2004年は、SCO問題は相変わらず泥沼化の様相を呈していたが、ノベルのSUSE LINUX買収や、サンがSolarisをオープンソースで提供するなど大きなニュースもあった。また、アジア圏での国家単位のオープンソースの取り組みについてもそれなりに進んできた格好となっている。OSDL Inc.の平野氏に、この1年の総括と、今Linuxの最前線ではどういったことが問題となっているのかを聞いた。
OSDL自体の方向性もはっきりとしてきた1年
ITmedia エンタープライズにおけるLinuxの採用が顕著に進んでいる印象を受けた2004年でしたが、OSDLにとっての2004年はどんな年でしたか。
平野 OSDLも設立されて4年たちましたが、エンタープライズ領域に対して、オープンソースやLinuxをプロモーションしていくという方向性がよりはっきりしてきた年でした。コミュニティーと企業がどのように共存していこうかということがかなりはっきりしてきたのではないでしょうか。
ITmedia この1年、ノベルのSUSE LINUX買収や、サンがSolarisをオープンソースで提供、といった大きな発表が相次ぎました。Linuxに対する企業の取り組みをどう感じましたか。
平野 まだまだ誤解されている部分も多いと思います。例えば、ソースコードを開示したからオープンソース、ということでは必ずしもないわけです。結局のところ、だれもがハックできるような状態でなければ、オープンソースの意義も薄れます。
ソフトやテクノロジーがオープンの方向に向かうことは悪いことではないですが、影響力のある企業がオープンソースを意図的に解釈していることもあり、そういったものを見るにつけ、まだまだ認識のズレがあると感じています。
デスクトップLinuxはアジアから
ITmedia 日中韓で進めるOSS推進フォーラムなども具体的な活動が始まっていますが、アジアのLinux動向はどうでしょうか。
平野 これまで中国や韓国でのオープンソースのとらえ方というと、ローカルの人たちの能力に依存して、都合の良い部分だけ進めるようなところがありました。
「デスクトップLinuxの絵を描くことは現状ではできていない。そうした現状から一歩踏み出すにはまず要求をまとめていくことが重要」と話す平野氏
中国であればデスクトップLinuxへの取り組みなどがよい例ですが、ここ3年ほどで、さまざまな試みが行われ、実際に成果物も出てきているという見方もあります。しかし、小さなコミュニティーの中だけで、ある意味進化させたと思っていた部分が、世の中の動きと比較してみると、実は方向がずれていたということもあるのです。
このため、ローカルな要求をグローバル動きと連携しながら進める必要性が生じるわけですが、このことが、中国においてもOSDLのような組織が注目されてきた理由であると思います。そういった方向性を修正しつつあることで、中国のデスクトップLinuxが、欧米のデスクトップLinuxにいい意味での影響を与える可能性も出てくるのではないでしょうか。大手のLinuxベンダーはエンタープライズに目を向けていることもあり、この分野が後回しになっている印象があります。そのため、この分野はアジアから進むのではないかという期待もあります。
ITmedia デスクトップLinuxについてはどういった見方をされていますか。
平野 現在、各LinuxベンダーからデスクトップLinuxと称するものが出ていますが、実際はサーバベースのものにOpenoffice.orgなどの成果を追加してデスクトップ用の味付けをしただけのもので、デスクトップLinuxと呼ぶには抵抗があります。
デスクトップLinuxに必要なキーワードを並べてみると、エンドユーザーのレベルで快適にアプリケーションを動作させるための機能、例えばファースト・ブート、軽いリアルタイム性、そしてデスクトップ用に最適化されたスケジューラやメモリ管理の方法などが挙げられますが、それらを実現するのにサーバ用途のLinuxと同じ構成では、うまく実現できません。
このことはデスクトップLinuxを語る際にとても重要な議論です。デスクトップ系のユーザー・インタフェースをもう少し整備することも含め、デスクトップ用途で何が必要かということを規定すべきフェーズに入ってきています。
バイナリ互換を求めるのはISVやシステムインテグレーター
ITmedia エンタープライズLinuxの関しては、2004年11月に、Conectiva、Mandrakesoft、Progeny、ターボリナックスの4社が、Linux Core Consortium(LCC)を結成し、LSB 2.0を基盤とした共通コアインプリメンテーション開発に当たると発表しています。
平野 それらの活動を通じてLinuxがプロモーションされ、認知度やマーケットが広がり、ビジネスが拡大することはいいことです。LCCに関しては、まだその方向性の全容が明らかでない部分もあるのでコメントが難しいのですが、シングルコアという部分が気になりました。OSDLは必ずしもシングルコアを目指すのではなく、むしろカーネルやディストリビューションが複数あっても、アプリケーションのポータビリティは保ちましょうというスタンスだからです。
ITmedia アプリケーションのポータビリティを重要と考えるのはなぜですか。
平野 アプリケーション・ポータビリティはバイナリの互換性と言い換えられます。バイナリ互換がない理由は、カーネルやライブラリ、コンパイラの問題もありますが、現時点で、より重要なものとして、構成ファイルやディレクトリの配置を規定するFHS(File Hierarchy System)の不統一の問題です。各Linuxベンダーでバラバラなのです。仮にプログラムがバイナリレベルで互換性があっても、正常に動作しないことがあり、お億九の原因はFHSの不統一性です。ISVなどが苦労しているのはまさにこの点です。
ISVからすれば、リファレンスプラットフォームのようなものがあって、その上で自社のソフトを検証すればバイナリ互換でRed HatでもNOVELL SUSEでも動作する、といった状況は望ましいものでしょう。これがISVから見たアプリケーション・ポータビリティです。
Linuxベンダー各社にヒアリングをしてみると、やはりこの部分は統一したいという気持ちになっているようです。また、LSBでも次の大きなポイントはFHSにあるとしており、業界がFHSの統一に動き出すのは時間の問題です。
ITmedia そうなると、各Linuxベンダーのディストリビューションは何で差別化を図るのでしょう。
平野 いろいろな差別化要因が考えられます。例えばパフォーマンスです。バイナリ互換が保たれていても、パフォーマンスだけで純粋に勝負できますので、これこそ自然で、質の高い競争につながるでしょう。あるLinuxディストリビューションはマルチCPUの大規模構成には強いが、シングルCPUは弱いとか、別のディストリビューションはRDBMSとの相性がいいとか。そしてそれはユーザーにとっても選択しやすくなるといえます。
ITmedia 2005年はどんな年になるでしょうか。
2004年までで、CGL(Carrier Grade Linux)と、DCL(Data Center Linux)で進めているようなエンタープライズLinuxについてはそれなりにコンセンサスとなってきました。これからの課題は、それを実装し、ディストリビューションに広げて行き、多くのユーザーや開発コミュニティーの支持を得て、最終的には業界として標準化につなげていくことです。
また、それ以外の分野、つまり、デスクトップや組み込み分野でのLinuxをどうするかということも2005年の課題です。
OSDL自身に関して言えば、本当の意味でのグローバル化が進むのではないかと思います。現在は、北米、日本そして中国にしが拠点がないのですが、2005年はヨーロッパと韓国、インドなどが新しい拠点の候補です。そのような広がりから、世界的な規模でさまざまな役割が混じり合いながら、業界とコミュニティーとの橋渡しをしていければと思います。
ITmedia 組み込み分野に関していうと、例えば松下電器産業やソニーはまだOSDLに参加していませんが、こうした企業も参加する可能性はあるのでしょうか。
平野 統一的なアーキテクチャが必要と判断すれば入ってくるでしょうね。その前に、欧米ではISVやエンドユーザー、日本ではシステムインテグレーターがOSDLへの参加を検討してくると思っています。先ほどのアプリケーション・ポータビリティの重要性を最初に指摘したのは、OSDLに参加していないISVやエンドユーザーだったからです。Linuxに関して、意見を述べたり、業界に影響を与えたいと思うのであれば、OSDLへの参加をぜひお勧めします。
月に3回は海外に行くなど、とにかく普段出張が多いので、正月くらいはゆっくり体を休めたいですね。実際のところ、自宅で過ごすのが一番のぜいたくという時代になっているんじゃないでしょうかね。
[ITmedia]