「全自動にできるがやらない」 OpsRamp創業者が語る、インフラ自律化の超えられない一線「HPE Discover Las Vegas 2026」現地レポート

HPEの年次イベントでOpsRamp創業者のヴァルマ・クナパラジュ氏にインタビューした。AIインフラ運用の最新トレンドや、新発表のコパイロットがもたらす自律化の現在地、人間が介在する重要性を聞いた。

» 2026年07月09日 07時00分 公開
[末岡洋子ITmedia]

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 Hewlett Packard Enterprise(HPE)がインフラの運用を中心とするソフトウェアを強化している。その中核を担うのが、買収したオブザバビリティ(可観測性)ツールの「OpsRamp」だ。同製品はハイブリッドクラウドの運用管理からスタートし、現在はAIエージェントの監視などにも領域を拡大している。

ヴァルマ・クナパラジュ氏

 同社が2026年6月15〜18日(現地時間)に米ラスベガスで開催した年次イベント「HPE Discover 2026」で、シニアバイスプレジデントとしてOpsRampを統括するヴァルマ・クナパラジュ(Varma Kunaparaju)氏(クラウドプラットフォーム&OpsRamp Software担当ゼネラルマネジャー)に話を聞いた。

レガシーITOpsへの問題意識から生まれた

 OpsRampを提供する同名の企業OpsRampは2014年創業、2023年HPEに買収された。クナパラジュ氏は会社立ち上げのきっかけを次のように振り返る。

 「当時、市場にあったインフラ管理ツールは全て買収を繰り返してつぎはぎで作られたプラットフォームであり、レガシーインフラ向けに設計されていた。われわれは、ハイブリッドおよびクラウドの文脈で、ゼロから構築したモダンなIT運用管理プラットフォームを作ることができると考えた」

 日本を含め各地域(ローカル)に広く普及しているインフラ管理ツールが存在する中で、それらを置き換える「グローバルな共通運用プラットフォーム」の実現も目的の一つだったと付け加える。

 特徴的だったのは、企業内のIT部門だけでなく、サービスプロバイダーやパートナーなど、多様なステークホルダーが協調してビジネス成果を生み出す形を当初から想定していた点だ。「エンタープライズITが、自らサービスプロバイダーのように振る舞えるプラットフォーム」という発想が、OpsRampの設計思想の根底にある。

 この思想に基づき、オンプレミス、プライベートクラウド、パブリッククラウドを横断するハイブリッドインフラの監視・管理プラットフォームとしてOpsRampは構築された。単なるインフラの死活監視やメトリクスの収集にとどまらず、アラートの相関分析や根本原因の特定、さらには復旧アクションの推奨までをカバーする包括的な機能を備えている。

 HPEによる買収は2023年、現在クナパラジュ氏はHPEの下でプロダクトのリードとして、2つの取り組みを進めている。1つ目はHPEの「GreenLake」プラットフォームとソリューションの価値を高めること、2つ目は、クラウドOpsソフトウェアとして独自に市場展開し、HPEのソフトウェア収益源を作ることだ。

 中立性は引き続き保たれている。「われわれのプラットフォームはHPEだけでなく、非HPE環境も管理する。それが核心的な差別化だ」とクナパラジュ氏は強調する。現在でもOpsRampの収益のうちHPE関連が35〜45%、残る55〜60%は依然として非HPEのマルチベンダー、マルチクラウドの顧客だという。

 「エンタープライズのインフラは均質ではない。オンプレにはCisco、Dell、Fortinetなどの製品があり、クラウドは『Amazon Web Services』(AWS)、『Microsoft Azure』『Google Cloud』などが混在している。フルスタックのオブザバビリティを提供するためには、単一ベンダーに閉じることはできない」

AIファクトリー全体を監視する

 HPEは2025年、OpsRampとデータ保護の「HPE Zerto Software」、仮想化の「HPE Morpheus Enterprise Software」を組み合わせた「HPE CloudOps Software suite」を発表した。オンプレミスやクラウド、エッジなどで構成されるハイブリッドクラウド環境の運用のための統合ソフトウェアとなる。CloudOps SoftwareはエージェンティックAIを活用するAIOps「GreenLake Intelligence」と連携する。

 今年のHPE Discoverでは、GreenLake IntelligenceのAI機能として新たに「HPE OpsRamp Operations Copilot」が発表された。AIエージェントやLLM(大規模言語モデル)を含むAIファクトリー全体のオブザバビリティを提供するコパイロットとして位置付けられ、観測(Observe)、推論・相関(Reason)、実行(Act)の3段階を支援する。

 オブザバビリティの対象は従来のインフラ(サーバ、GPU、ストレージ、ネットワーク)に加え、AIモデルの挙動やAIエージェントの動作状況にまで拡大した。AIファクトリーの普及に伴い、「どのモデルがどれだけのトークンを消費しているか」「エージェントが意図した通りに動作しているか」といった新たな監視ニーズが生まれており、これに正面から応えるのが今回の発表の核心だ。推論・相関では複数ドメインにまたがるシグナルを相関分析し、アラートが発生した場所を超えた根本原因を特定する。実行ではリソース最適化、問題解決の加速、実行のガバナンスを担う。

 具体的な機能は3つ。インフラとクラウド、アプリ、AI環境を横断する「Cross-domain telemetry」と、アラートが起きたドメインを越えた根本原因を特定する「Root cause analysis」、スタック全体にわたる修正アクションを推奨する「Guided remediation」だ。

 同時に発表された「HPE Morpheus Orchestration Copilot」は、自然言語でブループリント作成やワークフロー自動化を実現するコパイロットだ。OpsRamp Operations Copilotが観測、診断、是正の提案を担い、両者は「GreenLake Intelligence Mesh」という共通基盤を介して連携する。

 「GreenLake IntelligenceのチャットインタフェースでMorpheusがプロビジョニングしたワークロードのキャパシティーを問えば、GreenLake IntelligenceのコパイロットがOpsRampやMorpheusなど各エージェントシステムに問い合わせて答えを返す。将来的にはサードパーティーのエージェントとも連携させ、設計・構築(Day 0/1)から運用・保守(Day 2)まで、インフラのライフサイクル全体をカバーするエンド・ツー・エンドのワークフローを実現したい」とクナパラジュ氏は説明した。

インフラ運用の「自律化」はどこまで進んでいるのか

 今回の発表で特に注目される機能の一つが、修正アクションを推奨する「Guided remediation」だ。では、どこまでが自律化されており、どこから人間の判断が必要になるのだろうか。

 クナパラジュ氏は、「モデルが本当に自律的に動作し、自律的なアクションを実行できるようになったのは、ここ4〜5カ月のことだ」とした上で、「しかし、インフラ運用の文脈においては、多くのケースで『Human-in-the-loop(人間が介在する仕組み)』が依然として正当化される」と現状を語った。

 標準的なSOP(標準作業手順)に基づく定型タスクは完全自動化が可能だ。しかし根本原因の特定を起点とした修復アクションには、まだ人間の確認が必要だという。「コパイロットは根本原因の候補を2〜3個提示するが、それはあくまで推定だ。AIが断言するのではなく、人のオペレーターが候補を見て判断し、実行を承認する」とクナパラジュ氏。

 顧客は運用の自動化を受け入れる準備ができているのか。クナパラジュ氏は、Level 1(パスワードリセットなどの一次対応)、Level 2(二次対応、専門知識が必要なレベル)の定型タスク自動化には抵抗がないが、根本原因に基づく修復アクションの実行では、まだ承認を求める声が強いという。

 「自律化へのジャーニーは二択ではなく、継続的なプロセスだ。キャパシティーの自動追加は自律化しやすいが、大規模障害時のフェイルオーバーのような影響範囲の大きいアクションは当面はHuman-in-the-loopであるべきだ。既知のパターンは自動化し、未知の領域には人間を使う、これが現在の最適解になっている」

 今回の発表のもう一つの柱が、ServiceNowとの新パートナーシップだ。

 ServiceNowはIT部門向けのサービス管理(ITSM)ソフトウェアのグローバルリーダーだ。ServiceNowのITSMおよびAI駆動サービスオペレーションとGreenLake Intelligence、OpsRamp Operations Copilotを統合し、インフラの可観測性からエンド・ツー・エンドのサービスデリバリーまでを一貫して実現するというものだ。

 提携の下での第一のユースケースは、OpsRamp側の運用エージェント機能とServiceNow側のサービスマネジメント機能を接続し、オペレーションからサービスマネジメントまでのエンド・ツー・エンドワークフローを作ることだ。

 一方で「提携は独占的なものではない」とクナパラジュ氏。「GreenLake Intelligenceはメッシュアーキテクチャとしてさまざまな統合に対応している。ServiceNowはITSMのデファクトリーダーであり、最初の大きな統合先として非常に価値があるが、これは第一弾にすぎない」と述べた。

トークンコストの管理 OpenTelemetryでマルチベンダー対応

 AIインフラ運用で浮上している課題の一つが、LLMのトークン消費量の管理だ。OpsRamp Operations CopilotはAIモデルのトークン消費ガバナンス機能を持つ。

 ここでのポイントはOpenTelemetryだ。OpenTelemetry(OTel)は、アプリケーションやインフラの監視データ(メトリクス・ログ・トレース)を収集、送信するためのオープンソース標準規格。Cloud Native Computing Foundation(CNCF)が管理し、AWS、Google、Microsoft、Meta、NVIDIAなど主要ベンダーが対応している。AI分野ではLLMのトークン消費量やモデルのレイテンシなどをOpenTelemetry経由で出力する動きが急速に広まっているという。

 「モデル各社もインフラのランタイム環境も、既にOpenTelemetryを通じてトークン消費やAI関連の可観測性データを出力している。OpsRampのAIモデル、トークン可観測性は全てOpenTelemetryに基づいているため、HPEに限定されず、さまざまなLLM、VLLMおよびランタイム環境に対応できる」とクナパラジュ氏は説明した。

 企業全体のトークンコスト戦略については、「フロンティアモデルは高コストな一方、企業が自社データとオープンソースモデルを組み合わせてコストを最適化し、必要な場面だけ外部の高価なモデルを使う”ハイブリッド型”が主流になる」との見方を示した。

競合とは「競争と共存」

 オブザバビリティはCiscoがSplunkを買収するなど、競争が激しい分野だ。SplunkやDatadogとの競合関係について、クナパラジュ氏は競争と補完の関係だと述べる。

 「Splunkはセキュリティ、SIEMに重心があり、ログに特化している。Datadogはパブリッククラウドのオブザバビリティに強い。OpsRampは『インフラはハイブリッド』という前提で作られており、ハイブリッド環境でのフルスタックのオブザバビリティーが強み」とクナパラジュ氏は位置付ける。そのため、競合関係は単純ではないという。「顧客がセキュリティ目的でSplunkを使いながらオブザバビリティにOpsRampを使うケース、Datadogをパブリッククラウドのオブザバビリティに使いながらハイブリッド部分にOpsRampを使うケースも多い。共存する場合もあれば、置き換える場合もある」と現状を説明した。

 今後について、クナパラジュ氏は、「AIのためのオブザバビリティ」と「オブザバビリティのためのAI」という2つの方向性で進めるという。前者ではAIエージェントのインスツルメンテーションやアジェンティック運用のための可観測性の強化、後者はコパイロットの機能強化で、根本原因分析、解決および周辺の改善を加速すると述べた。

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