バイクの進化において、速さは分かりやすい指標の一つです。最高速度・時速200kmを公称するホンダの「ドリーム CB750FOUR」が登場したのは1969年のこと。それから量産市販車最速の戦いは20世紀末まで続き、1999年に登場したスズキの「GSX1300Rハヤブサ」が実測で時速312kmをマーク。
これをきっかけにEUにおける時速300km自主規制がスタートしたことで、2輪メーカー同士による最高速争いに終止符が打たれました。
現在3代目となるハヤブサが、当時の基本設計を受け継ぎながら今も販売されています。20年以上もの長きにわたりスズキの頂点に君臨するハヤブサ、その魅力について紹介しましょう。
モーターサイクル&自転車ジャーナリスト。短大卒業後、好きが高じて二輪雑誌の編集プロダクションに就職し、6年の経験を積んだのちフリーランスへ。ニューモデルの試乗記事だけでもこれまでに1500本以上執筆し、現在進行形で増加中だ。また、中学〜工高時代はロードバイクにものめりこんでいたことから、10年前から自転車雑誌にも寄稿している。キャンプツーリングも古くからの趣味の一つであり、アウトドア系ギアにも明るい。
1990年にカワサキから「ZZ-R1100」というフラッグシップモデルが発売され、これをきっかけに時速300kmという切りの良い数字を目指してのトップスピード争いが勃発しました。
ホンダは1996年に「CBR1100XXスーパーブラックバード」を投入。そして、1999年にスズキが「GSX1300Rハヤブサ」を、カワサキが2000年に「ニンジャZX-12R」をリリースしました。
「GSX1300Rハヤブサ」と「ニンジャZX-12R」が実測で時速300kmを超えたことから、EU(欧州連合)の行政関係者の間で規制が必要との意見が交わされ、2001年にバイクの最高速度を時速300kmに抑える自主規制が始まりました。
2000年にハヤブサは実測での最高速・時速312.29kmをマークし、ギネスブックに掲載されました。とはいえ、そもそもハヤブサはトップスピードだけを追い求めた直線番長ではなく、アルティメットスポーツ(公道における究極のスポーツバイク)として開発されたモデルです。
鎧兜(よろいかぶと)をモチーフとした個性的なスタイリングと、カウリングの側面に描かれた「隼」という大きな漢字ロゴは賛否両論あったのも事実ですが、ふたを開けてみたら世界的に大ヒット!
その最たる理由は、世界最速という称号を得ながら非常に扱いやすかったためで、その扱いやすさは2008年に排気量を1298ccから1339ccに拡大した2代目、そして2021年に登場した現行モデルの3代目にも受け継がれています。
ハヤブサに搭載されている1339ccの水冷並列4気筒エンジンは、最高出力188psを発揮します。ドゥカティの「パニガーレV4」をはじめ、BMWの「S1000RR」や「M1000RR」、アプリリアの「RSV4 ファクトリー」などが軒並み210psをオーバーしている昨今、最強のバイクというわけではありません。しかし、それでも経験の浅いライダーが持て余すほどにパワフルであることは間違いないでしょう。
スズキは、そんなパワフルなエンジンをできるだけ安全に扱えるように、現行モデルではさまざまな電子デバイスを取り入れています。
シフトチェンジの際にクラッチ操作が不要な双方向クイックシフトシステムをはじめ、スロットルを戻した際のエンブレの強さを調整するエンジンブレーキコントロールシステム、車体の動きや姿勢からエンジン出力を調整するモーショントラックトラクションコントロールシステム、ウイリーを制御するアンチリフトコントロールシステムなどなど。
そのほか、ブレーキ系統にもいくつかの電子デバイスが導入されており、ライダーはさまざまな場面でそれらの助けを得ることができます。
ハヤブサは、エンジンフィールもサスペンションの動きも上質で、まるで高級なセダンに乗っているかのようです。それでいて、スロットルを大きく開ければ脳みそがズレるかと錯覚するほどの怒濤(どとう)の加速力を披露します。この二面性こそ、ハヤブサが世界中で大ヒットした理由の一つでしょう。
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