音響カプラや親指シフトはどこへ?――消えた技術、消えた機器:今日から使えるITトリビア(2/2 ページ)
毎日PCを使っていると、ずっと同じ環境で仕事をしてきたように錯覚する。しかし、かつては身近にあった技術や機器の中には、現在はまったく使われていないものも数多い。あの技術、あの機器はどこにいったのだろう?
マイクロチャネルって何だったっけ?
デスクトップPCには、内部に周辺機器を増設するための「拡張スロット」が用意されている。そのコネクタの形状は、増設した周辺機器とPCが通信するバスの規格によって異なっている。
現在のPCの原型となっているPC/AT互換機では、IEEEによって標準化された16ビットの「ISAバス」(ATバス)に対応するコネクタを内蔵していた。これは、8ビットのXTバスを拡張したもので、バススピードが遅く、割り込みなどの設定も手動で行わなければならないなど、評判の良いものではなかった。そのため、ISAバスを生んだIBMは、32ビットの新しいバス規格を作った。これが、見出しにある「マイクロチャネル」というアーキテクチャであり、それを縮めて「MCAバス」と呼ばれていた。しかし、MCAバスは結局、IBMのプロプライエタリなバスとして普及しないまま終息した。これは、IBMがMCAバスにライセンス料を要求したためだった。
このMCAバスに対抗するために、当時のPC/AT互換機ベンダー大手が中心となって策定したのが、「EISAバス」だった。ISAバスがそのまま使えるという下位互換性を特徴とする32ビットバスだ。ただし、この下位互換性が仇となり、結果的に帯域不足が課題となって、次第に市場から姿を消した。
また、EISAから少し遅れて、グラフィックス機器ベンダーの業界団体であるVESAが策定した「VLバス」も登場した。このバスは、グラフィックスボード専用に作られたもので、コネクタの形状はISAコネクタにMCAコネクタをつなげたような形状をしていた。高速な性能が特徴だったものの、信頼性に課題があり、グラフィックスボード以外に使われることはほとんどなかった。なお、系統的な連続性はないが、のちにグラフィックスボード専用のバスとして「AGP」も登場する。
当時、日本で独自のPC市場を作り上げていたPC-98シリーズでは、通称「Cバス」と呼ばれる16ビットバスが使われていた。Cバスは、ISAバスからPCIバスに続くPC/AT互換機のバスとは異なり、インタフェースがボードの側面ではなく、ボードの奥についていた。PCのケースを開けなくても、PCの背面からボードを差し込める。また、ボード形状も細長い長方形ではなく、正方形に近いものだった。
NECは、PC-98のバスを32ビット化する際に苦労をしている。最初に作った「NESAバス」は、Cバスとは互換性のない、まったく異なるコネクタ形状をしていた(ただし、Cバスのボードを同じスロットに装着することは可能だった)。この32ビットバスは、メインストリームのPC-98シリーズには採用されず、PC-H98シリーズという亜流に採用されるのみだった。PC-98シリーズはのちに、グラフィックス機能を強化するために32ビットの「98ローカルバス」(通称)を備えることになるが、これはNESAバスとコネクタ形状が同一であるものの、互換性はまったくなかった。さらに、NECのUNIXワークステーションには、「APバス」という、また別の32ビットバスが作られ、搭載されていた。
これらのバスが、インテルが提案したPCIバスに収束していったのは、ご存じのとおり。現在は、PCIとAGPの後継となる「PCI Express」が主流になっている。
過去のバスに対応した周辺機器は、バスがその役目を終えて使われなくなると、同時に姿を消していく運命にある。まもなく年末、大掃除の時期。過去のPCの残骸とともに、使われなくなった拡張ボード類がダンボール箱に詰め込まれているオフィスも多いのではないだろうか――。
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