こうして、紆余曲折を繰り返しながら、何とか1カ月間のヒアリング期間を終了してみると、A3用紙で100枚程度の業務フローと1000件近くの問題点を抽出することができた。ただし、前回第4回でもお話ししたとおり、これらは経営上の重要課題から個人の愚痴レベルまでさまざまな内容のものが含まれている。ここからはこれら1000件の問題点を、整理していかなくてはならない。この作業はスケジュールの都合もあったので、各チームのリーダー数名で集中的に行うことにした。作業の手順は以下のとおりだ。
例えば、発注業務のヒアリングでは、以下のような問題が抽出できた。
以前は注文先が仲卸一本だったので発注は非常に簡易だったが、現在は直接の取引先が増えてきており、発注のパターンも複雑になっている(部門長A)
発注ツール・パターンが多数ある(店長B)
発注締め切り時間や納期が、取引先によって異なるので、発注作業が複雑になる(アルバイト社員C)
発注ツール(EOS、FAX、電話)が複数あり、ある発注日における店舗の発注状況を一括で把握できない(バイヤーD)
発注ツール(EOS、FAX、電話)が複数あり、 スーパーバイザーは店舗の1日のトータルの発注量が見えないため、発注業務における店舗指導が行いづらい(スーパーバイザーE)
複数の発注ツールおよび投入経路があるため、商品の発注・納入状況が一括で把握できず、ダブり発注が起こることがある。これは売価変更(値引販売)につながる(チーフF)
バイヤーは、店の在庫が把握できないため、本部発注量を決めるために、いちいち店舗に問い合わせている(バイヤーG)
これらは、ヒアリングで集めた“生声”であるが、類似の問題が多々見られる。今回はこれら7つの課題を、以下のように3段階の因果関係でまとめてみた。
原因 |
発注パターン(投入方法、経路など含む)、発注ツール、取引先ごとの発注(納期、締め切り時間)の違いなどにより発注業務が複雑になっている |
結果 | 発注結果・状況の把握が難しい |
対応・問題認識 | ・店舗に発注数量をいちいち問い合わせする(バイヤー) ・店舗指導しづらい(SV) ・店舗発注担当者とバイヤーの間でダブり発注が生じている(最終的には、売価変更、在庫過剰につながる) |
こうして発注業務についての 7 個の類似した問題点を整理し、以下のような概念にまとめた。
タイトル |
発注業務の複雑化 |
内容 | 取扱品目・取引先の増加に加えて、システムの多様化により発注業務が複雑化している。その結果、発注者、SV、バイヤーが発注状況を把握できない状況にあり、SVによる店舗指導の困難になり、バイヤーとのダブり発注を引き起こしている。最終的には、在庫超過、売価変更、廃棄の原因になっている |
このような作業を繰り返すことで、現状業務分析で抽出した1000件の問題点は、最終的に10〜15件程度にまとめることができた。
業務分析を行っていくと、個別のヒアリングでは出てこない、企業全体にかかわる重要な問題点を発見できることがある。今回の業務分析でもそんな大きな発見があった。
この企業の業務は大きなサイクルでは、予算、MD計画、発注、入荷、陳列・販売、実績管理という流れになっている。今回、それぞれの担当者にヒアリングをしてみると、それぞれの業務の流れやそれぞれについての課題は抽出できたが、業務全体を1つのモデルで表現しようとすると、どうしてもうまくつながらなかった。それぞれの部署・あるいは担当者の業務がバラバラなのである。
例えば、月度の予算は経営企画部で対象月の1カ月前までに作成されるが、商品部で作成される月々の品揃え計画や販売計画は、調達先との関係上それ以前に決まってしまっているのだ。そのために、極端なことをいえば、月々の単品あるいはカテゴリごとの販売計画の合計が月度の予算に満たないといったことが起こっているのだ。
また、週次の日々の販売計画と日々の発注計画の間でも、このような不整合が発生し、店舗ごとの日々の発注数量が販売計画に満たないときさえあった。しかも、そのような計画になっていることを把握するのにも、非常に手間が掛かることが判明した。
こういった業務間連携の問題点は、業務を全体から見直した場合によって初めて発見できる。そして、その原因はさまざまである。例えば、実際の作業量とあるべき手順にそもそもに矛盾があるため、あるべき手順で仕事を進めるのでは、実際の作業が間に合わない場合がある。また、組織間のコミュニケーションの悪さや、昔からの慣習だったりする場合などは、当事者同士で指摘するのは難しい。
この業務間連携の問題は、この事業の業務全体を貫く非常に重要な課題であったため、今回抽出したさまざまな問題点の中心に置くことにした。そして、単品管理や週次で管理サイクルの実現など、いくつかの主要な問題点と合わせて、今回の問題点の全体像を決めた。すなわち、「週次・単品レベルでの、予算から実績管理までの一環した業務サイクルの実現」と題して、週次・単品レベルでの予算作成、MD計画、発注、入荷、販売、実績管理が、一連の業務として相矛盾なく実行されるような流れを実現することとした。
また対象カテゴリについては、業務フローや課題について、当初予想していたほどの違いがなかったため、標準となるあるべき業務モデルを作成して、それを部分的に各カテゴリの特徴に合わせて修正していくこととした。
この作業を通してまとめた問題点は、約1カ月間かけて先方のプロジェクトメンバー、PM、現場担当者、現場管理職、経営会議と順次報告会をしていくことで、先方の承認を得ていった。問題点の優先度付けも、それぞれの報告会を通して決定していった。
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