初志を貫く! 広告で収益を上げない東京糸井重里事務所:ポーター賞企業に学ぶ、ライバルに差をつける競争戦略(3/3 ページ)
Web広告収入という選択をせずに、主にオリジナル商品の販売で年間28億円の売り上げを達成している東京糸井重里事務所。その事業戦略について、同社CFOの篠田氏と一橋大学大学院の大薗教授が対談した。
人間観に共感してリピーターに
大薗 事業におけるKPIや経営のゴールといったものはあるのでしょうか。
篠田 ほぼ日のことをより広く、多くの人たちに知ってもらい、面白がっていただきたいと思っているので、新規顧客の数が重要な指標になっています。一度ほぼ日の商品を好きになってもらえば、リピーターとしての定着率が高く、私たちも彼らとうまくコミュニケーションを取るのを得意としています。しかし、それだけでは仲良しクラブになってしまう懸念があります。新しい顧客が増えるということは、私たちが今の状況に安住していないという表れでもあるのです。
新しい顧客は、純粋に商品の中身で判断します。良いと思って買ってくれたならば、それは商品力があるということです。数多くの一見さんに受けたというのは、メンバーのモチベーションアップにもつながるのです。
大薗 新規顧客を獲得するために、例えば、他のサイトに広告を打ったりすることはないのでしょうか。
篠田 ごくまれに実験的に行うことはありますが、基本的にはしていません。なぜなら、よそに出した広告から入ってきて読み物や商品を見てもらうというのが、わたしたちと顧客にとって本当に良い出会い方なのかという疑問があるからです。
広告を外に出すのであれば、ほぼ日の中で新規顧客を増やすような面白い取り組みを考えたほうがいいのではと思います。
大薗 一方、リピーターとなる人たちは、何を求めて繰り返しサイトを訪れたり、商品を購入したりするのでしょうか。
篠田 糸井やメンバーの人間観に共感してくださる方が多いのではと思います。ここでいう人間観というのは、「人は基本的に面白いものだ」という肯定的な見方のことです。東京糸井重里事務所は、人が何を喜び、何に対して違和感を持つかということをずっと考え続けている会社で、それをコンテンツの形で発信しているのです。読者はそれを読んでホッとしたり、自分自身の良いところを見直したりできるのが、リピーターになっていただいている要因ではないでしょうか。
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