インターネット・ジオターゲティングが開拓する世界From Netinsider(32)

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» 2001年06月27日 12時00分 公開
[Vagabond,@IT]

<vol.32の内容>

サイバーエリアリサーチ株式会社 代表取締役社長 山本敬介氏(2)

Webサイトにアクセスしてきたユーザーの地域判定を武器にビジネスを展開するサイバーエリアリサーチ株式会社の山本敬介氏に、サービスの概要と応用例などを聞く




■■ トップインタビュー ■■
サイバーエリアリサーチ株式会社
代表取締役社長
山本敬介氏(2)




 地上の物理的距離を消失させ、人と情報を地理的な制約から解放することがインターネットの利点の1つである。しかし、例えば新聞に地方欄があり、近所のスーパーの特売情報が朝刊の折り込みチラシとして入るように、インターネットにもまた、生活に密着した地域情報のニーズが存在している。従来メリットと考えられてきた特質を、逆転させた発想にこそ新しいビジネスチャンスがある。

 ネットビジネスの新たなフロンティアとして、ジオターゲティング(地域絞り込み)に基づく、地域情報の配信が注目を受けはじめた。BtoB、BtoCなどに対応する新しいビジネスフォーマットとして、BtoL(Business to Local)が高い関心を集めている。

 ジオターゲティングにあたっての最大の難関は、ユーザーの地域判定である。例えば自治体が、県民向け情報サイトに10万件のページビューを獲得したとしても、果たして本当にユーザーとして想定している県民自身がWebサイトを利用しているのだろうか?

 静岡発のネットベンチャー企業であるサイバーエリアリサーチ株式会社はこの問題を、日本のサイバースペースに存在する230万件に及ぶIPアドレスの大部分を地道に調べ上げることで解決しようとしている。同社の技術を利用すれば、ダイヤルアップ経由でWebサイトにアクセスしたユーザーを、同社独自のIPアドレスデータベースをもとに居住地域を瞬時に判定、特定のユーザーに特定地域向けの情報や広告を高い精度で個別に配信することができる。

 ネットインサイダー編集部は、サイバーエリアリサーチ株式会社 代表取締役社長 山本敬介氏に、地域判定技術の概要、今後の事業戦略についてインタビューした。

 インタビューは2001年4月27日、東京・渋谷のネットインサイダー編集部会議室で行われた。



サイバーエリアリサーチ株式会社
http://www.arearesearch.co.jp/

通信環境調査結果のデータ販売事業

――具体的な商品ラインナップを教えてください

山本: 大きく分けて(1)IPアドレス調査事業、(2)業界向け技術提供、(3)地域向けコンテンツ配信技術提供の3つです。また、廉価なアクセスログ解析サービスとして、リアルタイムで県別のアクセス状況が分かるサービスも開始しました。

――最初のIPアドレス調査事業は、具体的にはどのような商品ですか?

山本: 弊社の調査結果を分析・集計したものを、ISPやネットベンチャー事業者向けに販売する「Surf Point Enterprise」です。


 また、調査結果の公表は、今後もアライアンス先を見つけて積極的に展開していきたいと思っています。

会社を設立した当日に、広告最大手のダブルクリック社へ営業

――2番目の業界向け技術提供は、どういう形で販売されるのですか?

山本: 具体的にいうと、メディアレップなどに導入していただいている広告配信ソリューション「Surf Point AD」です。

 「Surf Point」は、例えば映画のDOLBYシステムのような形で普及させていきたいと思っています。利用者はあまり意識することはないが、どこにでも使われている技術です。ECサイト構築ソフトに標準で実装されているようなデファクト・スタンダードの技術にしていきたいですね。


 そうなるためにはいま現在シェアトップの企業と提携することが重要と考え、会社を設立したその日に、広告配信世界最大手のダブルクリックさんを訪問して話をしました。アクセスしてきたユーザーの地域情報を取得して、その地域向けの広告を配信するソリューションで、現在ダブルクリックさんのほかにも、イー・クラシスさんのカスタムクリックにもご採用いただいております。

実店舗を全国展開する事業向けにASPサービスを販売

――3番目の地域向けコンテンツ配信技術提供について教えてください

山本: 全国展開している事業者向けに、各地域の支店情報などをローカルに提供する「Surf Point ASP」で、例えば新光証券さんのWebサイトなどでご利用いただいております。

 新光証券さんのWebサイトにアクセスすると、ページの右側のスペースに、アクセスしたユーザーの居住地域の「地域の天気予報」と、「最寄りの店舗からのお知らせ」を表示します。東京からアクセスすれば東京地方の天気予報と、本店営業部からのお客さまへのお知らせが表示されます。ダイヤルアップ接続の方は、ぜひ実際にアクセスしてみてください。あなたのお住まいの地域の情報が表示されます。

 今後は、こうして実際に見ていただける導入事例をいかに増やしていくかが当面の目標です。


━━「Surf Point ASP」の展開先としては、どんな企業や業種を想定していますか?

山本: 全国区で展開する、不動産業者や、自動車メーカーのディーラー網などです。

月額980円からの「Live」版の提供

――廉価版のアクセスログ解析サービスというのはどういうサービスですか?

山本: 「Surf Point Analyzer Live」です。計測したいページに透過GIFのタグを貼り付けるだけでユーザーの地域判定ができます。ASP方式なので、CGIの使えないISPを利用していても使えます。1ページ月間980円から、で3カ月契約からです。契約数はまだ100サイト程度ですが、国内有数のメガサイトに広くご利用いただいております。


地元よりも都市部のアクセスが多い地域情報サイト

━━「Surf Point Analyzer Live」では、利用者であるメガサイトの印象深い事例などはありましたか?

山本: 地域展開しているWebサイトは、当然ですがその県からのアクセス比率が高い。ところが、あるグルメ情報サイトの九州版は、九州よりも東京からのアクセスのほうが多いということがありました。観光地情報として東京のユーザーにもよく見られていることでしょう。こういった、潜在的需要を発見するのに役立ちます。

 意外な使われ方としては、ある新聞社系の情報サイトで、パネル調査だとダイヤルアップ経由のユーザーが少ないため、媒体価値が下がるので、積極的に「Surf Point」を使っていただいている例があります。

ビジネスパーソンの利用が多いWebサイトは通常のパネル調査では不利?

━━パネル調査とどこが違うのですか?

山本: 通常のWebサイト視聴率調査であるパネル調査では、「年齢・性別・所得など」のユーザー属性は正確に分かるのですが、その半面、調査対象が家庭に偏っているので、ビジネスユース(会社内からのアクセス)の調査に弱いという欠点があります。つまり、ビジネスユースのアクセスが多いサイトでは分析の対象数が少なくなってしまうため、その結果、満足な分析が行えない可能性があります。もちろん視聴率調査の各社では、ビジネスパネルの獲得は積極的に行われているようです。

 逆に当社の「Surf Point Analyzer Live」のような全数調査では、アクセス全体のイメージを把握することはできますが、ユーザー属性「年齢・性別・所得など」は把握できないという欠点があります。しかし、「Surf Point Analyzer Live」の特徴として、ユーザーの地域属性以外に「ホームユース」と「ビジネスユース」の割合を正確に把握することができますので、ビジネスユースのアクセスが多いサイトにとっては、ビジネスユースの比率を知ることによって、サイト全体の「パワー」を正確に把握するのに役立ちます。

 自分たちのサイトの「パワー」を正確に把握するためには、パネルと全数調査両方の分析データを付き合わせる必要があると考えており、現在パネル調査会社さんとの提携を模索しています。

━━サイバーエリアリサーチの最も重要な競争力は何ですか?

山本: やはりデータベースです。その精度と新しさですね。

参入障壁は高い

━━現在の技術のコアは半年程度で構築したということですが、他社の参入はあり得ますか?

山本: 参入障壁は高いと考えています。ISPで営業をやっていた時代から、簡単にできることではないことを、よく分かっていたから(事業を)始めました。他社の参入もあり得ないことではありませんが、それほどやりたいとは思わないでしょう。なぜなら、たとえ他社が同じデータベースを完成させても、弊社では料金設定をリーズナブルに設定していますので同じ料金にはできないと考えます。やったとしても、もうからないでしょう。

 また、データベースの作り込みは、始めた当初は半年かかりましたが、いまはノウハウを蓄積して、それと同じ作業がわずか1カ月でできるようになっています。

━━現在の売り上げの額、または目標を教えてください

山本: 2000年2月設立で6月決算でしたので第1期は2〜6月期ですがその4カ月ほどは、データベースのコアを確立する時期でしたので当然売り上げはありませんでした。今期の売り上げは公開しておりませんが、当面の売り上げ目標は黒字化です。

━━事業の性質としては、経費の大部分が人件費という感じですか?

山本: 人件費以外にはほとんど経費はかからないので、利益率は高いですね。むしろ、システム開発のように、初期投資が必要な事業です。

士気が高いデータベース集積

━━社長の役割として、何を第一に考えていますか。例えばビジョンを示して引っ張っていったり、外部へ営業したり、ナンバー2を育成したり、ほかにも資金調達、アイデアを出して会社のかじ取りをしていくなど、いろいろ役割があると思いますが

山本: わたしは、ビジョンを示してカリスマ的に引っ張っていくようなタイプではありませんね。そのとき会社が要求する責任はすべて果たしますが、強いていえばアイデアを出して会社を回していくタイプでしょうか。

━━ネットベンチャー企業は基本的に激務だと思います。社員の志気維持と向上のために何か工夫されていることはありますか?

山本: 事業開始前、特にデータベース構築の部門は、労働集約的で相当きつくなると思っていました。最悪の場合、数カ月ごとにメンバーの入れ替えもあるかと思っていたほどでした。しかし実際に始めてみると、データベース構築担当者は、長く続ければ続けるほどモチベーションが上がって、楽しんでやっています。データを1つ1つ増やして、日本のIPアドレス環境の全体像を正確に作り上げることが楽しいようです。

“地方メディアレップ”事業を構想

━━今後、新しい商品開発の予定はありますか?

山本: 例えば、インターネット広告商品を地方の事業者に向けて販売するチャネルが現状存在しません。そこで「Surf Point」を使って、地域メディアレップ事業などを検討しています。また、いまのデータベースに、さらにホスト名から割り出した企業情報や、ADSL向けにブロードバンドのスピードフラグを付けるなど、現在提供している情報に付加価値を付ける方向を準備中です。

次世代規格「IPv6」への対応

━━IPアドレスの規格である「IPv4」に代わる次世代規格である「IPv6」の標準化が進行しています。NTTコミュニケーションズ株式会社は、2001年4月27日から「IPv6」によるインターネット接続サービスを開始していますが、「IPv6」への変更の準備はありますか?

山本: すでに準備に入っています。「IPv6」に変更されたとしても、作業レベルでは若干面倒になるものの、本質は変わりません。

(おわり)


山本 敬介(やまもと けいすけ)氏 略歴
1974年 2月 静岡県沼津市に生まれる
1992年 3月 沼津市立高校 普通課卒業
1992年 4月 陸上自衛隊 入隊(基地通信隊配属)
1996年 3月 陸上自衛隊 任期満了 退職
1996年 3月 静岡インターネット株式会社 入社 営業部所属
2000年 1月 静岡インターネット株式会社 退社
2000年 2月 サイバーエリアリサーチ株式会社設立 代表取締役
(現在に至る)

(取材:Netinsider編集部)


※本記事は、 【NETINSIDER】vol.106(2001年5月17日)/vol.107(2001年24日)に掲載されたものです

ネットインサイダー編集部作成 取材メモ

◇会社データ

商号:サイバーエリアリサーチ株式会社

所在地:〒411-0033 静岡県 三島市文教町1-9-10 三島北口ビル3F

TEL:0559-99-1100/FAX:0559-99-1101

代表取締役社長 山本 敬介

http://www.arearesearch.co.jp/

設立:2000年2月21日

資本金:1億1000万円(2001年1月1日現在 ※資本準備金含む)

従業員数:14名(2001年5月現在)


◇株主構成

社長および役職員

NIFベンチャーズ

オリックスキャピタル

伊藤忠ファイナンス

資生堂インベストメント

エンジェル


◇主要取引先

ダブルクリック(Surf Point AD)

イー・クラシス(Surf Point AD)



◇強み・競争力・戦略

  1. データベースの精度(100%に近いカバレッジ)
  2. 高い参入障壁
  3. すでにデファクト・スタンダード化している企業やサービスとのアライアンス強化(例:広告配信世界1位のダブルクリックへの納入)

◇今後の目標

  1. 映画におけるDOLBYシステムのような標準実装を目指す
  2. 当面の目標は黒字化と、それに続く2002年のIPO
  3. 営業の後押しとなるような導入採用事例の件数を増やす
  4. 現在のIPアドレスのデータベースに、企業名やブロードバンドの速度などの情報付加を検討



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