「バブル崩壊」で大きな痛手を受け、長くその傷が癒えなかった建設・不動産業界。グローバル化の影響が少なかったこの業界にも、そのグローバル化の波が押し寄せようとしている。そんな建設・不動産業界各社に必要とされる企業システムを考察する。
「情報“革命”」といわれるほど大きく変革している時代には、企業システムも抜本的な見直しが避けられない。本稿では、特に建設・不動産という業種に焦点を絞って、企業の“基幹システム”が今後どうあるべきかを考察してみたいと思う。
まず、建設・不動産業界と大きくくくられることに心理的抵抗を感じる方もおられるかもしれない。両者を兼業する企業は少なくないが、その内実は建設なら建築・土木・各種専門工事、不動産でも分譲・仲介・賃貸・管理と、事業カテゴリは分かれている。
そうしたものを十把一絡げ(じっぱひとからげ)に取り扱う危険性は十分承知しているつもりだ。筆者も現職に移る前は、この業界に身を置いていたのだが、やや客観的な立場から見てみると、これらの業界に共通する課題は厳として存在する。そもそもが独自性を重んじる業界であり、圧倒的なシェアを有する企業もなければ、自動車業界のような強力な系列というものもない。このほか、最大公約数的な処方せんを書いてみよう。
代表的な症状は、システムの“陳腐化”である。いわゆる「バブル崩壊」のマグニチュードが最大級だったこれらの業界では、多くの企業で汎用機やオフコンベースで開発されたレガシーシステムが立派な現役で残っている。その中身は陳腐化が進み、時代の変化に十分追随できないものになっている。
最も効果のある治療方法は、汎用的な業務や標準化の可能な業務についてはオープンシステムベースのパッケージソフトを導入し、運用コストを低減するとともに、技術的な拡張性を保持するという、いわば外科的療法を施すこと。ただし、これらは新しい治療法のため、保険外診療となり、相当の費用が掛かる。
実際、日々お会いする企業のシステム担当者の方々も似たような診断をなさっている。しかし、実際に次の一手を打つことには二の足を踏んでいる。手術の必要な患者が、こう薬を塗布して痛みを緩和しているといった状態である。理由を問うてみると、「ウチはトップの意識がそこまでいっていないから」、あるいは逆に「必要性は実感しているがカネがついてこないから」などの答えが返ってくる。
この状況を説明し得るアイデアの1つとして「囚人のジレンマ」がある。情報的に隔離された状況の下では、共犯関係にある被疑者双方が最終的には自白に追い込まれる、転じて個々の最適な選択が全体として最適な選択とはならない状況を説明するモデルである。
従来のように企業自身とこれにかかわるステークホルダーの間に圧倒的な情報量の差があった時代であれば、全社に影響を及ぼすような基幹システムの構築においては、個別部門ないし個人が自分の裁量範囲で採択し得る最適解(自白に相当するミニマムリスクをもたらすもの)は「何もしない」ということであり、先送り作戦は実に理にかなった戦術であった。
時は「情報革命」時代。インターネット、特にブログの登場以降、情報発信が従来とは比較にならないほど自由になった。ここで、発信される情報の質を問うことはあまり意味がない。30年の時を経て繰り返された2度の取り付け騒ぎ??古くは電車内での“女子高生の会話”が引き金となったといわれる愛知県の某信金、そして電子メールから始まった九州の某地銀??を思い返してほしい。デマ(誤報)が現実を引き起こすこともあり得るのだ。これらの例では、顧客が預金の引き出しによって、リスクの軽減を図ろうとしたわけだが、同じことが企業のステークホルダーたち(株主・従業員・取引先など)にも当てはまる。
もはや彼らは情報的弱者ではない。彼らが提供するリソースに対して十分なリターンが得られない、もしくはリソース提供のリスクが高過ぎるということになれば、彼らはちゅうちょなくリソースの提供先を変更することだろう。
少なくとも短期的スパンでは、こうした状況下で企業が取り得る道は1つである。それは、地道にぜい肉をそぎ落とし収益力を上げていくこと……ではない。今日、企業がなすべきは、仮に収益力が低くても復活の余地があるのであれば、その姿をありのままに見せ、ハイリスク・ハイリターン指向のステークホルダー獲得を目指すことである。収益力中位にいるのであれば、ミドルリスク指向に訴えるため、明示的なデータを持ってハイリスクではないことを証明することなのである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.