スマートグリッドの行方:伴大作の木漏れ日(3/3 ページ)
スマートグリッドは、米国の老朽化したインフラの更新にとどまらず、中国や日本を巻き込んだ「エネルギー革命」へのシフトを表す構想である。これは見過ごせないテーマだ。
電力ベンチャー企業の育成と新産業創造
ブッシュ氏が大統領を務めていた2008年11月、米国エネルギー省は、先進的太陽光起電力技術の開発費用1760万ドルを、光起電力モジュールのインキュベータープロジェクト6件に助成すると発表した。一般企業からの約20%の費用共有を含めると、総研究投資額は3540万ドルに達する見通しだ。
投資先は、ソーラーパネルや太陽光発電関連の機器を開発するベンチャー企業に集中している。具体的には、一般家庭の積算電力計にインテリジェント機能を付加した「スマートメーター」、スマートグリッド網に備える「グリッドラウター」などを開発する企業だ。ちなみに、既存の電力会社は投資先にはない。
日本の取るべき道は
現状、多くのスマートグリッド分野で、日本は米国より先行している。だが日本はデバイスの規格の標準化、システム化などを苦手としている。このままでは、米国の団体が標準仕様を定め、安価なデバイスが市場を席巻してしまう。肝心のキーコンポーネントやソフトウェアの特許も米国勢が独占し、次世代エネルギーの覇権を握ろうとするに違いない。
既存の電力、発電、変電機材を製造する企業は、経営が一層厳しくなる。中にはコンピュータや自動車産業のように、市場からの撤退を余儀なくされる企業が出てくるかもしれない。
だが、この激震が新たな企業を創造するきっかけにもなり得る。科学技術系のコンピューティングで世界をリードしていたDECが倒産し、米Hewlett-Packardの傘下に入った。その後、DECで培った技術を持った人材が新興企業に移ったり、起業したりした。人材の代謝は産業のダイナミズムを生みだす。電力業界でもこの動きが起こるかもしれない。
果たして日本からは、米国のような独創的な発想と集中的な資金、人的投資、巨大なプロジェクトを率いる強固な意志を持った指導者が出てくるだろうか。優秀な部品を開発する少数の国内メーカーだけが勝ち残り、システムの主要部分の生産はすべて米国に委託する――。日本がこんな状態に陥らないようにと祈るばかりである。
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