バイクは趣味性が高い乗り物ですが、その傾向は昔から日本車よりも海外メーカーの方が強いと言えるでしょう。今回はJAIA(日本自動車輸入組合)が主催する二輪車試乗会に参加した筆者が、「旬のバイクの外車」を厳選して紹介します。
モーターサイクル&自転車ジャーナリスト。短大卒業後、好きが高じて二輪雑誌の編集プロダクションに就職し、6年の経験を積んだのちフリーランスへ。ニューモデルの試乗記事だけでもこれまでに1500本以上執筆し、現在進行形で増加中だ。また、中学〜工高時代はロードバイクにものめりこんでいたことから、10年前から自転車雑誌にも寄稿している。キャンプツーリングも古くからの趣味の一つであり、アウトドア系ギアにも明るい。
最初に紹介するのは、米国のハーレーダビッドソンから83万9800円で発売された「X500」です。X500は、「X350」とともに2023年10月20日にリリースされました。車名に含まれる3桁の数字は排気量を表しており、400cc以下のX350は普通二輪免許で乗れるハーレーとして話題となりました。
対してX500は、オーソドックスなスタイリングゆえにX350ほど注目されてはいませんが、創業120周年を迎えたハーレーのエンブレムに恥じない濃密な乗り味が秘められていました。
X500のエンジンは、排気量500ccの水冷並列2気筒で、最高出力は47.7ps。アイドリングから高回転域まで全域で不快な微振動が抑えられており、モダンな設計であることが分かります。回転上昇は極めてスムーズで、全体の印象としてはジェントルなのですが、そこはハーレー。
コーナーを抜けて加速するときなど、低回転域からスロットルを大きく開けると「ズドドドドッ」という歯切れの良いサウンドを聞かせてくれ、同時に歩幅の広い蹴り出し感でライダーを力強く押し出します。
その頼もしいフィーリングは、大排気量のV型2気筒エンジンを搭載するハーレーの上位モデルに通じるところがあります。車両の生産は中国のQJモータースが担当していますが、ハーレーとしても自社のエンブレムを付ける以上、そうした加速フィールは譲れなかったのでしょう。
なおハンドリングは非常に扱いやすく、大型二輪免許を取ったばかりのライダーでもすぐに慣れるでしょう。また、動きの良いサスペンションや厚いシートのおかげで乗り心地が良く、ロングツーリングも快適にこなせそうです。排気量の大小に関係なくハーレーはハーレーだなと思わせてくれる良作です。
続いては、イタリアのMVアグスタが放つクロスオーバーモデル、「ツーリズモベローチェ」シリーズの「ルッソSCS」です。
珠玉のマシンを生み出しているMVアグスタが、ツーリズモベローチェを発表したのが2013年のこと。姿をほぼ変えずにアップデートを繰り返しており、10年以上が経過した今もなお古さをみじんも感じさせないところは、さすがイタリアンメーカーと言えるでしょう。
最新シリーズのラインアップは3種類あり、筆者が試乗したのは中間グレードの「ルッソSCS」です。ルッソとはイタリア語でぜいたくを意味し、ザックス製のセミアクティブサスペンションを採用。SCSは「スマートクラッチシステム」の略称で、クラッチレバーによる操作が不要な機構を導入しています。
エンジンは798ccの水冷並列3気筒で、クランクシャフトが通常とは逆方向に回転するという特殊な設計となっています。この効果を通常走行で感じることはほとんどありませんが、メカニズムが好きな人にとっては購買意欲をそそられる要素の一つとなるでしょう。
SCSは想像以上に快適で、エンストの心配がない上にクラッチレバーによる半クラッチの操作も可能など、まさに夢のようなシステムです。
スタイリッシュなカウリングによる防風効果は非常に高く、また電子制御サスペンションによって乗り心地も優秀など、車名のとおり贅を尽くした走りが印象的です。車両価格は345万円〜とインパクト大ですが、コストをかけるとバイクはこんなにも快適になるのかと感心しきりの1台です。
最後に紹介するのは、ドイツのBMWが放つアメリカンクルーザー「R12」。日本では4月19日に発売されたばかりのニューモデルです。「ドイツのメーカーがアメリカンを作る?」と不思議に思う人がいるかもしれませんが、かつての大戦も今は昔。BMWは1990年代後半から本格的なアメリカン、いわゆるクルーザーをラインアップしており、近年は排気量1801ccの「R18」シリーズが一定の人気を得ています。
新たに登場した「R12」は、排気量1169ccのヘリテイジシリーズとしては初となるアメリカンクルーザーで、同時に登場した「R12 nineT」とともに、新設計のフレームを採用しています。R12はクルーザーならではの低いスタイリングを実現するため、R12 nineTに対してサスペンションのストローク量を前後とも30mmずつ短くしているのが特徴です。
エンジンはBMW伝統の空油冷フラットツインで、停止した状態でスロットルを開け閉めすると車体が左右に揺れます。この「トルクリアクション」は、初めて乗る人にとっては驚き以外の何ものでもないでしょう。
しかし心配ご無用。走り出すと意外なほど走りに悪影響を及ぼしません。前後に細めのタイヤを履いていることもあってハンドリングが軽快で、とても車重が230kgとは思えないほど。しかも、シートが低い分だけアスファルトが近くに感じられるので、フラットツインならではの滑空しているようなエンジンフィールと合わせ、景色の良いルートを走りたいという衝動に駆られます。
以上、各国の旬なバイクを紹介しました。海外メーカーは自社のレガシーを大切にしており、それが最新モデルにも反映されているのが特徴です。ぜひこれを機会にバイクの外車にも目を向けてみてください。
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