AIエージェントに関する定義は多様で、技術的な課題が残されており、マーケティングにおける主張が現実とは限らない。企業がAIエージェントをうたう製品を導入する際に注意すべき点は何か。
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ベンダーおよびCIO(最高情報責任者)、取締役会を巻き込み、AIエージェントはテクノロジー業界で大きな議論を巻き起こしている。しかし、ITの世界において大きく話題になる技術が具体的な成果に結び付くことは稀だ。
ベンダーが最新のAI技術を売り込む一方で、ITリーダーたちはAIエージェントの定義の曖昧(あいまい)さや技術の未成熟さ、「エージェント・ウォッシング(エージェント機能を備えているかのように既存製品をリブランディングして売り込むこと)」に頭を悩ませている。
企業はAIエージェントの将来に対して前向きではあるものの、誇大な宣伝や過剰な主張の中から本質を見極めるのは容易ではない。世界的なコンサルティングファームであるBoston Consulting Groupのマット・クロップ氏(マネージングディレクター兼シニアパートナー)は『CIO Dive』に対して次のように語る。
「生成AIが大きな話題になった後、『新しい何か』を売り出さなければならなくなったソフトウェア企業が『次はAIエージェントだ』と言い始めた。現在、相当な混乱が起きている」
CIOは、ベンダーに対して「エージェントとは何か」を明確に定義するよう求めたり、エージェントの具体的な機能について詳しく説明するよう促したりすることで、状況を少しずつ明確化できる。
ITサービスに関するレビューを提供するG2でリサーチインサイトを担当するティム・サンダース氏(バイスプレジデント)はCIO Diveに対して次のように述べた。
「エージェントとは、持続的な記憶と意思決定の知能を使って行動できる技術だ。完全に自律的なものは一つも存在しない。完全な自律をうたう人がいるのであれば、その人は何かを隠しているだろう」
サンダース氏によると、企業はエージェントを「弱いものから強いものが存在する段階的な技術」として捉えるべきだという。チャットbotは弱い側に位置付けられ、複数のエージェントが連携して動作するようなシステムは強い側に位置付けられる。
「未来の労働力についてさまざまな話を耳にすると思うが、そこで言及されているのはエージェント同士が連携するシステムの進化だ。しかし、私たちはその段階にまだ到達しておらず、近付いている実感もない」(サンダース氏)
AIエージェントに関する企業の判断を混乱させる原因の一つは、ベンダーの発表内容と、実際に企業で使える製品との間に存在するギャップだ。
クロップ氏は「直近2年間で350の取締役会や経営チームと会話してきたが、誰もがAIエージェントに高い期待を寄せている」と語り、クライアントはAIエージェントがバックオフィス業務をどのように変えるかを知りたがっていると付け加えた。同氏は「現在、業務を支援するあらゆるソフトウェアベンダーがツールにAIエージェントを組み込み始めているが、実際にリリースされた製品はほとんどない」とも述べている。
数千社のベンダーが自社を「AIエージェントプロバイダー」と位置付けているが、約束通りの成果を提供しているベンダーはごくわずかだ。調査企業であるGartnerの推計によると、数千社のAIエージェントプロバイダーのうち、本物と言えるのは約130社に過ぎないという(注1)。
「AIエージェントの開発は初期段階にある。そのため大半の企業はAIエージェントを導入していない。仮に技術が成熟し、企業がAIエージェントを導入するようになっても、次は実際の業務に従事する人たちがAIエージェントの使用に抵抗を示すという問題が生じるだろう」
コストの高騰やビジネスにおける不明確な価値をはじめとする数多くのリスクに企業が直面する中、Gartnerは2027年末までにAIエージェントのプロジェクトの40%以上が失敗に終わると予測している。
CIOや企業はベンダーの主張を精緻に見極めることで、より納得のいく購買判断ができ、リソースの浪費を防げる
「技術の信頼性についてベンダーの統計情報を信用するのは困難だ。ラボであれば、ベンダーの主張する通りにAIエージェントがうまく稼働するのかもしれないが、現実の環境では話が別でうまくいかないことが多い」(サンダース氏)
AIエージェントに関する主張の検証は、他のAI技術に関する検証とやや異なる。テクノロジーリサーチ企業であるOmdiaで応用AIの領域を担当するエデン・ゾラー氏(チーフアナリスト)によると、従来のAIモデルは固定されたデータセットに基づいて評価されるが、AIエージェントを評価する際は多岐のシナリオにわたる長時間の検証が必要となり、評価が非常に複雑なものになるという。
ゾラー氏はブログにおける投稿で次のように述べた(注2)。
「エージェンティックシステム、特にマルチエージェントのフレームワークでは、個々のエージェントと外部のツールやデータソースとの動的なやり取りによって、予期せぬ新たな挙動が発生することがある。こうしたシステム全体の挙動は予測が難しく、デバッグや信頼性の確保において大きな課題となるだろう」
アナリストたちはCIO Diveに対し、「テクノロジーリーダーは以下のような製品や機能に関する今後のロードマップについてベンダーに質問すべきだ」と述べた(注3)。
「企業がAIエージェントを構築したり、ソフトウェア企業が自社製品にエージェント機能を組み込んだりしたものの使い物にならなかったという失敗がいずれ発生するだろう」(クロップ氏)
ベンダーのマーケティング戦略が過剰であるため、AIエージェントに対して短期的な失望を感じることはあるかもしれないが、CIO Diveが取材したアナリストたちの間では、投資を完全に引き上げると最終的に企業に悪影響が及ぶという点で意見が一致していた。
「現在、懐疑的であることは正しい姿勢だ。一方、AIエージェントが大きな成果をもたらす技術ではないと早急に決め付けてはいけない」(クロップ氏)
CIO Diveを発行するInforma TechTargetの親会社であるInformaは、Omdiaにも出資している。ただし、InformaはCIO Diveの報道内容には一切関与していない。
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