AI活用を進めたい一方で、強化が進むデータ規制への対処に追われる情シス。ある調査結果は、こうした板挟みの状況を打開するために、ITインフラの在り方を見直す必要性を示す。鍵となるのが“選べるクラウド”だ。
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ITインフラサービスを提供するKyndrylは2025年11月12日(現地時間、以下同)、企業のクラウド戦略に関する調査報告書「2025 Kyndryl Readiness Report: Unlocking Cloud Readiness」(2025 Cloud Readiness Report)を発表した。ビジネスリーダーへの調査を基にした同報告書によると、回答者の4分の3は、クラウドサービスにおけるグローバルでのデータ保存・管理に伴う、地政学的リスクに懸念を抱いている(注1)。情報システム部門はこの状況をどう解釈し、どう対処すればよいのか。
各国・地域は「デジタル主権」(データやITインフラといったデジタル資産を、組織が主体的に管理するための能力・権利)に関する規制などのローカル要件を定めている。報告書によると、これによりクラウド戦略の変更を余儀なくされているとの回答は65%に上る。
AI活用では、さまざまなITインフラに分散したデータを横断的に活用できることが重要になる。報告書によると、回答者の84%がマルチクラウドを意図的に選択している。一方で規制の強化により、デジタル主権を巡るガバナンス要件は急速に変化している。報告書では、データの一部をパブリッククラウド(クラウドサービス)からオンプレミスサーバに回帰させているとの回答が41%ある。
Kyndrylのニコラ・セッカキ氏(グローバルクラウドプラクティスリーダー)が「AI導入の成否を左右する重要な要素になる」と指摘するのが、クラウドサービスとプライベートクラウドを密接に連携させるハイブリッドクラウドだ(注2)。ユーザー企業がデータ保存・管理に関する規制を順守しながらAIを活用する上で、ハイブリッドクラウドが役立つという。
ハイブリッドクラウドの普及により、ユーザー企業はワークロード(アプリケーションやプロセス)ごとに最適なITインフラを選択できるようになったと報告書は指摘する。とりわけ厳格なデータ規制が存在する国では、データの配置や利用方法を用途に応じて選択・調整できるハイブリッドクラウドのメリットが大きくなる。
報告書によるとハイパースケーラー(大規模クラウドベンダー)は、ユーザー企業がデータをローカルに保存できるようにするために、クラウドサーバの拡充を進めている。
Googleは2025年11月11日の発表で(注3)、今後4年でドイツのクラウドインフラおよびAIインフラに55億ユーロを投資する計画を明らかにした。ユーザー企業が各国・地域の規制を順守できるようにするためのクラウドサービス「ソブリンクラウド」の提供を継続すると、同社は説明する。2025年6月には、Microsoftもクラウドサービスとオンプレミスインフラの両方を対象とした製品/サービス群「Microsoft Sovereign Cloud」を発表し、ソブリンクラウド関連製品/サービスの提供を拡大したと発表した(注4)。
2025年10月開催のシンポジウム「Gartner IT Symposium/Xpo」に登壇した、調査会社Gartnerのバイスプレジデント・アナリストであるエド・アンダーソン氏によると、クラウドサービスやAIサービスの市場をけん引しているのは、依然としてハイパースケーラーだ(注5)。一方でAkamai TechnologiesやThe Constant Company(Vultrの名称で事業展開)、Continental Broadband(Expedient Data Centersの名称で事業展開)といった専業ベンダーが台頭している。
専業ベンダーのサービスが充実することで「ハイパースケーラーのサービスでは対処しにくかった用途にも、ユーザー企業が対処できるようになってきている」とアンダーソン氏は説明する。こうしたサービスの中には、ソブリンクラウドも含まれると同氏は付け加える。
「どのような状況であっても、ハイブリッドクラウドは極めて重要な存在になる」とアンダーソン氏は指摘する。
(注1)READINESS REPORT(Kyndryl)
(注2)Kyndryl Cloud Readiness Report: Hybrid cloud shapes the future of AI and enterprise agility(Kyndryl)
(注3)Google Announces 5.5 Billion Investment in Germany, including AI Infrastructure, through 2029(Google Cloud)
(注4)Announcing comprehensive sovereign solutions empowering European organizations(Microsoft)
(注5)4 tips for evaluating cloud AI providers(CIO Dive)
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