ヤマハは2014年9月、フロント二輪構造の「トリシティ MW125」という原付二種スクーターを発売しました。以来、2017年1月に軽二輪枠の「トリシティ155 ABS」、2018年9月に845ccの「ナイケン」、2020年9月に「トリシティ300 ABS」をリリースするなど、三輪バイクのラインアップを原付二種から大排気量車まで拡充してきました。
一見するとキワモノのように思われますが、乗ってみるとあまりにも操縦が自然で、なおかつ安心感が高いことに驚かされます。初登場から間もなく9年となる、トリシティシリーズとナイケンの魅力について紹介しましょう。
モーターサイクル&自転車ジャーナリスト。短大卒業後、好きが高じて二輪雑誌の編集プロダクションに就職し、6年の経験を積んだのちフリーランスへ。ニューモデルの試乗記事だけでもこれまでに1500本以上執筆し、現在進行形で増加中だ。また、中学〜工高時代はロードバイクにものめりこんでいたことから、10年前から自転車雑誌にも寄稿している。キャンプツーリングも古くからの趣味の一つであり、アウトドア系ギアにも明るい。
三輪バイクのイメージが大きく変わったのは、2006年、イタリアのピアッジオがフロント二輪のスクーター「MP3」を発売してから。これに追従したのがヤマハでした。それまで、前後合わせて三輪のスクーターと言えば、デリバリー業界御用達のホンダ「ジャイロX」や「ジャイロキャノピー」が有名。リヤが二輪のスクーターは、ほぼ毎日のように街中で見かけていることでしょう。
ホンダの「ジャイロX」が誕生したのは、今から41年も前の1982年のこと。リヤを二輪とすることで、不整地や雪道での走破性を高めるのが狙いでした。
これに対して、ピアッジオやヤマハが発売したフロント二輪のスクーターは、前輪の接地面積を増やすことで車体前方からのスリップダウンを軽減するのが目的です。バイクに付き物の転倒というリスクを少しでも減らすため、果敢にチャレンジしたのがこの日伊2メーカーなのです。
ヤマハは、車輪および車体全体がリーン(傾斜)して旋回する三輪以上の乗り物に、“リーニング・マルチ・ホイール(LMW)”という名前を付けました。コーナリングの際、一般的なバイクと同様に車体が内側へ傾くように設計し、自然なハンドリングを実現したのです。
このLMWテクノロジーは、現在販売されている「トリシティ125/155/300」と「ナイケンGT」の全てに採用されています。
LMWテクノロジーは、平行四辺形のパラレログラムリンクと、片側2本ずつのテレスコピックフォークで構成されており、この複雑な構造のため車体がどうしても重くなりがちです。
例えば「トリシティ125」なら、同じパワーユニットを搭載する原付二種スクーターの「NMAX」よりも車重が約28%(37kg)も重いのです。そして、タイヤが一輪多い分だけ転がり抵抗も増えてしまい、駐輪場での取り回しはそれなりに苦労します。
ところがシートに座ると、どのモデルも乗車位置からフロントタイヤが見えませんし、車体は自然と傾くので(ゆえに足で支える必要があります)、まるで普通のバイクにまたがっているかのようです。そして、スロットルを開けて走り始めると、フロントタイヤの接地感の高さに驚かされます。
一般的なバイクはアスファルトと“点”で接地していると感じるのに対して、トリシティやナイケンはまるで“面”で捉えているかのようです。実際、ぬれた路面や砂利道でもグリップ力は高く、限界を超えても一気にスリップダウンしないので、ライダーは慌てることがありません。
加えて、操舵に関しても一般的なバイクと大きく変わらず、ハンドルの押し引きや体重移動など、これまで通りのライディングテクニックが通用します。
フロントタイヤのどちらか一方が段差に乗り上げても、左右独立のサスペンションがうまく作動するので、挙動が乱されることはありません。また、フロントが二輪であることの優位性はブレーキング時にも発揮されます。ここまで安定して減速できるスクーターやバイクを他に知りません。
ヤマハの三輪シリーズは、一般的なバイクと同じ操縦性を維持しながらも大きな安心感を与えてくれ、その結果疲れにくいというのが魅力でしょう。試乗できる機会があれば、ぜひチャレンジしてみてください。
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