神頼みマーケティングからの脱却:エコシステム・マーケティングの威力(2/2 ページ)
企業と消費者のつながり方が劇的に変わろうとしている中、広告を一方的に流すという旧来型のマーケティングは通用しない。複数の企業がパートナーとなり、消費者と直接的なつながりを作っていく「エコシステム・マーケティング」の可能性を探る。
マーケティング戦略のハブ「コカ・コーラ パーク」
日本コカ・コーラは、自社で巨大な媒体を持ち、進化したIMCを展開している代表的な1社だ。
「コカ・コーラ パーク」は、750万人の会員を誇り、月間ページビューは2億に迫ろうとしている。2007年6月25日に日本コカ・コーラが開設した自社メディアだが、ただの企業サイトとは根本的に異なる発想を持つWebサイトである。同社はコカ・コーラ パークを中心に、さまざまなメディアや企業と連携したプロモーションやキャンペーンを展開している。
そのインパクトは、パートナー企業をも驚かせている。例えば、2008年末に日産自動車と共同で実施した「Coca-Cola x Cube ハッピースフルキャンペーン」という取り組みだ。日産自動車の主力コンパクトカー「キューブ」のモデルチェンジと、日本コカ・コーラの恒例のクリスマスキャンペーンの時期が重なっていることを機に、インターネットやモバイルを使った共同キャンペーンを試みたのである。商品がまったく異なる2社の連携は、メディアからも異色の組み合わせとして注目を集めた。
このキャンペーンの結果は予想を大きく上回った。予定の3.5倍の参加者を集め、キューブは月販目標の2倍以上の受注件数を獲得し、日本コカ・コーラの12月の販売は前年実績より大幅に上振れした。もちろん、テレビや店頭でのマーケティング活動も並行して実施していたため、このキャンペーンだけの成果とは言いきれない。だが、通常のキャンペーンよりもはるかに良好な指標を示したことは確かである。
この取り組みは、日産自動車社内のパートナーシップに対する意識も進化させた。キューブとコカ・コーラという2つのブランドがバナー広告に並ぶことを疑問視する声もあったが、効果を目の当たりにして、いっそうパートナーシップに前向きになったという。
このように、企業が消費者と直接的につながるというエコシステム(生態系)に注目した戦略が「エコシステム・マーケティング」の柱となる。企業が単独ではなく、パートナーと組むことで互いの強みを活用し、1+1が2を超える効果をもたらす――。これがエコシステム・マーケティングの醍醐味(だいごみ)である。
次回は、エコシステム・マーケティングの戦略的フレームワークについて説明したい。
著者紹介:本荘修二(ほんじょう しゅうじ)
本荘事務所代表として、新事業やIT関係、マーケティングを中心に経営コンサルティングを手掛け、企業のアドバイザーや社外役員を務める。多摩大学大学院(MBA)客員教授。日本コカ・コーラの江端浩人氏との共著「コカ・コーラ パークが挑戦する エコシステム・マーケティング」のほか、「大企業のウェブはなぜつまらないのか」など著書多数。東京大学工学部卒業、ペンシルベニア大学MBA、早稲田大学博士(学術・国際経営)。
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