皆さんは、鉄道やバスに乗るときに「乗車券」を購入しているでしょうか。最近では、都市圏を中心に「交通系ICカード」を乗車券の代わりに使っている人も少なくないでしょう。
交通系ICカードの中でも、首都圏や仙台地区や新潟地区で使えるJR東日本(東日本旅客鉄道)の「Suica(スイカ)」と、首都圏の私鉄やバス会社が共同で運営する「PASMO(パスモ)」は特に利用者が多いとされています。両者には、スマートフォンを鉄道やバスに乗る際に使うICカードとして使えるサービスもあります。
この記事では、Appleの「Apple Pay」を通して「iPhone」や「Apple Watch」で利用できる「Suica」と「PASMO」について、その違いをチェックしていきます。
Apple PayのSuicaとPASMOは、それぞれ利用できる端末が微妙に異なります。
Suicaは「iPhone 7」「iPhone 7 Plus」「Apple Watch Seires 3」の日本向けモデル(※1)と、「iPhone X」「iPhone 8」「iPhone 8 Plus」以降のiPhoneや「Apple Watch Series 3」以降のApple Watchで使えます。
一方、PASMOはiOS 14以上を搭載する「iPhone X」「iPhone 8」「iPhone 8 Plus」以降のiPhoneや、watch OS 7以上を搭載する「Apple Watch Series 3」以降のApple Watchで使えます。iPhone 7/7 PlusやApple Watch Series 2では利用できません。
(※1)本体内部のハードウェアの制約から、iPhone 7/7 PlusやApple Watch Series 2の海外モデルではSuicaを利用できません
SuicaもPASMOも、対応モデルであればiPhoneやApple Watchの「Wallet」アプリから会員登録なしでカードを追加できます。ただし、利用開始時に最低1000円のチャージ、またはカードタイプのSuicaやPASMOからカード情報の引き継ぎ(※2)が必要となります。
記名式のカードを使いたい場合、Androidの「モバイルSuica」「モバイルPASMO」のカード情報を引き継ぎたい場合、その他会員登録が必要なサービス(定期券の新規購入など)を利用したい場合は、それぞれの専用アプリをApp Storeからダウンロードして使う必要があります。
両アプリにはカードの新規発行、カードタイプのカードからの情報引き継ぎ機能(※2)も備えています。PASMOアプリでは「残高0円」のPASMOを作成することも可能です。
(※2)クレジットカード一体型のカードや小児用カードなど、一部のカード情報は引き継げません。なお、引き継いだ後のカードは利用できなくなりますので、自分で破棄してください。デポジット(預り金)は、チャージとして返金されます
Apple PayのSuicaとPASMOでできることは基本的に共通で、以下の通りカードタイプのものとおおむね同じことができます。ただし「★」印の付いているサービスは無料の会員登録が必要です。
(※3)Apple Payに登録してあるクレジットカード/デビットカード/プリペイドカード、または会員情報にひも付けたクレジットカード/デビットカード/プリペイドカードを利用できます。ただし、Apple Payでの支払いはMastercard、JCB、American Expressのいずれかのブランドのカードのみ対応します(以下同様)。また、PASMOの会員情報にひも付けられるカードは「3Dセキュア」(Web本人確認)に対応するものに限られます
(※4)会員情報に特定のクレジットカードをひも付けた場合のみ利用できます
一方で、以下の通りSuicaでのみ利用できるサービスもあります。いずれも無料の会員登録が必要で、Suicaアプリからの操作が必要です。
なお、AndroidのモバイルSuicaとは異なり、Webショッピングのネット決済には対応しません。
(※5)Apple Payまたは会員情報にひも付けたクレジットカード/デビットカード/プリペイドカードで購入します。Suicaの残高から購入することはできません
(※6)JR東海が指定するクレジットカードを用意した上で、Suicaアプリから手続きを行う必要があります。Suicaの会員情報とひも付けたカードと同一でなくても構いません
Suicaアプリでは、原則としてJR東日本のSuicaエリアの駅を発駅とする定期券を購入できます。代金の支払いは、Apple Payに登録したクレジットカード/デビットカード/プリペイドカード、または会員情報にひも付けたクレジットカード/デビットカード/プリペイドカードで行います。
購入できる定期券の種類は以下の通りです。首都圏エリアはSuicaを採用する他社やPASMO採用事業者、仙台エリアは仙台市営地下鉄との連絡定期券も購入できます。
通学定期券やFREX/FREXパルの新規購入時は、それぞれにおける所定の事前申し込みが必要です。通学定期券とFREXパルでは、必要書類(通学証明書など)の郵送も必要です。申し込みが受理されると、アプリから購入できるようになります。
また、以下の定期券は事前に問い合わせると購入できることがあります(アプリの操作だけでは購入できません)。気になる人は問い合わせてみてください。
(※7)その名の通り、2つの区間で有効な定期券。2区間目は1区間目の途中駅を発駅とすることが条件となります(2区間目の着駅は範囲制限あり)。定期運賃は、1区間目と2区間目の定期運賃を合算したものとなります
なお、定期券の「継続購入」は、Walletアプリ経由でも行えます。この場合、代金の支払いはApple Payに登録したクレジットカード/デビットカード/プリペイドカードのみとなります。
なお、Apple PayのSuicaでPASMO対応路線バスの「ICバス定期券」(都電荒川線の定期券を含む)を使いたい場合は、利用する路線バス事業者のモバイルSuicaに対応できる定期券販売窓口に端末を持ち込めば発券してもらえます。ただし、以下の点に注意してください。
逆に、以下の通りPASMOでのみ利用できるサービスもあります。「★」印が付いているものは会員登録が必要です。
バス特のポイントと特典チケットの確認機能は、モバイルタイプのSuicaはもちろん、カードタイプのPASMOやSuicaにもない魅力です。
PASMOアプリでは、鉄道の定期券と、バス/路面電車(都電荒川線、東急世田谷線)の定期券をそれぞれ1枚ずつ購入できます。東京都交通局や横浜市交通局では、それぞれの局が運営する地下鉄とその他の交通(路線バスなど)との連絡定期券も発売しています。代金の支払いは、Apple Payに登録したクレジットカード/デビットカード/プリペイドカード、または会員情報にひも付けたクレジットカード/デビットカード/プリペイドカードで行います。
鉄道定期券は、モバイルPASMO定期券を発行する事業者の駅を発駅とするものを購入できます。首都圏のSuica事業者やPASMO事業者への連絡定期券も購入可能です。発駅に関する条件を満たしていれば、モバイルPASMO定期券を発行していないPASMO事業者を着駅(あるいは経由駅)とする連絡定期券も発行できます。
購入できる鉄道定期券の種類は以下の通りです。
通学定期券の新規購入時は、PASMOアプリで経路申請(購入予定の定期券の内容を登録)した上で、モバイルPASMOの会員サイトでダウンロードした申請書を印刷し、必要書類(通学証明書など)を添えて郵送する必要があります。申し込みが受理されると、アプリから購入できるようになります。
バス定期券も、モバイルPASMO定期券の発行に対応する事業者で購入できます。路線バスはおおむね地区によって「定額(一律)運賃」と「距離制(整理券)運賃」に分かれますが、Apple PayのPASMOバス定期券はどちらにも対応できます。鉄道定期券と同様の手続きで通学定期券も買えます。
なお、鉄道定期券もバス定期券も、発売内容は事業者によって異なります。アプリでの購入手続き時にも案内は出ますが、どのような定期券を買えるのか、Webサイトで事前に確認することをおすすめします。
Apple PayのSuicaとPASMOは、カードタイプとほぼ同じ機能を持ち合わせます。ただし“カード”ではないゆえの注意点もあります。
まず、駅での現金チャージはカードやスマホをトレイに載せられるタイプの券売機やチャージ機でのみ可能です。現金チャージをしたい場合は、コンビニエンスストアを活用することをおすすめします。
Apple PayのSuicaやPASMOは、その他のApple Payのカードと合わせて1台当たり最大12枚まで登録できます(※8)。AndroidのモバイルSuicaやモバイルPASMOでは難しい複数枚のカードを共存しやすいことが魅力です。
ただし、このままではどのカードが「普段使うカード」か判別することができず、Walletアプリで都度カードを選択しなくてはいけません。つまり、決済する度に認証が必要になってしまいます。これでは、改札を通るのも一苦労です。
そのため、普段使うSuicaやPASMOについては「エクスプレスカード設定」をしておくと、認証を省略できます。エクスプレスカード設定を有効にしたSuicaやPASMOは、ICカードのリーダーライター(読み書き部分)にかざすと自動的に有効になるので便利です。
(※8)iPhone 7/7 Plus、Apple Watch Series 2の日本向けモデルでは、最大8枚となります
「iPhoneやApple Watchのバッテリーが切れたら使えなくなるのでは?」と心配する人もいるかもしれません。この点は、端末によって異なります。
以下に示す機種は「予備電力機能付きエクスプレスカード」をサポートしており、バッテリーが切れてからも最大5時間はエクスプレスカードとして設定した交通系ICカード(Suica/PASMO)を利用できます。
ただし、これらの機種でも電源を完全に切ってしまうとエクスプレスカードも使えなくなります。ここは、本体にバッテリーさえ残っていれば使えるAndroidのおサイフケータイと比べた際のデメリットといえます。
上記以外のSuica/PASMOに対応するiPhoneやApple Watchについては、バッテリーが切れるとApple Payの交通系ICカードが使えなくなります。先述の機種と同様に、電源が切れている状態でも交通系ICカードは使えません。
Apple Watch、あるいは古めのiPhoneでApple Payを使う場合は、バッテリー残量には十分気を付けましょう。
Apple PayのSuicaとPASMO、どちらが良いかは人それぞれです。
Suicaは、以下のいずれかに当てはまる人におすすめです。
一方、モバイルPASMOは以下のいずれかに当てはまる人におすすめです。
先述の通り、Apple Payは1台の端末に最大12枚までカードを登録できます。また、iPhoneとApple Watchの間でカードを移動することもできます。うまく使い分けて、より快適なApple Payライフを送りましょう。
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