「研究者がまず客先へ」――富士通が研究開発方針を“再定義”した理由:Weekly Memo(2/2 ページ)
富士通が研究開発方針を“再定義”した。デジタルトランスフォーメーションの時代へと移り変わりつつある中でのITベンダーの研究開発のありようを示す動きといえそうだ。
研究開発部門が仕掛けるデジタル時代のCo-creation
では、デジタル時代のTrustが生み出す価値と課題とは何か。それを示したのが図2である。まず、富士通が価値であろうと列記したのが、図の上部の枠内にある「プライバシー保護」をはじめとしたキーワードだ。その下にある地球をイメージした半円の外部がリアルな空間、内部がサイバー空間を表している。
この両空間においてさまざまな要素がつながっていく中で、外部では「アカウンタビリティ」や「ルール/規制」など、内部では「堅牢性/可用性」「サイバーセキュリティ」などの課題が浮かび上がってくる。両空間のさまざまなつながりを支えているのはTrustだが、「それらの課題に対応してTrustの価値を実現していくためのテクノロジーをわれわれは研究開発している」(佐々木氏)という。
一方、デジタル時代のCo-creationとはどういうことか。それを示したのが図3と図4である。まず、図3はCo-creationがこれまでの顧客企業と富士通の関係を越えたものになることを示している。
その最大のポイントは、顧客企業の課題に対応する先端テクノロジーを「研究者がまず客先へ」出向いて共創の道を探ることからプロジェクトがスタートするという点だ。研究者とは、各分野に精通した富士通研究所のエキスパートである。
これによって、図4では、富士通が提供するデジタルテクノロジーやサービスが、直接の顧客の同業者、さらには顧客の顧客へと、それぞれのビジネス展開やエコシステムによって広がっていくことを示している。
こうした佐々木氏の説明を聞いて感じたのは、研究開発方針を再定義した内容がこれまでにも増して富士通の事業方針と同化してきたことだ。本コラムでは過去3年にわたって研究所の戦略説明会に関連する話題を取り上げているので、どう変わってきたか、ご興味があれば参考にしていただきたい。
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とりわけ、Co-creationについては、富士通の田中達也社長も企業メッセージとして、今もっとも強く訴えているキーワードである。しかも佐々木氏がその説明で、「研究者がまず客先へ」と語ったのには、富士通の研究開発部門としてのデジタル時代のCo-creationへ向けた強い意欲が感じられた。
そんな筆者の印象を、説明会終了後、佐々木氏に伝えたところ、「私たちの思いをお伝えできたのなら、よかった」とのこと。同氏によると、最近ではCo-creationのさらなる拡充に向けて、富士通社内では研究所主導で各事業の技術部門の幹部たちと「技術戦略タスクフォース」を設けて本格的な活動を行っているという。同時にそうした活動をグループ会社やグローバルにも広げていく構えだ。
さらに、今回の方針の同化には、もう1つ重要なポイントがある。それは富士通研究所社長の佐々木氏が、2018年度から富士通の最高技術責任者(CTO)を兼任していることだ。両方の役職を兼任したケースは過去にも一時期あったが、およそ15年ぶりに佐々木氏がその役目を担うことになった。すなわち、今回の会見での説明は、富士通CTOとしてのメッセージでもあったわけだ。
そんな今回の富士通の動きは、デジタルトランスフォーメーションの時代へと移り変わりつつある中でのITベンダーの研究開発のありようを象徴するものといえそうだ。
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