2004年の年の瀬にOracleがPeopleSoft買収を正式に発表、1年半にわたった騒動にピリオドが打たれた。これで、ビジネスアプリケーション業界は、SAPとOracleの2大勢力が覇権争いをする展開になった。こうした動きの中で、SAPジャパンにとっての2004年はどんなものだったのか。また、2005年をどのような戦略で迎えるのか。SAPジャパンの藤井社長に話を聞いた。

ITmedia 2004年を総括してください。

藤井 2004年は2003年とあまり状況が変わりませんでした。大企業のIT投資が少し下向く一方で、中堅市場は増えてきました。顧客数は30ほど増えましたが、それぞれの売り上げ規模は3割ほど少ない。全体として大きな案件は減りました。

ITmedia 戦略をNetWeaverを柱とするミドルウェアに転換させました。

藤井 日本の場合は、レガシーシステムとERPの接続環境をもっと改善しないと、ERPを中心とするビジネス市場が広がりません。従来は、レガシーを含めすべてビッグバン導入を提案することが多かったですが、現在は、企業が自社システムとして残すものと、SAPが提供できるものを柔軟に考えようとしています。現在はWebが主流であるため、接続が緩く、取り外しが簡単という特徴があります。そこで、ほかのシステムとの連携をしていくことがNetWeaverの役割です。

メインフレーム市場を意識

ITmedia 非SAP同士を接続する製品もリリースしましたが、これはメインフレームを市場を意識したものでしょうか。

藤井 そうです。手作りシステムからパッケージへの流れというのは変わることはありません。ここに来てつくづく思うことは、顧客の要求に細かく応えていく感覚は日本企業の価値であり、強みであることです。ただし、それは手作りシステムの考え方なのです。それでもパッケージであるSAP製品は、かなり浸透しています。今後は、メインフレームユーザーのように自分たちのニーズに細かく応えてもらっている企業に、CRMや生産管理など会計以外の分野でアピールしていくかことが課題です。

ITmedia IT各社の取り組みでは、低いレイヤーの複雑性を隠蔽しようとする動きが目立ちます。

藤井 今後のITは、できるだけ共通の仕掛けを用いながら、表向きは個別ニーズに対応しているように見せるアプローチが主流になります。オンデマンドは、すべての要件をサービスとして提供しようとする考え方ですが、裏のプラットフォームはしっかりと運用しなくてはなりません。

ITmedia 技術者へのニーズは変わっていくでしょうか。たとえば、プラットフォームの開発が減る一方で、企業間を連携するニーズなどは逆に増加すると考えられます。

藤井 その通りです。技術者に要求されるITスキルは変化します。トータルな視点から解決策を提供したり、運用を前提とした導入を支援するスキルが要求されます。就業人口は変わらないかもしれませんが、IT企業のビジネスモデルは変化していき、技術者に要求される技能も現在とは異なっていきます。

OracleによるPeopleSoft買収について

ITmedia OracleによるPeopleSoft買収についてどう考えますか。

藤井 ビジネス的には両社の売り上げを足してもSAPの半分にもならないため、それほど意識はしていません。今後の製品ラインへの不安など、PeopleSoftの既存顧客を含めた多くのユーザー企業に混乱が生じるため、SAPにとっては短期的には追い風です。開発環境が違う製品同士を統合することは非常に難しく、時間のかかる作業です。それ自身がリスクであるため、安全な選択としてSAPの存在感が高まります。


IT業界は人月主義のビジネス。今後コストの低い方に流れるのは他の業界と同様。それがオフショア開発として現れていると藤井氏。

 日本企業同士では、どちらかが抵抗しているのに買収が実現することはまずありません。米国では株価を高く維持することは生き残りなのです。米国の経営者の株価の下落への恐怖心は、日本の経営者とは比べものにならないほどです。

ITmedia 2004年はミドルウェア製品の単体販売を開始するなど、製品の戦略が変わった印象があります。

藤井 製品戦略としては2つの選択があります。1つは、SAPが持たない製品に対するインタフェースを提供すること、もう1つは、その製品自体をSAPが開発して提供することで、ライバル企業を駆逐しようというものです。サプライチェーンマネジメントでは後者をやったわけです。

 プラットフォーム戦略もその延長戦上にあります。SAPが持たない製品群も含めて、基盤となるプラットフォームを提供すれば、ユーザーが次回システムの見直しをしたときに、新たに導入する製品をプラットフォームに合わせようという意思が働くのです。そのため、EAIベンダーなど、SAPの周辺でビジネスをしていた既存のベンダーは困るかもしれません。方法論としてはマイクロソフトも同じです。

ITmedia マイクロソフトはERP分野では今後どうなっていくと考えますか。

藤井 MicrosoftはDIYをコンセプトとしており、逆に言えばツールボックスを提供しています。一方、SAPはビジネスプロセスという前提があって、そこにはまっている製品です。SAPができてMicrosoftができないことを挙げるとすれば、業種別ソリューションやビジネスプロセスといった観点から製品やサービスを提供することであり、MicrosoftにはそういうDNAはありません。その意味では、マス製品を販売する企業にとって、ERPなどのビジネスアプリケーションに求められる要件は、細切れ過ぎると映るかもしれません。

ITmedia 企業におけるITのあり方としてエンタープライズアーキテクチャ(EA)が注目されています。経営者にITへの理解を促すためにIT部門は何をしたらいいでしょうか。

藤井 まず、経営者に業務に必要な要件を示してもらい、ITができることとできないことを明確にするべきです。SAPで言うエンタープライズサービスアーキテクチャ(ESA)では、システムの要件は当然複数の部門にまたがります。しかし、部門間をまたがった瞬間、ほとんどの企業ではそれを実行する受け皿組織がありません。その結果、システム戦略が話で終わってしまうのです。もちろん、購買部に売り込めばいいほど単純なものでもありません。SAPとしても、ESAはR/3のようにターゲットとなる部門がはっきりしているビジネスではないので、焦点がぼける傾向があることも事実です。

ITmedia 2005年はどうなりますか?

藤井 2005年はNetWeaver元年です。ハードウェアや汎用機のOS、ネットワークといった既存のIT資産をNetWeaverを用いて本当の意味でオープン環境へと移行できるようになる最初の年になります。それを推進するために、具体的にはビジネスプロセスアウトソーシングへの強化などに取り組んでいきます。

今年は日並びも悪く、仕事も忙しいのであまり余裕はありませんが、家族を連れて山梨県の身延山に行き、お寺参りをします。家族と過ごすこと以外には毎年お正月にすることは決まっていません。2005年の個人的な決意は、後継者をしっかり育てることです。

[ITmedia]

この記事に対する感想

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