年の瀬がいよいよ押し迫った12月28日、米OracleはPeopleSoft株式の75%を取得し、経営権を確保したことを明らかにした。株式買付けの期限をさらに1週間延長し、90%以上を確保、合併を目指すことになる。「PeopleSoftは成長戦略の源になるはず」と日本オラクルの新宅正明社長は話す。新たな成長戦略へと踏み出すことになった同社の新宅氏に話を聞いた。

ITmedia 2004年は情報漏えいをはじめ、企業の不祥事が相次ぎました。

新宅 法律違反や制度違反という事実が突きつけられたとき、隠ぺいを指示する経営トップはもはやいないでしょう。つまり、経営トップまで事実が届いていないことが問題なのです。CEO、監査役、社外取締役らが、情報をトランスペアレントにチェックできる制度やドキュメント、システムを作成するという、当たり前のことが必要でしょう。

ITmedia Oracleではどのように情報の透明性を確保しているのでしょうか。

新宅 会計系でいえば、売り上げの確認というのが非常に重要です。制度が変われば合わせなければなりませんし、売り上げの確認には、要件が整っているかどうかという人の判断が必要になります。日本オラクルでは、システムでの処理から、人が判断するところまで、Oracleコーポレーションの財務チームが組織するシェアードサービスに委託しています。制度の維持・管理、売上確認の判断を委ねることで私はリスクを回避できます。これまでには、「これは売り上げに入れていいんじゃないか」といった融通というか、糊代が経営にはいっぱいありました。しかし、それはもう許されないのです。シェアードサービスに委託することで、新しい一歩を踏み出しています。システムとプロセスの両輪でガバナンスを徹底している日本オラクルは、日本の企業にとってもショーケースになり得ると思います。

ミドルウェア統合でTCO削減にコミット

ITmedia 昨年12月、サンフランシスコのOracle OpenWorldでは、Oracle Application Server 10gの機能拡張が目立ちました。

新宅 システムをつなぐ技術は昔からありましたが、そこにリアルタイム性が要求され始めています。そして、会社の資産である顧客のデータをあるデザインの下にきちんと管理していく必要が出てきました。単一のデータモデルによってデータの統合が必要とされているのだと思います。それを実現できるのが「Oracle Data Hub」です。「インテグレーション」という言葉でプロセスとデータの統合を実現していくのはミドルウェアベンダーのチャレンジです。

ITmedia Oracle OpenWorldでは、アプリケーションサーバも「Oracle 10g」としてデータベースと一緒に売りたいという印象を受けました。

新宅 アプリケーションサーバを前面に押し立て、ミドルウェアの統合というメッセージを強く出していくことになります。もはやOracle Application Server 10gは、気に入ればこれも買ってください、という別製品ではありません。エンタープライズグリッドもアプリケーションサーバなしではできません。データベースだけでは、TCO削減の効果は一部に留まってしまいます。

 Oracleは、低いコストで最新の技術を活用できる環境の提供を約束したのです。そのためにはオープンプラットフォームにデータベースを載せるだけでは十分ではないのです。ベスト・オブ・ブリードでさまざまなベンダーのミドルウェアを導入するのに比べて、システム統合の基盤、開発の基盤、グリッドの基盤としてOracle Application Server 10gを採用してもらえば、TCOを削減できるエンタープライズアーキテクチャを描けるようにしたいと思います。

PeopleSoftは成長戦略の源になる

ITmedia 年末、PeopleSoftの経営権をほぼ確保できました。

新宅 PeopleSoftの買収、そして合併は、Oracleは新たな成長路線に踏み出したことを意味します。PeopleSoftは成長戦略の源になるはずです。顧客ベースがあるということは最も大事ですし、社員も1万人以上で、Oracleの20%強に相当します。これは極めて重要です。

ITmedia しかし、顧客ベースが狙いの買収もたくさんあります。

新宅 Oracleの過去の買収を見ればよく分ると思います。1990年代半ば、ディジタルイクイップメントのRdb事業を統合しようとしたとき、日本の顧客はとても大きな不安を抱きました。


「新しい成長路線へと踏み出すにはまだまだ多くの人とスキルが不可欠」と新宅氏

 「Rdbの機能がなくなる?」「Oracleでは代替できないのでは?」「次のRdbはリリースされないのでは?」──顧客にはさまざまな不安があり、深刻なクレームを抱える可能性がありました。しかし、結果はRdbの顧客には十二分に満足していただきました。約束どおりメンテナンスリリースを継続しながら、Rdbの先進技術をOracleに統合し、顧客のシステムライフに影響を与えない提案ができたと思います。

 開発陣の多くもOracleに残ってくれました。Rdbの責任者だったチャック・ロズワットは、現在テクノロジー製品(データベースおよびアプリケーションサーバ)のトップに就任しています。

ITmedia 日本市場で統合に向けた具体的な作業が始まっているのですか?

新宅 PeopleSoftの製品群を第3者がすぐに扱うことができるわけではありません。さらに日本オラクルは資本構成が異なるため、ほかの地域のようにすぐに統合できません。ある一定の期間は、兄弟会社が国内に存在することになります。事業継続のためには、PeopleSoftの社員の方々が必要なのです。しかも、日本オラクルとPeopleSoft日本法人が密なる連携を図り、顧客やパートナーに迷惑をかけないことが大切なのです。

ITmedia 新年早々、組織の改編がありました。狙いを教えてください。

新宅 1月1日からプロダクト統括本部を発足させ、テクノロジー製品とアプリケーション製品それぞれに責任者を置き、市場へのメッセージを含む製品戦略、販売計画を推進します。Oracle 10gもアプリケーションサーバを統合したインフラとしてメッセージを出す必要がありますし、E-Business Suiteも新製品があり、さらにPeopleSoftの製品も加わります。こちらもきちんとメッセージを出していかなければなりません。

 データベースとアプリケーションのビジネスは、似て非なるものです。スキルも違えば、経験も違います。特にアプリケーションは多様化・複雑化しています。提案能力も専門性が要求されます。専門性を無視して大きな発展は望めません。2004年初めからそうした専門性を保持できる組織を作ることを検討してきました。サポートやコンサルティングを含めれば、年間百数十億円を軽く超えるビジネスです。PeopleSoftも組み込み、将来には500億円規模の事業計画を描けるようにしたいと思っています。売り上げの面から会社を大きく成長させるのはアプリケーションになります。そのためには新しいビジネスモデルや人のノウハウをつくらなければなりません。

定例となっている機関投資家とのミーティングが年末にロンドンであるため、元日は戻りの飛行機の上で迎えることになります。日本に帰ってからは、昨年母を亡くしたばかりなので、郷里(大阪)でお墓参りをし、3日には東京の自宅に戻って少しゆっくりする程度ですね。4日からはもう仕事です(苦笑)。

[ITmedia]

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