「数年後、AIは同僚になる」 DataRobot CEOが語る、ビジネス価値を生む「人とAI」の関係性

AIの本番活用が進む中、コストや管理の課題を乗り越え、いかにビジネス価値を生み出すか。DataRobotのデバンジャン・サハCEOに、日米の動向や自社データ活用の重要性、そしてAIを「新たな同僚」として迎える未来の組織像を聞く。

» 2026年07月27日 07時00分 公開
[斎藤公二ITmedia]

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デバンジャン・サハ氏

 AIエージェントが本番活用フェーズに移行する中、PoC(概念実証)や開発段階では見えなかった課題に直面し、頭を悩ませる企業が増えている。想定を上回るトークン消費によってコストが増大し、既存のモニタリングツールではLLMやAIエージェントの利用状況を十分に可視化できないため、セキュリティやガバナンス上のリスクも高まる。結果として、個人レベルの業務効率化ツールの域を出ず、ROI(投資対効果)の向上に結び付かないとの見方も根強く残っている。

 そうした悩みに対して「まずガバナンスとコントロールが必要」と訴えるのが、2012年に創業し、AI市場をリードしてきたDataRobotだ。同社のデバンジャン・サハ(Debanjan Saha)CEOに、AI活用の壁を突破し、ビジネス価値を生み出すためのアプローチを聞いた。

日本企業は「人の仕事を奪う」よりも「人の作業を助ける」意識が強い

──DataRobotの企業ビジョンや事業概要、日本での導入事例を教えてください。

サハ氏: 2012年の創立以来、機械学習やAIの民主化を目指して事業を展開してきた。近年はAIのガバナンスやエージェントに注力しており、オンプレミスとパブリッククラウド、ソブリン環境など、場所を問わず利用できるプラットフォームを提供している。

 日本では予測AIが製造業や小売・流通業の需要予測などで豊富な実績を持つ他、近年は製造業でフィジカルAIへの関心が高まり、金融業やサービス業では生成AIやAIエージェントを活用した顧客対応へのニーズも拡大している。

──米国と日本におけるAIエージェントの導入はどういった点が異なりますか。

サハ氏: スピードが違う。米国はリスクをとって最新テクノロジーに投資をする。データセンターや研究開発への投資、ベンチャーキャピタルへの投資も多い。AIエージェントについても、たくさんのパイロットプロジェクトを実施し、数え切れない失敗をしている。一方、日本は新しいテクノロジーに対して保守的だ。市場が成熟するのを待つため、導入スピードは遅い。ただ、プロダクトの品質が向上し、説明責任の問題がクリアになると、そこからは速い。

 AIエージェントの捉え方にも違いがある。日本では労働人口の不足が問題化しており、AIエージェント対しても「人の作業を肩代わりし助けてくれる」という意識がある。これに対し米国では、AIエージェントが「人の仕事を奪う」ことへの懸念が強い。

──日本企業のAIエージェント導入は遅れていますか。

サハ氏: 米国よりは遅れている。ただ、機械学習(Machine Learning)や予測AI(Predictive AI)では日本がグローバルより先行し、DataRobotでも日本市場で数多くの顧客をサポートしてきた。今は、導入に向けて機が熟し始めているタイミングだ。人手不足に代表されるように導入のインセンティブは高く、関心の高さも肌で感じている。さまざまな課題が解消されると一気に普及するだろう。

パイロット開発から本場環境への移行でユーザーが直面する課題

──AIエージェントについて企業はどういった課題を抱えていますか。

サハ氏: 担当者のペルソナごとに3つの課題があると考えている。

 1つ目は、開発者のニーズにどう応えるかだ。開発者は、自分の好きなツールをさまざまな選択肢から自由に選び、エージェントやそのための基盤などを開発しようとする。ツールや基盤にはコストがかかるし、AIは進化が速いので環境を整備している間に古くなることもある。

 2つ目は、ビジネスユーザーにどう成果を出してもらうかだ。AIエージェントは個人で開発して個人で利用する程度で終わってしまうことが多い。また、AIエージェントの数が増えても、ビジネスのROIを生まないことも多い。

 3つ目は、マネジメント層がAI環境をどう管理していくかだ。AIエージェントはパイロット開発から本番環境への移行がうまくいかないことが多い。その背景には、コストやガバナンス、オブザーバビリティ、監査の体制を築くことの難しさがある。

──そうした課題に対してはどんなアプローチが有効ですか。

サハ氏: まずは、ガバナンスだ。開発者やビジネスユーザーのニーズに応えるためには、適切なガバナンスとコントロールが必要だ。加えて適切なコスト管理やオブザーバビリティ、監視も重要だ。具体的には、LLMやAIエージェントを誰がどう使い、どのくらいコストがかかっているか、どんな効果が出ているかなどを管理していく。それらなしにパイロット環境から本番環境への移行は実現できない。

 次に、より多くの選択肢を提供することだ。開発環境やツールなどはもちろん、クラウドやオンプレミス、ソブリン環境など、どこでも利用できるようにする。開発者には目的に応じて最適なツールを自由に選択できる環境を提供し、ビジネスユーザーには業務のあらゆる場面でAIを活用できる環境を実現する。

 さらに、フレキシビリティの確保も重要だ。ガバナンスとコントロールをユーザーのニーズや環境に合わせられるようにする。ガバナンスを強化しようとして単一のプラットフォームに統合してしまうと、フレキシビリティが失われることがある。

 3つのペルソナごとに必要なことを整理すると、開発者には自由を、ビジネスユーザーにはビジネス変革につながる環境を、そして、マネジメント層にはガバナンスを提供することが重要だ。

事業を差別化するポイントは企業自身が持つナレッジやデータ

──DataRobotが提供するエージェントワークフォースプラットフォームについて教えてください。競合他社と比べて異なる点、特に優れた点はありますか。

サハ氏: AIエージェントのプラットフォームには2つのタイプがある。1つ目はAmazon Web Service、Microsoft Azure、Google Cloudなどハイパースケーラーが提供するプラットフォームだ。このプラットフォームは包括的で一貫性があるが、それぞれに固有の機能があり、別のプラットフォームに移行することが難しい。これに対し、DataRobotはハイパースケーラーのどのプラットフォームでも利用できる上、簡単にプラットフォームの枠を超えて移行できる。

 2つ目はスタートアップが提供するAIプラットフォームだ。このプラットフォームはユーザーのニーズに応じて個別のAI機能を提供できるが、システム全体では一貫性を保てないケースが多い。現在、市場のAIエージェントの機能やツールセットは50を超える。ユーザーがそれを組み合わせて1つのソリューションとして利用するのは困難だ。これに対し、DataRobotはさまざまなAI機能の環境構築から運用、ガバナンスまでエンドツーエンドでサポートできる。

──パートナーとはどんな取り組みを進めていますか。

サハ氏: 例えば「Dell AI Factory with NVIDIA」がある。DellとNVIDIAが提供する世界最高水準のAIインフラとDataRobotのソフトウェアが統合されることで、AIを安全かつ継続的に運用できる。DataRobotがAIの運用、実行プラットフォームとして中核的な役割を担っている。

──日本企業への支援体制を教えてください。

サハ氏: DataRobotにとって日本は米国に次ぐ市場だ。東京と大阪の拠点を中心に優れた日本人スタッフが製造や金融、小売・流通、サービスなど数百社の顧客企業に製品を提供している。支援内容は米国と同様だ。開発者がストレスなくAIエージェントを開発、運用できるようにすること、ビジネスユーザーのROIを視覚化すること、マネジメント層にコスト管理やオブザーバビリティ、ガバナンスの支援をすることだ。単に製品を提供するだけでなく、システムの設計や運用の最適化などの支援サービスも実施している。

──日本企業から特に求められている機能やサービスはありますか。

サハ氏: 近年はソブリンAIへの関心が高い。モデルやLLMは誰でもアクセス可能になったため、それ自体は事業を差別化するポイントにはならない。差別化のポイントになるのは、企業が持つナレッジやデータだ。自社のナレッジやデータを外部のLLMに読まれないように、適切に管理していくことが重要だ。

 ソブリンAIを企業単位ではなく、国単位で見た場合、国ごとにAIを作るという話にもなる。安全保障の観点から防衛のためにAIに投資する動きも活発で、官公庁・政府機関から相談を受けることも増えてきた。

事故映像をAIで分析して保険金支払をスムーズに ビジネスROIを高めるには

──AIエージェントでビジネスROIを生むにはどのような方法がありますか。

サハ氏: 一つは、業務の効率化と最適化だ。企業の業務プロセスは複雑で、オペレーション部門や営業、法務、財務などの複数の部門が関わる。担当者も多く、やりとりは電子メールや口頭、電話、チャットなどさまざまだ。作業そのものより、人のコーディネーションのほうが時間がかかる。まずはAIエージェントを使ってそうしたやりとりを効率化する。AIエージェントは24時間365日動くため時間的なラグがなくなり、これまでの人のやりとりを大幅に削減できる。

 もう一つは、新しい価値の創出だ。AIを活用した創薬などがある。DataRobotも、パートナー企業と協力して創薬に特化したエージェント型AIプラットフォームの取り組みを進めている。また、デジタルツインやデジタルシミュレーションでの生成AIやAIエージェントの活用も進んでいる。

──具体的なユースケースや顧客事例があれば教えてください。

サハ氏: DataRobotのユーザー企業の損害保険会社では、車両事故の際に契約者自身が車載カメラに記録した映像を保険会社の専用Webサイトにアップロードすると、AIエージェントが映像を分析して修理コストや過失割合を計算し、保険金の支払いをスムーズに進めるサービスを提供している。

──AIを活用して変革を実現するポイントは何だと考えますか。

サハ氏: 人とエージェントの新しい関係性を築くことだ。数年後にはAIエージェントがツールではなく人間の同僚と同じ存在になっているだろう。人とエージェントが相談しながら問題解決を図っていく中で、業務フローはもちろん、組織風土や企業文化も根本的に変わる。

 エージェントを採用するときは、人と同じように面接し、トライアルし、トレーニングをする。評価するときも人と同じようにパフォーマンス評価をし、退職するときもAIが学んだナレッジやコンテキスト、スキルを次の人やエージェントに引き継ぐ。DataRobotのプラットフォームは、そうした未来に向けて、AIのライフサイクル全体を管理できるようにしていく。

──最後にメッセージをいただけますか。

サハ氏: AIは人の仕事を奪うものではなく、新しい仕事を生むツールだ。時間や工数の関係でこれまで現実的が難しかったことを簡単にこなせるようになった。一方で、これまで想像もできなかったことも実現できるようになった。生成AIやAIエージェントを中心に企業を根本から変える破壊的なイノベーションが起こっている。

 実際に、AIエージェントをパイロットから本番環境に移行する際にポイントになるのはガバナンスだ。ガバナンスが徹底できなければビジネスのROIに結び付かず、投資継続も難しくなる。企業変革に向けてまずはガバナンスとコントロールに力を注いでほしい。

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