険を中心にさまざまな金融サービスを提供する企業だ。

 AXAはChatGPTの活用にいち早く取り組んだ。2024年7月に同社グループの最高データ・AI・イノベーション責任者に就任したアンドレアス・シェルツィンガー氏によると、同社は2023年7月に「AXA Secure GPT」という独自の生成AIツールを導入したという(注12)。このツールは、社内のエンジニアがMicrosoftと連携して開発したもので、AXAの従業員14万人に向けて展開された。

 Evidentのパネルディスカッションで、シェルツィンガー氏は「現在AXAでは、予測AIや生成AI、AIエージェントに関するユースケースが約400件あり、それぞれが開発や運用のさまざまな段階にある」と述べた。

 「得られる効果はさまざまだ。売上高の拡大や顧客体験の向上につながっているものもある。また、技術力向上や業務効率化といった成果も生まれている」(シェルツィンガー氏)

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