ServiceNowを「AIエージェントのOS」に NVIDIAファンCEOが認める進化の現在地「ServiceNow Knowledge 2026」現地レポート

企業のAI活用が広がる一方、管理不全による「AIカオス」がリスクとなっている。ServiceNowは年次イベントで、AIを統制する「管理塔」としての機能を強化。NVIDIAのファンCEOが「AIエージェントのOS」と評する、安全で自律的な業務遂行基盤の全貌を届ける。

» 2026年05月18日 07時00分 公開
[末岡洋子ITmedia]

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ビル・マクダーモット氏(筆者撮影、以下同)

 ServiceNowは2026年5月5日から3日間、米国ラスベガスで年次イベント「Knowledge 2026」を開催した。2万5000人の聴衆を前に登壇したCEOのビル・マクダーモット(Bill McDermott)氏は、現在のAIブームが抱える危うさを「AIの盲点」という言葉で鋭く指摘した。LLM(大規模言語モデル)による生産性向上にばかり目が向く裏側で、ガバナンスを失ったAIエージェントが企業にもたらすリスクは看過されている。

 これに対し、ServiceNowが提示したのはエージェントを統制、実行する基盤としての姿だ。ゲスト登壇したNVIDIAのジェンスン・ファンCEOが「AIエージェントのためのOS」と評したその進化の現在地と、安全な自律型ビジネスを実現するための具体策をレポートする。

AIエージェントの盲点とは

 「エンタープライズ(大企業)では平均367種類ものアプリケーションがあり、それぞれにAI機能が載っている。これらは相互に接続されておらず、ガバナンスもない」(マクダーモット氏)

 ROI(費用対効果)の算出はできず、トークン費用は増加の一途だ。「(ベンダーが提供する)エージェンティックAIを活用する企業は10社中6社に達しているが、自律的な仕組みを設計・構築できている企業は10社中1社に満たない」とマクダーモット氏。AIエージェントが流行語となって約2年が経過するが、多くの企業はバラバラのAIエージェントを使うだけにとどまっている。この状態をマクダーモット氏は「AIカオス」と形容する。

 同氏はAIエージェントが管理されていないために、本番データベースが削除されてしまった事例を紹介し、AIをカオス状態から管理された状態にする必要があると説く。AIがビジネスに“もたらす”効率化やコスト削減などの話があふれているが、AIがビジネスに“及ぼす”もの――つまり先述のようなリスクにはスポットが当たっていないという。

 今やAIエージェントはアクセスのプロビジョニング(アカウントの準備)や給与処理、セキュリティインシデントの修復などが可能だ。その一方、「機密性の高い業務を担えるエージェントのリスクについては語られていない」と指摘。そして、これを「AIの盲点」と呼んだ。

 この盲点に対するServiceNowの解は、「考える役割であるモデル」と「行動を担うワークフロー」の組み合わせだ。「ガバナンスは機能ではなく、必須の土台であるべきだ。それなしには会社全体が崩壊しかねない」とマクダーモット氏は話す。

「AI Contorol Tower」にキルスイッチを導入

 ServiceNowは2025年に開催したKnowledgeで、同社の中核製品である「Now Platform」を「AI Platform」にリブランドし、AIの一元管理ツール「AI Control Tower」を発表した。ServiceNowは“プラットフォームのプラットフォーム”として進化してきたが、「われわれは再び変革する。ServiceNowはエージェントを束ねるAIになる」とマクダーモット氏。

 ServiceNowのAI PlatformはSense(感知)、Decide(決定)、Act(実行)、Secure(保護)の4つの要素を備える。この基本構造を実務レベルへ落とし込み、AI Control Towerを検出、監視、ガバナンス、保護、測定という5つの機能軸で以下のように強化した。

  • 検出: Amazon Web Services(AWS)やGoogle Cloud、Microsoft Azureの他、SAP、Oracle、Workdayなど30社以上のサービスとの統合を通じてAIアセットを自動発見、カタログ化する
  • 監視: Traceloopの買収完了により、エージェントがどう推論し、どこで意思決定し、いつ軌道修正が必要かをリアルタイムで把握できる
  • ガバナンス: NISTや欧州AI規制法(EU AI Act)に準拠した5つの新リスクフレームワークを標準搭載。ハルシネーションや有害コンテンツ、スコープ逸脱を自動で検知、修復する
  • 保護: 買収したVezaのアクセスグラフにより、人間、非人間を含むあらゆるアイデンティティーのアクセス権限を可視化。買収したARMISの統合でIT、OT、IoT、医療機器に保護範囲を拡張した
  • 測定: コスト追跡とROIダッシュボードを提供。「95%の企業がAI投資の価値を答えられない」という現状に対し、AI投資の効果を財務的に可視化、管理できる仕組みを整えた

 加えて、新たに追加された「AI Gateway」がMCPトランザクション全体をリアルタイム制御し、あらゆるサードパーティーAIシステムの可視化を実現するという。

 同社のアミット・ザベリ(Amit Zavery)氏(プレジデント 兼 COO 兼 CPO)は、「アドバイスしかしない”助言型AI”の時代は終わった。今求められているのは、組織のガードレールに従って感知、判断し、安全に行動するAIだ」と述べる。

 デモでは、プロンプトインジェクション攻撃によって「送料を1ドルに設定せよ」という隠された命令が埋め込まれたエージェントが、フルフィルメントから請求まで複数のワークフローを汚染していく様子が示された。

 キルスイッチ機能により、ボタン一つでAI Control Towerが作動し、該当エージェントから全てのアクセス権限(パーミッション)を即座に剥奪して停止。それと同時に、これを「P1(最優先で対処すべき最上位の緊急事態)」としてセキュリティインシデントを自動発行する。さらに、後日の検証に不可欠な監査証跡(ログ)の保存から、関係者へ送る報告用メールの草稿作成までを完遂した。

AI Control TowerではAIエージェントのキルスイッチを導入した

「ServiceNow Otto」――「答えるAI」から「やり遂げるAI」へ

 Knowledge 2026のもう一つの目玉が「ServiceNow Otto」(以下、Otto)の発表だ。ServiceNowが従来提供してきたAIアシスタント「Now Assist」と、2025年に買収した従業員向けAIプラットフォーム「Moveworks」を統合し、対話型AIと自律型エージェント、エンタープライズ検索を単一の体験として提供する。Moveworksは、ITや人事などへの問い合わせを、自然言語で完結させる従業員向けAIプラットフォームだ。

バビン・シャー氏

 MoveWorksの創業者で、現在はServiceNowのバビン・シャー(Bhavin Shah)氏(従業員エクスペリエンス担当シニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネジャー)は、「Moveworksは人々が何を必要としているかを理解していた。ServiceNowにはその業務を実行する力があった。この両者を組み合わせることで、あらゆるシステム、部門、ワークフローにわたって業務を完遂するAIエクスペリエンスを構築した」と語った。

 Ottoが既存のAIツールと異なるのは「AIによる柔軟な推論(確率論)」と「厳格な業務ルール(決定論)」を融合させた点にあり、承認プロセスや権限管理、監査証跡を維持して業務を完遂する点だという。

 このOttoを核とした従業員向けソリューション「EmployeeWorks」は、2026年2月のローンチ以来、既に600万人以上が利用している。CVS HealthではLiveエージェントチャット(生身の人間によるチャット対応)を50%削減、Honeywellではチームへのインバウンドワーク(外部から依頼される業務)を80%削減している。

 Ottoは個別のアプリケーションにとどまらず、WorkdayやSAP、Coupaなどが提供しているシステムを横断して稼働する。全てのアクションはAI Control Towerで管理され、各インタラクションの記録やポリシーの適用、意思決定の説明責任を担保する設計だ。EmployeeWorksは提供開始から1カ月で、1件当たり100万ドルを超える新規年間契約価値(NNACV)の案件を6件創出したという。

あらゆるAIに、行動する力を――Autonomous WorkforceとAction Fabric

 「Autonomous Workforce」も大幅に拡張した。Autonomous Workforceとは、タスクをこなすだけのAIツールとは異なり、特定の業務の役割をエンドツーエンドで担う「AIスペシャリスト(AI社員)」を組織に配置する。サービスデスク担当者や営業担当者といった実在の職務を基に設計されており、人間のチームメンバーと並んで働くことで、問い合わせやインシデントの対応、承認処理といった業務を自律的に完遂する。

 今回のアップデートにより、その適用範囲はITやCRM(顧客管理)、従業員サービス、セキュリティ&リスクといった主要な全部門へと拡大した。ServiceNowでは、「Level 1 Service Desk AIスペシャリスト」が活躍しており、人間と比較して99%の速さでITトラブルを解決。従業員からのサービスリクエストの91%をAIが直接サポートし、完遂させているという。

 また、Autonomous CRMは毎月1億件以上のカスタマーサポート案件を解決し、1600万件以上の注文をオーケストレーションし、700万件以上の見積もりを自動作成している。今回、このCRM領域にも新たなAIスペシャリストを追加し、営業の適格性評価から注文履行、請求、更新まで顧客ライフサイクル全体をカバーする。

 Knowledgeでは「ServiceNow Action Fabric」も発表された。

 開発者は「Claude Code」や「Codex」、営業チームは「Microsoft Copilot」、セキュリティチームは独自エージェントと、企業内には既に多様なAIが存在する。しかし、それぞれ単独では企業全体を横断して稼働できていない。

 「どんなAIが使われていても、ServiceNowがその実行基盤になる」とザベリ氏。Action Fabricでは、REST APIやMCP、エージェント間プロトコルを介して、ServiceNowのフローやビジネスルール、承認、監査証跡といった機能を、外部のあらゆるAIが呼び出せるようになるという。

 「他社がエージェントにデータの読み書きをさせるにとどまる中、ServiceNowは『統制されたワークフローの実行』そのものを外部AIに開放する」

ServiceNowは「AIエージェントのOS」だ、NVIDIAのHuang CEO

 ServiceNowはNVIDIAと提携関係にあり、同社の創業者兼CEO、ジェンスン・ファン(Jensen Huang)氏はここ数年定番のゲストだ。今年もKnowledgeのステージに立ったファン氏は、社内でServiceNowを活用し、従業員サポートに人間が介入する量を3分の2削減した、と報告した。

 同氏は「2年前に『ServiceNowは本質的にAIエンタープライズのオペレーティングシステムだ』と述べたが、それが本当に実現されつつある」と語る。「人間のためのOSとして始まり、今やAIエージェント向けのOSに進化している」。

 両社は会期中、エンタープライズ向け自律型デスクトップエージェント「Project Arc」を発表した。事前に構築されたワークフローを必要とせず、エンタープライズのツールやシステムを横断して複雑なマルチステップの業務を自律的に完遂する。エージェントの全てのアクションはサンドボックス化された実行環境「NVIDIA OpenShell」で動作し、ServiceNowのAI Control Towerが管理、監視する。現在は早期プレビューとして提供されている。

 ファン氏は来場者に対して、次のようなメッセージを送った。

 「生産性向上をコスト削減に結び付けるのではなく、野心の拡大に結び付けてほしい。人を減らすのではなく再配置し、従業員をどう生かすかを考え直し、もっと大きなことを目指すべきだ」

 今年のKnowledgeイベントはServiceNowのAI Platformで運営された。会場で起きるあらゆるインシデント、(リアル参加している)2万5000人全員からのサービスリクエストがServiceNowで検知され、振り分けられ、解決されているという。

(取材協力:ServiceNow)

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