部門のエゴによるデータ公開反対運動を回避せよシステム部門Q&A(31)(2/2 ページ)

» 2006年05月17日 12時00分 公開
[木暮 仁,@IT]
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部門事情による各論反対が多い

 では、どうして“過剰”なセキュリティ論者が多いのでしょうか。コンプライアンスの重視や個人情報保護が問題になっています。それらに適切に対処することは必要ですが、それだけの対策であれば、通常のデータウェアハウス的利用に差し支えるほどの「過剰」にはならないでしょう。

 むしろ、部門事情による反対が、セキュリティ対策の仮面をかぶっていることもあります。それで、必要な情報を必要なときに必要な形式で得られることには賛成だが、自部門のデータを他部門の人に見られるのはイヤだという、総論賛成・各論反対の意見が多く発生します。

自部門の欠点を指摘される

 痛くても痛くなくても他人に腹を探られたくはありません。まして、自部門の欠点を他部門には知られたくないものです。

 売り上げを伸ばすために、値下げ販売をすることがあります。それが大規模になる場合には本社営業統括部や担当役員の了承が必要であり、大阪支店はその承認を得て実施したのですが、あまり名誉なことではないので、他支店には知られたくありません。本社営業統括部も、ほかの支店がその状況を知ると、自支店でも値下げ販売をしたいといってくるだろうと心配します。

 そこで、販売数量は他支店や他部門にも見せるが、販売金額は該当支店と本社営業統括部だけが見ることができるようにしたいと主張します。

誤解をされる

 経理部門としては、生産工程別原価ではなく製品別原価も把握したいので、生産部門のデータ公開を求めます。営業部門としては納期の把握のために、工場での進ちょく状況を知りたいので、生産状況のデータ公開を要望します。

 ところが生産部門は、生産コストを下げるために類似加工をまとめて生産するなど複雑な工程管理をしており、生産実績システムや進ちょく管理システムのデータをそのまま他部門の人が見ると誤解をする危険があるので、公開したくないといいます。

 中にはもっともな理由もあるのですが、経理部門からロスが多いことを指摘されたり、営業部門から納期短縮の要求をされたりするのがイヤなので、あえて複雑なことを理由にしている場合もあります。

 強く公開を要求すると、生産部門は「誤解がないように、問い合わせに応じて、こちらで適切な帳票を作成する」といいます。一見サービス向上のように見えるのですが、実際に問い合わせると迷惑がったり、回答に時間がかかったりするので、自然に問い合わせをしなくなります。

各論反対に従ったら……

虫食いだらけのデータベースになる

 このような各論反対が多いと、ある製品のデータが欠落していて全製品のデータにはならないとか、原価の主要な項目が合計値だけで明細がないというような虫食いだらけのデータベースになり、実際には利用価値がないものになってしまいます。

バラバラなファイル群になる

 このような虫食い状態では、リレーショナルデータベースにしても、スター型インデックスのデータベースにするにしても、統合した形式にすると、nullデータが非常に多くなり、かえって使いにくいものになります。それで、製品群Aのファイル、製品群Bのファイルというようなバラバラなファイルが多くなります。まして、業務をまたがったデータベースにすることは不可能でしょう。これでは、利用されるにせよ、かなり限定した用途になってしまいます。

ではどうするか?

 過剰セキュリティ論にならず、各論反対も回避するにはどうすればよいでしょうか。申し訳ないのですが、私はすべてに通用する便利な銀の弾丸を持っていません。環境により、戦略を選択することになりましょう。

正攻法が成功すればよいのだが

 正攻法としては、次のようなステップになります。

・データウェアハウスの利点をPRする

 データウェアハウスが業務改善に役立つことや、基幹業務系システムが簡素化されることなどを地道にPRすることによって、データ公開とセキュリティ対策のバランスを明確にしましょう。また、先進企業の成功例、同業他社の動向などを紹介して、隣百姓的な心情に訴えるのが効果的でしょう。

・プロジェクトチームを編成する

 若い人は一般的にこのような利用に賛同するでしょうから、そのような人を各部門から集め、経営者に答申するプロジェクトチームを発足させます。そして、データ公開をオーソライズします。

・実現しやすい分野で効果を上げる

 オーソライズされたら、あまり反対も少なく費用を掛けずに実現できる分野で作成し、しかるべき成果を示すことにより、このような利用が重要であることを証明します。それを足掛かりにして対象を拡大します。

 この正攻法が成功するならば、それに越したことはありません。しかし、これが難しいのでご質問になったのでしょう。このような正攻法では、かえって過剰セキュティ論や各論反対が出現する危険もあります。

ゲリラ戦法も考えられる

 一般的に、事前に反対意見に対して説得するよりも、まず実施して、反対がなければそのまま推進し、反対があったらそこで調整をする方が簡単です。

 幸い(?)なことに、データウェアハウスに登録する元データは情報システム部門が持っていますし、内容も理解しています。そのデータのオーナーが業務部門あるいは取引先だという観念はあまり普及していません。ですから、情報システム部門がデータウェアハウスを構築しようとすれば、簡単に構築できます。


 当初から高価な並列プロセッサやDBMS(データベース管理システム)を導入する必要はありません。まずは適当なサーバとSQLでできる規模のものを構築すればよいのです。そして、このような利用形態に積極的なユーザー数人と情報システム部門が協力して、いくつかの成果を挙げます。それで機会を見てオーソライズするのです。

 これはゲリラ戦法ですが、当然ながらセキュリティ対策やデータの取り扱いに十分な考慮をしておくことが必要です。取り扱うデータは個人情報など社外的に責任のあるデータは避けるべきですし、事前に経営者の承認を得ておく必要があります。同じようなことを、第17回「健全なEUC推進に適した組織とは?」でも述べています。

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筆者プロフィール

木暮 仁(こぐれ ひとし)

東京生まれ。東京工業大学卒業。コスモ石油、コスモコンピュータセンター、東京経営短期大学教授を経て、現在フリー。情報関連資格は技術士(情報工学)、中小企業診断士、ITコーディネータ、システム監査など。経営と情報の関係につき、経営側・提供側・利用側からタテマエとホンネの双方からの検討に興味を持ち、執筆、講演、大学非常勤講師などをしている。著書は「教科書 情報と社会」(日科技連出版社)、「もうかる情報化、会社をつぶす情報化」(リックテレコム)など多数。http://www.kogures.com/hitoshi/にて、大学での授業テキストや講演の内容などを公開している


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