評判や監査対応に背中を押され、最新ツールを導入したはずなのに、なぜ現場は楽にならないのでしょうか。止まる運用、鳴り続けるアラート、形骸化するポリシー――。情シスが陥りがちな“再現性の高い失敗”から、ツール選定の穴をあぶり出します。
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IT・セキュリティの領域では、「正解」が非常に速いスピードで更新され続けています。SaaSやセキュリティ製品も、数年前には存在しなかった機能が当たり前のように並び、比較表を眺めているだけでも焦燥感を覚えます。
そこに監査対応や取引先からの要求、相次ぐインシデント報道が重なると、経営側からは「何か対策を入れてほしい」というプレッシャーがかかりやすくなります。コーポレートエンジニアや情シスの現場にいると、この空気は決して珍しいものではありません。
ただし、ここで一度「このツールを自社で運用できるのか?」を立ち止まって考える必要があります。この問いに真正面から答えられるかどうかが、ツール導入の成否を決めると言っても過言ではありません。
どれほど高機能で先進的なソリューションであっても、組織の体制・スキル・文化に適合しなければ、導入後に形骸化します。結果として、コストとリスクだけが残ってしまうのです。一方で多少地味でも“回り続ける運用”を作れた企業は、少人数でも着実に強くなっていきます。ツールはカタログスペックではなく”運用の現実”から逆算して選ぶべきなのです。
本稿で、身の丈に合ったソリューション運用の勘所を失敗パターンも含めて学びましょう。
NetworkEngineer、ServerEngineerを経て、外資系ベンダーでSIer及び社内システムEngineerを経験。その後、freee株式会社に確実なIPO実現のため、コーポレートIT部門の立ち上げの責任者として参画。同社では、ITEngineerも務めながらCSIRTも兼務し、セキュリティ整備を実施。現在は、バリュエンステクノロジーズ株式会社の執行役員CIO/CISO、情報システム部長/コーポレートエンジニア。また、他社での業務委託やIT顧問なども担いISMSやPマーク取得〜更新、監査対応等も対応。
現場でよく見かけるのは、次のような動機から導入が進むケースです。
いずれも理解できる背景ですが、問題はその先です。「何を解決したいのか」が曖昧(あいまい)なまま製品選定と導入だけが前に進むと、導入そのものが成果として扱われ、運用設計・教育・定着に必要な検討・リソースが後回しになります。結果として、導入後に失速してしまいます。これは情シスの現場では非常に再現性の高い失敗パターンです。本来の順序は以下の通り逆にすべきでしょう。
この順番を間違えると立派な道具だけが残り、現場は変わりません。さらに導入が目的化すると、比較軸もズレます。本来見るべきは「誰が、どの頻度で、どの画面を見て、どのような判断をするか」ですが、実際には「できることが多い方が強い」という評価軸に引きずられがちです。その結果“できるが使っていない機能”だけが積み上がり、費用だけが継続的に発生します。
導入フェーズでは、どうしても機能比較が中心になります。「多機能=安心」に見えるからです。しかし現実には、高度な機能ほど継続運用の負荷は高くなります。次の要素がそろわなければ、機能は価値に転換されません。
これらが不足した状態で導入すると、次のような状態に陥りがちです。
セキュリティは「入れたら強くなる」ものではありません。運用して初めて強くなります。これは当たり前の話ですが、問い合わせ対応や障害対応に追われる情シスの現場では、どうしても見落とされがちなポイントです。
ここまでは導入フェーズでありがちなミスを学びました。ここからは運用の失敗パターンを具体的に見ていきましょう。
ログが集まること自体は前進です。ただしアラートが毎日鳴り、誰も意味を判断できない状態では、それは“ノイズ”です。最終的には通知がミュートされ、「監視しているつもり」の状態に陥ります。これは決して珍しい話ではありません。
本来は、アラートがシステムやユーザーに与える影響の大きさを定義するだけでなく、一次切り分け手順やエスカレーションルートを併せて設計する必要があります。ここが抜けるとアラートは増えるほどリスクになります。
DLPは強力ですが、業務理解なしには成立しません。現場ヒアリングが不十分なまま厳格化すると業務が止まり、緩くすると検知ができません。その結果、例外対応が積み上がり、「結局何を守っているのか分からない」状態になりがちです。
さらに誤検知が続くと現場の信頼を一気に失います。一度「セキュリティは邪魔」という認識が定着すると、後からの挽回は大変困難です。ここは情シスとして強く意識すべきポイントです。
現場が求めているのは“新しいツール”ではなく、自分の手間が減ることです。業務が変わらないままツールだけ増えると、入力や管理が二重化し、確実に嫌われます。定着の鍵は機能説明ではありません。
「入力が減る」「承認が速くなる」「問い合わせが減る」といった「その人の今日が楽になる」体験設計です。
SSOやID統合は非常に有効ですが、例外設計を甘く見ると運用は破綻します。「退職者の停止漏れ」や「共有アカウント」「委託先ID」「管理者棚卸し」を放置すると、“統合されていない世界”が必ず残ります。導入時点で例外の扱いを決め切ることが重要です。
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